B 私の釣魚大全

● 著者 :開高健(かいこう・たけし)

 ● 出版社:文藝春秋(文春文庫)

 ● コメント:当たり前のことだけど,プロの一流作家が書いた文章はやっぱり違いますねえ。---筆者はいわゆる釣りのプロではないけれど,「世界中を釣り歩いてルポを書き,それで生計を立てる」人であった。その境遇そのものがすでに,すべての釣り人の憧れなのだ。筆者は諏訪湖でワカサギを,瀬戸内でタイを,根釧原野でイトウを,バイエルンの湖でカワカマスを釣り上げる。釣行記中には,「釣魚大全」のアイザック・ウォルトン,井伏鱒二,遠藤周作,野坂昭如・・・いろんな人たちが出てくる。味覚の表現も秀逸。「できたてのホヤホヤを大皿にのせ,ショウガ醤油をそえて,だされる。背ビレ,胸ビレ,腹ビレをとってから,しっぽのほうに箸を入れてグイと起すと,ウロコが一枚の鎧となってガバッと,とれる,もう一つグイと起すと,肉が一枚の鎧となって,これまたガバッと,とれる。それをショウガ醤油にちょっとつけて頬張ったら,ああ,コトバが白い肉といっしょにのどへすべってしまう」 --- これは鯛の浜焼きの描写。当代の「食エッセイスト」と言えば,ふつう誰の名前が浮かぶだろうか?東海林さだお?う〜ん。好きだけど,あれは2〜3時間で全部読み終わるからなあ。ぼくは全然読書家ではなく,ふだんはあまり本を読まないんですけど,自分で釣った魚をつつきながらちびちびウイスキーなど飲んだりするときは,本書のような本をちょっとずつ読むのです。そういう特別な時しか読まないので,これを全部読み終えるのに半年くらいかかったのです。本書は,「オーパ!」しか読んだことのない人にぜひお勧めしたい傑作なのです。