A 竿をかついで日本を歩く

● 著者 :かくまつとむ (鹿熊勤)

 ● 出版社:小学館

 ● コメント:本書は,日本各地のユニークな釣法のルポルタージュで,雑誌「BE-PAL」に連載された記事を再録したもの。釣り人に同行して筆者自身もその釣りにチャレンジしており,文章が臨場感に満ちている。本書の中には,かぶせ釣りも登場する。釣り人は,80歳近い漁師の大島文三さん。広島の地元テレビ局の釣り情報番組に何度か登場し,広島地方では「名人」として知られている。参考までに,大島老のかぶせ釣りは,このホームページで解説している「波止のかぶせ釣り」の方法とはかなり違っている(一番違うのは,船のかかり釣りなので竿を使わない(使う必要がない)という点)。もっとも,本書は単なる釣行記ではない。伝統釣法の起源,釣りと環境との関わり,釣り人の経歴や日常生活など,幅広い取材と豊富な文献知識に裏打ちされた,奥の深いルポに仕上がっている。なお,本書の「ヒガイと霞ヶ浦」の章で,筆者はブラックバス釣りに言及している。「今よりかなりの低次の資源量を持続するか,緩やかに消えていくのが正しく,その範囲内で静かに楽しむべき釣りだ」という立場を筆者は取る。釣りと魚のことを真剣に考える人なら,結局誰でもそういう結論に落ち着くんだろうな,とつくづく思う。--- そして筆者は言う。「バスで生計を立てることを非難するつもりは毛頭ないが,彼らがバスフィッシングの楽しさとバスの保護を主張するときの声は,気のせいかもしれないが,土建業者が『日本の景気浮揚のためにもっと公共工事を』と訴えるときと同じ節回しで聞こえてしまう」と。言い得て妙,というやつだろう --- この言葉が意味を持つためには,「土建業者が公共工事を増やそうとすることのどこが悪いのか?」という点に関する共通認識が必要だ,という点で。バス業界の人々に,あるいはバスフィッシングの中核をなす若者たちに,その認識はあるんだろうか。