釣り日記・特別編(2002年4月23日)

 〜NHK取材釣行〜

今回の取材は「広島再発見」という一般向けのコーナーなので,魚が釣れることは絶対条件ではない。

が,テレビ的には「魚が釣れている場面」があった方がいいのは言うまでもない。

魚はやっぱり見栄えのいいチヌか,もしくは大型のコブダイじゃないとなあ。

ところが困ったことが1つ。今回の取材の場所は,あろうことか天神波止なのだった。

番組の趣旨から考えて当たり前なわけだが,この時期の天神波止は過去に目ぼしい実績がない。

あと1週間遅ければ,チヌも大いに期待できるが・・・

過去の天神波止への釣行記録をめくってみる。

はっきり言って,この時期にはほとんどマトモな釣果は上がっていない。

 

<2001年> 4月28日−チヌ3尾・ハゲ2尾。それ以前は釣行せず。

<2000年> 4月8日−ボウズ。4月30日−ハゲ1尾。

<1999年> 4月中は釣行せず。5月2日にアイナメ2尾。3日にハゲ7尾。

<1998年> 4月19日(師匠の命日)−ボウズ。

<1997年> 4月19日に師匠が亡くなったので,それ以後釣行せず。

<1996年> 4月21日−アイナメ1尾。4月30日−ハゲ3尾・ウミタナゴ1尾。

<1995年> 4月24日−ハゲ2尾。4月28日−ハゲ3尾・コブダイ1尾。

 

この波止でチヌが釣れ始めるのは例年4月末ごろからで,それ以前には全然釣れてない。

このデータから考えると,4月23日にチヌを釣り上げるのは至難の業と言える。

先日(4月20日)に早朝1時間ほど試し釣りをしたときも,フグの当たりしかなかった。

もう神に祈るしかないが,神に祈っていい結果が出たためしがない。

 

ただ,万一天神波止でダメなときは別の場所で撮影してもいい,と言われたのが唯一の救いだった。

「別の場所」の第1候補は,能登原波止。井原のヤスさん・陽二さんから,かなりの釣果を上げた

という報告を先日もらっている。フェンスができて以来釣りができる波止ではなくなったと思って

いたが,20日に偶然会った知り合いの記者・Yさんから,そのフェンスが最近移動したと聞いた。

波止付け根にあったフェンスが,L字の曲がり角の手前にまで後退した,という。

それなら釣り座は確保できる。

駐車スペースも近いので,保険として考えるならこの波止だろう。

 

当日は,潮が悪いので無理を言って,朝6時に現地で落ち合うことにした。

若潮で,満潮が朝の8時ごろ。

この潮から考えて,チャンスは早朝から7時半ごろまでだろう。

「師匠に教えてもらったかぶせ釣りで,今はこんなに楽しい釣り人生を送っています」

という番組の趣旨からして,今回だけは「まあ釣れんでもええか」というわけにはいかない。

絶対釣りたい。いや,釣らねばならん。

うちの常連さんたちからも「楽しみに待っています」と言われているのだ。

ボウズではシャレにならん。

日頃プレッシャーが少ない生活を送っているので,いろんな重圧をことさらに感じる。

受験生の心境と言うか,資金繰りに窮して競馬場に立つ中小企業の社長の心境と言うか・・・

 

 

そして,4月23日の朝。

時に目覚まし時計をセットしておいたが,4時ごろ目が覚めた。

フトンの中であれこれ考えながら,4時50分に起床。

シャツの上にトレーナーを着る。

その上に,レジャックス東尾道店で買った980円の釣り用ジャケットを羽織る。

アタック尾道店で買った500円の作業ズボンをはき,髪を梳かし,ヒゲを剃る。

家を出る。曇り空で,風はけっこうある。

コンビニで買ったパンをかじりながら,田島へ車を走らせる。

景気づけに音楽を聴く。テープは中島みゆき。流れる曲は「地上の星」・・・

 

5時半前に天神波止に到着。幸い,風は収まっている。先端にサビキ釣りの先客が一人。

荷物を車から降ろし,釣り座へ運んだ。

今日の釣り座は,波止の真ん中あたり。師匠の「指定席」だったところだ。

竿は,使い慣れたニッシン・ブラックチヌ本調子1.5m。

リールは,先週タイム松永店の特売(2,980円)で買ったばかりの

ダイワ・スーパーチヌジャッカーSSの2002年モデル。

メタリックグレーのカッコいい色になっている。

これに道糸2号・サルカン・ハリス1.7号を2m・チヌバリ3号という仕掛け。

この波止はコブダイは少ないので,この仕掛けを切られることはまずない。

 

5時半ごろ,釣りを開始。ちょうど第1投を終えた頃,取材スタッフが到着。

ディレクター・カメラマンの女性・照明の男性の3人の方々と挨拶を交わす。

車を運転してきた方を含めて,総勢4人。

まず,トレーナーの下に小さなマイクをセットされた。

声を拾うらしいが,「あー」とか「おー」とかいう声がTVで流れたら恥ずかしい。

なるべく声は出さんようにしよう,と思った。

大きなカメラをかついだカメラマンさんが,釣りをしているすぐ横に立つ。その後ろには照明さん。

釣り座の幅が狭いので,カメラを三脚に乗せることができないらしい。

重たいカメラをかついで長時間撮影してもらうのは気の毒なので,何とか早く決着をつけたい。

チヌを1枚釣ったらOKが出るかも。

間近でカメラを回されながら釣るのは初めてなので,平常心を保つのは難しい・・・

 

もっとも今日は,最初は平常心があろうとなかろうと関係なかった。

なにしろ,当たりが全然ない。

魚の活性が高い日は,朝一番から当たりが出る。

ところが今日は,空が完全に明るくなってもフグの当たりさえない。

カメラはずっと竿先を向いていて,魚の当たりを待っている。

フグでも何でも当たりさえしたら絵になるのに・・・

このときは,フグでもええけん当たってくれ〜!と思った。

かぶせ釣り師がフグの当たりを期待するようになってはオシマイである。

 

1時間近くが経過した6時20分。サシエの着底直後に最初の当たり。

手元にコツッ!ときた。

大きな魚ではないが,とにかく何か掛かった。

テレビ写りを意識して,普段よりゆっくりリールを巻く。

24cmのアイナメだった。

竿先の動きは撮れたか?と尋ねたが,カメラマンさんはようわからんと言う。

竿先が静止した状態ではなく着底した直後の当たりだったせいだろう。

その後,ちょっとずつ魚の気配が出始めた。

時々フグの当たり。さらにハゲ。ただし頻繁ではなく,なかなかハリに乗らない。

 

しかし今日は,フグの嵐だった3日前に比べると全然状況が違う。

過去の経験から言って,こういうふうに「時々当たりが出る」という日は,チヌの釣れる確率が高い。

曇天無風で,早朝の満潮前という好時合い。

いかにも釣れそうな予感がしてきた。

というか,この状況で釣れなんだら今日はどこへ行ってもダメ!

これから30分ほどが勝負!!!

 

7時前ごろ,思いっきり遠投したサシエに何かがヒット!

合わせる。乗った。手ごたえ十分!

こりゃチヌじゃ!40cmくらいあるかも。

よっしゃ〜(マイクがあるので声には出さない)!

 

半分くらい巻き上げたところで,バラシ!!!

 

・・・・・・・

いやもうこのときはワシ,全身から力が抜けてしまいましたよ。

本日唯一かもしれんチヌをバラして,番組がパーになったら泣くに泣けん。

しかも仕掛けを上げてみると,ハリ外れではなくてハリス切れ。

1.7号を切るほどの大物じゃなかったので,チモトに傷がついていたらしい。

 

事の深刻さがわかってないらしく,取材スタッフはわりと平然としている。

「惜しかったですね〜」--- そりゃ惜しいわ!

 

・・・その後当たりがなくなった。

タイムリミットが迫ってきた7時20分ごろ,今度は足元近くでなんかヒット。

フワフワきたのでカサゴかと思ったが,22cmのチヌ

一応カメラには収めたが,これじゃちょっとなあ・・・

釣り番組じゃないわけだから,一般視聴者にはこれでもええんかもしらんけど。

うちの常連さんたちには,こんな魚じゃ恥ずかしゅーて見せられんわ!

 

 

ということで,8時前に天神波止を撤収。車で10分ほどの能登原波止へ移動した。

現地に着いてみると,フェンスの手前には数人の釣り人が並んでいる。

釣り座があるかどうか・・・と心配しながら荷物を運ぶ。

先客は全員サビキかギャング仕掛けのハゲ狙い。けっこう上がっているらしい。

釣り人の間に入ると撮影が難しそうなので,一番端っこの波止付け根寄りに釣り座を構えた。

 

ここで釣りを始めたのが8時半ごろ。もう下げ潮に入っている。

これから1時間ほどで釣れんと,あとは期待できそうにない。

そうなると,どうしても絵になる魚にこだわるとしたら,午後の満ち上がりにかけるか?

でも3時ごろにならんと潮が満ちて来んし,出発が遅れたら広島まで帰るスタッフに悪いしなあ。

納得できんけど,しょうがないか・・・

 

さっきと同じようにカメラマンと照明さんがすぐ横に立った状態で,釣り開始。

タックルは,とりあえずさっき使ったやつ。

コブダイに備えて,1.8mイカダ竿に道糸4号・ハリス3号・チヌバリ4号の太仕掛けも準備してある。

10分後,最初の当たり。

最初はそうでもないかと思ったが,いきなり右へ走った。

右にはカメラマンさんがいるので,波止の上を移動するのは無理っぽい。

道糸が波止に沿ってどんどん横へ出ていく。

どうにか底は切れたが,なかなか寄って来ない。

魚はもちろんコブダイ。

ランキングサイズだろう。

しかしあいにくタックルは,1.5mの竿に1.7号のハリス。

これで捕れたら奇跡に近い。

でも・・・どうにか・・・徐々に寄ってきた。

もしかしたらいけるか?

半分ぐらい上がってきた。

ここで・・・バラシ!

 

またかい〜!もう知らんでわしゃ!

・・・もっとも,今回は完全に自分が悪い。

コブダイが多いことは井原のヤスさんが釣ったときのレポートでわかっとったのに・・・

最初から太い方の仕掛けで釣るべきじゃった〜!

 

取材のスタッフからは,今度はマジな声が聞こえてきた。

「今のは大きかったですねえ」

「もう1回あの魚を掛けてください」

そううまいこといきゃええけど・・・

 

竿を替えて2投目。

また当たり。

「コブ!」--- 思わず声が出てしまいました。

今度は絶対捕っちゃる!

3号ハリスに替えたので,少々の型ならイケる。

こないだ小用地で釣ったやつと同じくらいのサイズか?

ここは小用地ほど根が荒くなさそうなので,何とかなりそう。

カメラマンさんもさっきのことがあるので,今回は左に立ってくれていた。

魚と一緒に3mほど右へ移動して,ゆっくりリールを巻く。

1分以上かかったかも。

魚が浮いてきた。

 

オッケー。予想どおりのサイズ。

スタッフに落としダモを持って来てもらって,すくい上げる。

このときはさすがに,どよめきが起こった。

取材スタッフの皆さんはもちろん,波止で釣っていた常連さんも

「こんな大きいのは見たことがない」と言っていた。

検寸。62cm

うちのHPのランキングで言うと大したことはないが,

このあたりで釣れるコブダイとしてはかなりデカい。

例年60cmオーバーは年に2,3尾くらいしか釣れないことを考えると,

取材の日にこのサイズが釣れたのはラッキーだった。  

 

 

ところでこのコブダイ,口の端に掛かったハリを外そうとして驚愕の事実が判明!

口の中に,さっきバラしたときのハリがハリス(数cm)付きで刺さっている。

さっきあれだけ暴れて逃げたヤツが,またすぐヒットしたわけだ。

「逃がした魚を釣り上げてください」と取材スタッフさんの言った言葉が,

そのまま実現したことになる。

しかしコブダイ君,おまえバカじゃろ?ちょっとは学習せいよ。

 

今回,わかったことが2つある。

1つ目。コブダイはバラしたやつがすぐヒットする。

実はこういう経験は前にも何度かあって,巻き上げ途中でバラした魚と同じくらい

のがすぐ当たることがよくあった。そのときは同じ魚かどうか確信が持てなかったが,

これで証明された。

2つ目。ノドの奥にハリが刺さった場合,引っ張り合いでハリスが切れるというよりも,

コブダイの口の端(歯)にこすれて切れるらしい。取り込めたときは(ハリスが太い

せいもあるが)ハリがクチビルに掛かっていたのが幸いした。

 

30分もたたないうちに目的が達成できたので,能登原は即撤収。

コブダイは当然リリース。

陸に上げて数分くらい写真撮影したりスタッフに触られたりしていたので

海に放り込んでしばらくはプカプカ浮かんで流されていたが,2〜3分後には

体を反転させて海へ潜っていった。

   

結局,天神波止で2時間半,能登原波止で20分くらい。

釣りの時間としては短かったが,どうにか取材が成立する程度には釣れた。

あのバラしたチヌさえ釣れとったら,パーフェクトじゃったのに・・・

まあ「釣り番組」じゃないし,釣りの場面が出てくるのはせいぜい半分ぐらいだろう。

 

しかし実は,一番悔しいことはこの後に待っていた。

撮影の都合で午後2時ごろにまた天神波止へ戻ったときのこと。

雨は降り続いていて,釣り人は誰もいない。

潮は,ほとんど干潮くらい。

ディレクターさんが「ハゲが泳いでますね」と言う。

見ると,波止付け根近くの港内側の水面下に,うじゃうじゃハゲが見える。

メスを追いかけるオスもいて,産卵活動に入っているらしい。

サイズはどれも良型で,この波止でこれだけのハゲの群泳を見るのは初めてだった。

魚がたくさん居着いているのがわかったのは嬉しいが,その時は当然思いましたよ。

「今,竿を出せたらなあ・・・」

メスを追っかけとるオスは無理としても,まだ悠然と泳いどる連中もいっぱいおる。

カキを撒いたら,群がってくるんじゃなかろうか。

朝はほとんど当たりがなかったのに・・・

 

というわけで私,オフ会以降は天神波止に通ってみようと思うのです。

 

 

<追記>

取材スタッフの皆さんは,「今回は釣り番組みたいになりそうですね」と言っていました。

納得のいく取材をしてもらえて,こちらもひと安心。

この取材が成功したのは,ひとえに井原のヤスさん・陽二さんの実釣レポートのおかげです。

ありがとうございました!

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