I ぶらり釣り行

● 著者 :大崎紀夫(おおさき・のりお)

 ● 出版社:朝日新聞社

 ● コメント:今回紹介した10冊のうち,本書だけは古本屋でないと手に入らない。この本を初めて手にしたのは,もう20年ほど前のことになる。当時,大学の釣りサークルでOBと合同合宿に行った。そのとき,OBの一人であった筆者の大崎紀夫氏が,我々学生にサイン入りでこの本を配ってくださった。朝日新聞社から出版されているので,あるいは新聞か雑誌の連載をまとめたものかもしれない。本書は,筆者とカメラマンが二人で日本中を釣り歩く紀行写真集。全編オールカラーの美しい風景写真と釣行記とから成る。筆者の専門は川や湖など淡水でのウキ釣りで,それも活き餌ではなくネリエで釣る。ヘラブナ釣りの延長,ということになる。釣果は必ずしも大漁ではないけれど,写真にも文章にも何とも言えない味わいがある。

そう言えば,NHKの「日本釣り紀行」を思い出した。個人的にはあの番組は好きだったが,一般の視聴者の評判はそうでもなかったらしい。釣り人に俳優やスポーツ選手などの著名人(つまりは素人)を起用していたため,まともに魚が釣れた回がほとんどなかったからだ。「釣り番組なのに,魚を釣り上げる場面がない」というのが,視聴者(の一部)の不満の理由だったようだ。まあ,初心者ならそういう感想を持つかもしれない。しかし,本当の釣り好きなら誰でも,「魚が釣れること」は釣りの楽しみの一部にすぎない,ということを知っている。本書を読むと,そのことがしみじみ実感できる。