マダイ 

釣る

上の写真は,2000年8月13日に向島・干汐の波止で釣り上げた47cm。昼間の釣りで,手掘りのアナジャコにヒットしたものです。アナジャコはチヌの特効エサとして知られていますが,マダイもよく掛かります。手掘りのタイムシでも何度か狙ったことがありますが,ぶっこみ釣りの場合タイムシよりアナジャコに分があるような気がします。マダイはかぶせ釣りの対象魚でもありますが,波止からだと手の平級以上の型はまず期待できません。幼魚でも採ったり食べたりする人はいるもので,以前聞いた話では,稚魚を放流する漁協の船を追いかけて,放流する先から網で採る悪質な釣り人(?)もいる,とのこと。何を考えているんでしょうかねえ。

食べる

ぼくは,あらゆる魚の中でマダイが一番好きです。特に好きなのはお造りと蒸し物。季節は春。言うまでもなく,天然ものでないとダメです。チヌ釣りをしているとたまにマダイがヒットしますが,天然物と養殖物(養魚場から逃げ出したやつ)とでは,見かけからして歴然と違います。一口で言うと,天然物は青い色,養殖物は黒い色。天然のマダイの美しさは,海水魚の王者の風格,としか言いようがないです。お造りは,皮つきのものが断然美味。

うちの近くの尾道に「旬彩」という魚料理の店があって,家族でよく行きます。もともと魚の卸をしている店だけあって新鮮な魚が食べられる(しかも懐石料理風で季節感たっぷり。行くたびに違う料理が出てくるのも嬉しい)のですが --- この店の一番の売りであるマダイを,食える日と食えない日があるのが非常に残念なのです。つまり,天然物のマダイが魚市場に入らない日は,出てこないわけ。代わりに養殖物でも出しとけよ,とは考えないのが店の良心というもの。その代わり,出てきたときのマダイのお造りはやっぱり最高です。自分で釣ったマダイを刺身にしても,なかなかプロのような味にならないのが不思議です。もっとも,マダイの場合は特に「大きさ」が問題です。20cmに満たない幼魚は,同じマダイでも全然美味しくないです。江戸前の寿司で出てくるシンコや,樽に入った小鯛の甘酢漬けも同じ。マダイの幼魚は投げ釣りではよく釣れるので,南蛮漬けなどの調理法もよく本に出ていますが,どれもこれも,手の平級までの大きさのマダイの料理で,美味いと思ったものは一つもありません。また逆に,70〜80cmもあるようなマダイもいただけません。やっぱり「目の下一尺」くらいのが一番美味しいと思います。なお,部位で言うと,食通はたいてい「頬の肉」と言いますが,ぼくの一番好きなところは(刺身にしても他の調理方法にしても)腹骨をすき取った残りの部分(つまり内臓を包む腹部の肉),人間で言えば下腹部の肉です。蒸し物や焼き物の場合は,カマの肉も捨て難いものがあります。頬肉は確かに美味しいけど,ちょっとしか食べられないので。目玉はどうかと言えば,「最高にうまい」というようなもんじゃないと思いますけど。とにかくマダイは捨てるところがないので,身をきれいにほじくり出しながら食べて,食べ終わったら骨だけになっている(塩焼きの場合はその骨にもお茶を注いで飲む)という征服感もまた,カニにも通じるマダイの魅力です。

ついでに,チダイ(ハナダイ)とキダイ(レンコダイ)についても一言。これらは,姿形はタイであっても,味はマダイに比べるとかなり落ちます。結婚披露宴の折り詰めなどによく入っているタイの塩焼きはほとんど冷凍物のレンコダイですが,ああいう「タイもどき」ばっかり食べてりゃ,「タイなんか大して美味くもない」と思うのが当然でしょう。不幸なことです。

追記:先日,スーパーで「活きマダイ」という40cmくらいのやつ(もちろん養殖もの)を1,980円で買って来て,自分でさばいてみました。いやもう,何と言うか・・・人間で言うと「脂肪肝」とか「動脈硬化」という言葉がピッタリ。とにかく内臓にベットリ脂がついていて,三枚におろすと包丁がヌメヌメに・・・。少々洗剤つけたくらいじゃ落ちゃしない。食ってうまいとかまずいとか言う以前に,調理した本人がとても食う気になれませんでした。2,000円ドブに捨てたようなもんです。で,思いました。やっぱり養殖ものは食うもんじゃない,と。あのギトギトの感触が頭に残っていて,当分養殖のマダイは口に入れられそうにありません。