H サカナと日本人

● 著者 :山内景樹(やまうち・かげき)

 ● 出版社:筑摩書房(ちくま新書)

 ● コメント:今回取り上げた本の中では,一番学術色が強い。本書は,一口で言うと日本の水産業,とりわけ養殖の歴史に関する本である。ハマチ,クルマエビなど6種類の魚を取り上げ,それらの魚が漁業の産業化の中でどう位置付けられてきたかが歴史的に,また生物学的に論じられている。たとえばクルマエビ。日本人によるエビの飽食が東アジアの国々で種々の問題を引き起こしていることはよく知られているが,筆者はエビが水産養殖技術と水産流通システムの発展に果たした役割,という観点から説明を展開する。こうした専門的解説に加えて,藤永元作という一人の研究者の情熱,エビ問屋と商社との蜜月関係など,読み物としての面白さも加味されている点で,単なる学術書以上の魅力を備えている。全体としては堅い印象を受けるが,水産養殖を媒介とした魚と人間の関わりが興味深く読める。