2003/07/23 up 

NHKテレビ取材(2003年7月22日)レポート

 


 

数日前,以前渡船でお世話になった瀬戸田の新畑(しんばた)さんから電話をもらった。

NHKの「お好みワイドひろしま」の取材に協力してほしい,とのこと。

この番組に出るのは,これが3度目になる。

放送は7月22日の夕方5時過ぎから(生放送)。

場所は,瀬戸田のサンセットビーチ

瀬戸田町を紹介する特集番組の中で,「瀬戸田では釣りも楽しめる」とアピールするのだそうだ。

今回の企画はちょっと変わっている。

ふかせ釣り・ダンゴ釣り・落とし込み釣り・かぶせ釣りの4種類の釣り師を集めて,

同じ釣り場で並んで竿を出し,誰が一番釣れるかを競う「釣り合戦」を行うという。

しかも,ターゲットはチヌ

「生放送でチヌを釣る」という都合のいい話がそうそう成功するとは思えない。

企画はNHKが出してきたようで,新畑さんも「放送中に釣るのはまず無理でしょう」と言う。

そこで,番組が始まる前に各自好きな場所でチヌを釣っておこう,ということになった。

この日はあいにく満潮が朝の4時ごろで,その前後しかチャンスはなさそう。

で,「垂水港(取材場所の隣)に朝の3時半に集合」というとんでもないスケジュールとなった。

 

前夜は,酒も控えて10時に就寝。

目覚めたのが夜中の2時半。

自宅近くのコンビニで食糧を買い,瀬戸田へ車を走らせる。

天気は曇りのようで,幸い降水確率は低い。

ギラギラの日差しの下で一日中竿を出すような体力は,既にない。

できたら朝一番でチヌを釣って,昼間は砂浜に寝っころがって休みたい。

もっとも,この時期にかぶせ釣りでチヌを釣ったことはほとんどなく,たまたまテレビ取材の日に

運良くチヌが釣れるという可能性はまずゼロに等しい。

唯一の希望は,新畑さんがイカダに渡してくれることになっていることだ。

ダンゴではチヌが釣れている,という。

 

3時半,港に到着。

全員集合ではなく,落とし込み釣りの人と二人で別々の場所へ渡してもらえるらしい。

その落とし込み釣り師さんは・・・なんと,あの有名な「夢二尺」の藤原組長さん

顔写真はしょっちゅう雑誌などで拝見しているが,実際に会うのは初めて。

後で聞いて知ったが,今日は自分を除いて錚々たるメンバーが集まっていた。

組長さんと二人で新畑さんの渡船に乗り,行程30分ほどの釣り場へ。

組長さんは大島の波止へ行くということで,こちらは先にイカダへ降ろしてもらった。

場所は全然知らないところで,伯方島か大島の近くと思われる。

まだ薄暗く釣りができる状態ではないので,クーラーから取り出したパンをかじりつつ

夜明けを待つ。5時を回ってようやく竿が出せる明るさになってきた。

 

 

このイカダはタタミ2〜3畳分くらいの広さで,釣りの定員は1名だろう。

もともと養殖イカダだったが使わなくなったものだという。

目の前数十メートルほどのところに,養殖イカダが浮かんでいる。

このイカダの上で毎朝魚にエサをやるので,その時間帯がチャンスらしい。

イカダで釣るのは久しぶりだ。見た感じ下は砂地のようなので,コブダイはおるまい。

1.8mイカダ竿に道糸3号・ハリス2号・チヌバリ3号の仕掛けを選択した。

潮は,かなり速く沖へ向けて流れている。

第1投。サシエは数m流されるが,着底しないほどではない。

水深は7〜8mくらいで,思ったより浅い。

開始早々に当たりがあり,アナゴが釣れた。

しかしその後はエサ取りの当たりもなく,時間が過ぎていく。

6時ごろ,潮が緩んだ。

ちょうどその頃,目の前の養殖イカダに船が着いて,エサを撒き始めた。

よっしゃ!今がチャンス!この時間帯で釣れなんだら,今日はもうアウト!

 

・・・しかし,魚の反応はなし。

しばらくして,竿をあおったときズシッと重みが伝わって,食べごろサイズのマダコが釣れた。

さらに,明確な当たりがきたが,釣れたのはリリースサイズのコブダイ

一応,釣れた魚は全部スカリに入れておいたが,結局それ以外は何の当たりもないまま

今度は逆方向に猛烈に速い潮が流れ出してギブアップ。

 

 

8時前ごろ,新畑さんが組長さんと一緒に迎えにきた。

あちらは,30cm級のチヌを1枚ゲットしていた。

最初に貝を使ったのが失敗で,カニを使っていたらもっと釣れていた,とのこと。

イカダの方はこれ以上粘っても見込みはなさそうなので,港へ戻ることにした。

帰り支度をしていたら,新畑さんの携帯が鳴った。

大三島の瀬戸港で竿を出していたふかせ釣り師さんが,45cm級のマダイを釣ったとのこと。

船を回してそのマダイを受け取り,8時半ごろ垂水港へ戻った。


 

 

実は当日まで,こんなに真剣な番組とは思っていなかった。

釣りがメインの番組じゃないし,地元の釣り人が集まるんじゃろう,くらいに考えていた。

それが,釣り師はセミプロみたいな人ばっかりで,落とし込みにはチヌ,ふかせにはマダイが

既に釣れている。ふかせ釣りは,たぶんこの後もチヌが釣れるだろう。

ダンゴ釣りの人は別の場所で釣っていると思うが,ダンゴでボウズはまずあり得ない。

そうなると,かぶせ釣りの方もなんか魚を見せねば。

当然最初に頭に浮かぶのはコブダイだが,この点はちょっと楽観していた。

取材場所となるであろうサンセットビーチ左手(垂水港の隣)の波止は,形状からして

コブダイなら釣れそうな感じがする。放送時間の夕方5時ごろは満潮に当たるし,

生放送でコブダイとのやり取りを披露できる確率はかなり高い,と踏んでいた。

これが,この日最大の誤算であったのだった。

 

そういうわけで,コブダイはいつでも釣れる。

それより,チヌ釣りバトルであるからチヌを1枚釣っておきたい。

しかし・・・この時期にこの付近でチヌが狙える釣り場が思いつかん。

干潮が午前11時ごろなので,潮も悪い。

瀬戸田高校前の波止は,この潮ではまず期待薄。

悩んだ末,生名島で勝負をかけることにした。

あそこなら,チヌは無理でもサンバソウが釣れるかも。

30cm近いのが釣れれば,絵になるだろう。

 

9時のフェリーに乗り,生名島の小さい波止へ。

地元の人が一人竿を出していたがまもなく帰り,一人で波止を占領して釣る。

内向き中央よりやや先端寄りで,9時15分ごろから釣り開始。

干潮まで1時間半ほどで,潮はかなり下げているが,動きは悪くない。

サシエはどうにか着底するが,釣れるのはギザミ・ササノハベラ・ホンベラ・・・

辛抱できず,先端に移動して,払い出す潮に乗せて遠投に切り替えた。

こちらもエサ取りの当たりが散発的に来る中,10時半ごろ魚がヒット!

手ごたえは,チヌっぽい。しかし,半分巻き上げたところでハリ外れ!

あちゃ〜!!!今のは・・・チヌじゃったかもしれんのに・・・

それからしばらくして,再びヒット!よっしゃ,今度こそ!

しか〜し!またしてもハリ外れ!

 

・・・目の前真っ暗ですよ,ほんまに。

ここで切り上げて因島の消防署前でコブダイを調達する,というのが,

後から考えたらベストの選択だった。しかし,なかなかふんぎりがつかず,

結局この波止で1時のフェリーまで釣り続けた。

昼食もそこそこに場所を替えながらサシエの投入を繰り返し,

12時過ぎにようやく足元でサンバソウをゲット!でも,22〜23cmくらい。

これじゃ,絵にならん!

そして,納竿間際。また足元で魚がヒット。今度は手ごたえあり!

見えてきた魚は,27〜28cmくらいのサンバソウ。

よっしゃ,これを取ったらノルマ達成!

ところが,水面でハリが外れてバラシ!

うお〜!!!

 

新畑さんからは「今はかぶせ釣りでは魚は釣れん時期でしょうから,

放送でもそう説明してください」と言われてはいた。

そうは言うても,テレビに出るからにはエエとこ見せたいのが人情。

結局,ザコばっかりではあるが,ギザミ・サンバソウ・アイナメ・カサゴほか

この波止で釣れた魚をひとそろい生かして持ち帰ることにした。

型がだめなら,「いろんな魚が釣れました」で勘弁してくれ,というわけで。

 

 

1時半に,釣り師さんたちは全員集合してNHKのクルーと合流。

組長さんは,驚いたことに垂水港中の落とし込み釣り40cm級のチヌ

もう1枚釣り上げていた。

ふかせのお二人は,結局チヌは釣れなかったとのこと。

この人たちは「福山愛釣会」(愛潮じゃったかな?)のメンバーで,

トーナメントにも参加して賞を取るほどの腕前とのこと。

ダンゴ釣りの人はイケノハタさんという人で,料理屋のご主人だそうだ。

後で見せてもらったが,腕前はさすが。

ダンゴの釣り師さんは今まで大勢見てきたが,この方は釣りの動作が美しいて

ムダがなく,一目で「名人」とわかる。

今日は30cm弱が最大とは言え,8枚のチヌを釣ってきたという。


 

NHKのスタッフに挨拶して,全員で取材の場所へ移動。

あれ,行き先が違う・・・

釣り場は,予想とは違って,サンセットビーチ右手の砂浜から伸びる波止の方だった。

ここは海水浴場の一部で,波止の上を海水浴客が往来している。

まさか,こんなトコで・・・

釣り師は全員,「向こう(左手)の波止なら釣れるかもしれんのに」と言っている。

しかし,番組のほかのコーナーの構成と波止のロケーションから考えて,この波止で

釣りをすることに決まっていたのだそうだ。それ,はよ教えといてくれ〜!

 

 

波止を歩いてみると,かぶせ釣りで魚が釣れそうな雰囲気は全くない。

皆さん試し釣りをしているが,ダンゴにもふかせにも何の反応もないという。

それはそうと,マキエのことは大丈夫なのか?

歩きながらNHKのスタッフに質問してみた。

マキエを打っとるとこ,テレビに出してもええんですか?

帰ってきた返事。「え?何か問題あるんですか?」

おいおい,あんたら。大丈夫かいな。

制作者が釣りには詳しくなく,そのへんまで頭が回らなかったらしい。

この人たちのレベルがどのくらいかと言うと,スカリの中のカサゴを見せて「この魚の名前,

わかります?」と聞いたら,女性アナが「ボラですか?」と答えた,というくらいのものである。

広島県のマキエ規制強化の話してしてあげたら,「新畑さんと相談してみます」だそうだ。

 

そして,相談の結果。

ふかせ釣りでマキエを打つ場面は映さない。

用意していたネームプレート(釣法と名前が入った札)は使わない。

当初「ダンゴ釣り」(または「バクダン釣り」として紹介するはずだったのは,

名前がまずいということで急遽NHKと新畑さんが相談し,「ねりえ釣り」に変更。

そんな用語,知らんわ!

 

3時ごろいったん開放されたので,汗だくのシャツを脱いで海水浴場のシャワーを浴びる。

着替えは持って来てあるが,ふだんの服しかない。

ほかの釣り師さんは,なぜか(当然か?)全員釣り用のベストを着用している。

みんな,この暑いのになんであんな格好するんかな〜。

なんか,一人だけ地元のおっさんみたいやんかワシ!

 

4時ごろから,リハーサルをした。

「いや〜,かぶせ釣りは今シーズンオフですからねえ」と言ったら,

本番ではその言葉は出さないでくれ,という。

「シーズンオフなのに無理やり釣りをさせたのか?」と言われたら困るからだろう。

しかし,全員で並んで「今日釣れた一番大きな魚」を見せ合う,というような場面があるとは。

そんなんなら,何をさておいても因島で50〜60cmくらいのコブダイを調達しとくんじゃったわ!

釣れた魚の数だけから言うたら,一番多いはずじゃけどなあ・・・

 

本番は,何ということもなく終わった。

皆さんの釣技は,さすがの一言だった。

ただ,魚の反応は全くなかった。エサ取りもおらず。

ダンゴやふかせであれだけマキエをしても釣れんのに,かぶせで釣れてたまるか!

しかし組長さんは,そんな中でも食べごろサイズのカサゴを釣り上げていた。

釣り人へのインタビューは一人30秒くらいで終わり,最後に「結果発表」となった。

 

ダンゴ釣りのイケノハタさん,チヌ8枚。最大は27〜28cmくらい。

ふかせ釣りのお二人,45cmのマダイ。

結局タコをぶらさげてテレビに映ったわたくし。

そして,文句なしの優勝者・40cmを含むチヌ2枚を釣り上げた藤原組長さん。

 

このあと釣果をその場で調理して食べるという趣向で,バーベキューコンロで塩焼きに

したチヌを食べてみたが,あんまり美味くなかった。


 

今回の取材では,個人的にはいろんな誤算があってちょっと恥ずかしかったが,

違うジャンルの名手の皆さんの釣りを見られたのは収穫だった。

ただ,一言で言うと,「この人たちと自分とは住む世界が違う」とつくづく感じた。

組長さんの竹竿は10万円クラスだそうだ。

前日まで大阪の釣り大会に参加していて,この取材の翌日もまた釣行するという。

ふかせ釣りの皆さんもトーナメントで腕を競っているらしく,釣り人としての釣りに

対する接し型のレベルが違うというか・・・

サンデーアングラーの自分に引け目を感じることは全然ないけれど,

釣り師としてのメンタリティーの違いを強く感じた。

今回参加された他の皆さんは,自分では釣った魚(チヌ)は食べないという。

純粋に釣りの面白さに惹かれているわけだ。

われわれシロウトの釣りは「生活の中の釣り」であって,釣った魚を食べるのは

当然であり,そのためにできればいろんな魚が釣れる方が嬉しい。

遠征して大物を狙うとか,大会で優勝するとかには,ぼくは全然興味がない。

そういう意味では,かぶせ釣りがずっとこのままマイナーな釣法であってくれる方が

ありがたいし,今回魚が釣れなかったのも結果的にはよかったかも,という気が

しないでもない。まあ,悔しいっちゃ悔しいけどね。