2013/3/24 up

大人の英文法−027  時制の一致の例外 

 

この学習項目は,多くの学習者(および指導者)が誤解しているものです。

たとえば,文法問題集などでこんな問いをよく見かけます。

(問) (    )内の動詞を正しい形に直しなさい。

The teacher said that light (travel) faster than sound.

(先生は,光は音よりも速く進むと言った)

出題者が想定した正解は travels(現在形)で,次のように説明しようとしています。

主節の動詞は過去形(said)だが,この文では従属節の動詞は現在形(travels)にする。

なぜなら,「普遍の真理や一般的事実は時制の一致を受けない」というルールがある

からだ。

「時制の一致の例外」とは,このようなものを言います。


 

多くの学習者が学校で上記のような説明を受け,上の文では traveled(過去形)は

使えない,と思い込んでいます(教師の中にもそういう人が大勢いるはずです)。

しかし,上の文では traveled も使えます。ただし話し手の意識が違います。

(a) The teacher said that light travels faster than sound.

(b) The teacher said that light traveled faster than sound.

両者の違いを説明すると,次のようになります。

(a)の話し手は,従属節で表された命題(「光は音よりも速く進む」)が真である

考えています。一方(b)の話し手は,その命題の真偽の判断を保留したままで,

「先生」の言葉をそのまま伝達するという意識でこの文を発しています。

わかりやすく言えば,こういうことです。

(a)の話し手の意識=「光は音よりも速く進む」と先生は言った。そして自分は

    それが正しい事実だと考えている。

(b)の話し手の意識=「光は音よりも速く進む」と先生は言った。ただし自分は

    それが正しいかどうかは知らない。

つまり,時制の一致をさせるかさせないかは,従属節の内容が「普遍の真理」

だとか「一般的事実」だとかによって決まるのではなく,話し手がその内容を

「正しいこと」としてとらえているかどうかによって決まるのです。

次の2つの文と比べるとわかりやすいでしょう。

(c) The teacher said that sound travels faster than light.

(d) The teacher said that sound traveled faster than light.

    (音は光より速く進む,と先生は言った)

この場合も(c)(d)の両方が可能です。「音は光より速く進む」は事実ではありません。

しかし話し手が「先生の言うことだから正しいはずだ」と考えていれば,(c)のように

現在形を使って表すことになります。 


以上の説明は「文法オタク」向けですが,実際のコミュニケーションではしばしば

時制の一致を機械的に適用するということを知っておくとよいでしょう。

(e) Naoko said she was going to America.

(f) Naoko said she is going to America.

    (アメリカへ行く予定だとナオコは言った)

このような場合,学校英語では次のように説明するのが普通です。

(e)の話し手はナオコが現在もアメリカへ行く予定であるかどうかを知らない(あるいは語って

いない)。(f)の話し手はナオコが現在でもアメリカへ行く予定であると知っている(あるいは

ナオコはまだアメリカへ出発していない)。

その説明も間違いではありませんが,上の(c)(d)と同じように考える方が明快です。

(e)の話し手は「ナオコはアメリカへ行く予定だ」という命題が真であるか偽であるかの

判断を回避して,ナオコの言葉を右から左へ伝えようとしています。一方(f)の話し手は,

「ナオコはアメリカへ行く予定だ」という命題が真だと考えています。

ただし実際には,真偽の判断をいちいち行うのは煩わしいので,時制の一致を機械的に

適用して(e)を使ってかまいません。たとえばある朝ナオコと話して彼女のアメリカ行きを

知った人が,当日の午後に別の誰かにその内容を伝えようとする場合でも,(ナオコが

まだ出発していないことは明らかですが)(e)を使って何も問題ありません。

 

要するに「時制の一致の例外」とは,「時制を一致させてもさせなくてもよい」という意味

です。「時制を一致させてはいけない」というケースは1つもありません。

 

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