2013/5/19 up

大人の英文法−041 仮定法現在 

 

仮定法現在とは,if節またはthat節中で,主語の人称や時制の影響を受けずに

常に動詞の原形を使う表現形式のことです。

古い英語では,if 節中で動詞の原形を使っていました。

たとえば「明日が降れば」は現代英語では if it rains tomorrow ですが,昔の英語では

if it rain tomorrow のように表していたわけです。今日では if 節中で仮定法現在を

使う例は少ないので,実質的には次の2つを知っておけばよいでしょう。

(1) 提案・要求・命令などを表す動詞に続く that節中で使う動詞の原形

・The teacher suggested that she study abroad.

(先生は彼女が留学することを勧めた)

※下線部は should study とも言います。studied や studies は誤りです。

※この形で使う動詞には,suggest/propose(提案する,勧める)のほかに,

  demand/require(要求する),advise(忠告する),decide(決める),insist

  (主張する),order(命令する),recommend(勧める)などがあります。

(2) 〈It is+形容詞(要求・必要・願望などを表す)〉に続く that節中で使う動詞の原形

It is necessary that this plan be changed.

(この計画は変更される必要がある)

※下線部はshould be changedとも言います。

※この形で使う形容詞には,necessary(必要な),imperative(絶対に必要な),

  desirable(望ましい)などがあります。


 

基本的には上のことを知っておけばOKですが,2つの点を補足しておきます。

まず,そもそもこれらの表現では,なぜ動詞の原形を使うのでしょうか。

それは,古い英語の if it rain tomorrow のような表現に関係しています。

「もし明日雨が降れば」というのは話し手の想像の世界の出来事であり,

時制を与えることに抵抗がありました(コラム3でも説明しました)。

同じことは,いわゆる「譲歩」(たとえ〜でも)を表す形にも言えます。

・Whether my father agrees or not, I will marry her.

 (父が同意しようとすまいと,私は彼女と結婚するつもりだ)

この文の下線部も,父親はまだ同意していませんが will agree ではありません。

これも昔の英語では原形(agree)が使われていましたが,時代を経るうちに

現在形に取って代わられたものです。この文で原形が使われた理由は,やはり

「父が同意しようとすまいと」という内容が話し手の想像の世界の出来事である

ことによります。

では,上に示した The teacher suggested that she study abroad. の場合は

どうでしょうか。ここでもthat以下の「彼女が留学すること」は先生が提案した

内容であり,that 以下はいわば1つの名詞のような感覚でとらえられている

ために,原形が使われるのです。彼女自身の意志とは関係ないので,study を 

would study にするのが不自然なことは想像できるでしょう。

一方,should(〜すべきだ)を加えることは意味的にしっくりくるので許されます。

つまり仮定法現在の表現では,「should が省略されている」というとらえ方は

歴史的には誤りであり,「もともと動詞の原形が使われていたのだが, should を

加えた表現も後で生まれた」とというのが正しい説明になります。

 

次に,仮定法現在(動詞の原形)と〈should+動詞の原形〉とが実際に使われる

頻度にはどの程度の差があるのでしょうか。おおざっぱに言えば,今日では

アメリカでもイギリスでもどちらを使ってもよいと考えてよいでしょう。

かつては「アメリカ英語では仮定法現在を,イギリス英語ではshouldを使う」とも

言われていましたが,そのような区別は今日では無視してよさそうです。

「オーレックス英和辞典」(旺文社)に次の調査があります。

・She suggested (that) Tom (      ) the job by himself.

この文で空所に should finish と finish のどちらを入れるかについて,

米国人はshould finish(88%)・finish(95%)

英国人はshould finish(95%)・finish(93%)

という結果が出ています。つまり「どちらも使える」ということです。

一方で,この文で「finished を使う」と答えた人も,米国で15%・英国では59%います。

これは,if it rain tomorrow が if it rains tomorrow に取って代わられたことと同様の

変化が生まれつつある現われだと言えます。つまり,仮定法が直説法に切り替わり

つつあるわけです。既に説明したとおり,昔の英語では仮定法は直説法とは全く

違う形でしたが,今日の英語では仮定法の大半は直説法に吸収されてしまい,

唯一残っているのが if I were you のような表現です。上の文で finish の代わりに

finished を使うことを認める人は,仮定法の代わりに直説法を使い始めている

ことになります。

このような事実があるので,次のような入試問題は悪問と言えます。

(問)誤りを含む箇所を選べ。

  @The teacher Asuggested that the students Bworked Cclosely together.

これは2003年に関西のある私大で出題された問いです。出題者は「Bはwork で

なければならない」と考えたのでしょうが,worked でも正しいと考えるネイティブは

少なくありません。この種の悪問は毎年のようにどこかの私大で出題されています。

ちなみに,今年(2013年)のセンター試験には次の問いが出ました。

(問)空所に入る適切な語句を下から1つ選べ。

  Our family doctor suggested that our son (     ) a complete medical checkup 

  every year.

  @ get  A getting   B is getting   C to get

正解は@。文意は「私たちの主治医は息子が毎年精密検査を受けるよう勧めた」。

suggestに続くthat節中なので仮定法現在の get が入りますが,選択肢の中に

got がありません。これはおそらく,got を認めるネイティブもいることを考慮した

ものでしょう。上の某私大の問題とセンターの問題とを比べると,やはりセンターの

方が現実の英語に即した問いを出すという配慮が行き届いており,逆に私大の

出題者の中には現実の英語を知らない(自分が文法書で読んで覚えた知識が

正しいと思い込んでいる)人もいることを如実に示しています。もっとも最近の

英和辞典には何でも書いてあるので,ちょっと辞書を引けばこの程度のことは

すぐに調べられるのですが。その意味では出題者の怠慢とも言えます。

 

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