2013/10/14 up

2015/1/3 加筆

大人の英文法055−依頼の表現 

 

「会話でよく使うフレーズ集」のような本がたくさん市販されています。

その中では,たとえば I'd like to 〜? とか How about 〜? のような「最初の形」を

示し,その後ろにさまざまな形を置いて文を作ることができると説明されています。

この種の学習は,英文の基本的な形を覚えるという意味では有効です。

しかし実際のコミュニケーションでは,文法的に正しい文が作れるだけでは不十分です。

日本語でも,友人同士で話す場合と仕事の相手と話す場合とでは使う表現が違います。

ここでは,依頼のさまざまな表現の「ていねいさの度合い」を考えていきます。


 

<pleaseをつけるとていねいになるか?>

デイビッド・セインさんの「ネイティブが思わず吹き出すヘンな英語」(日文新書)に,

こんな例文が挙げられています。

「どうぞ召し上がれ」 → × Please eat this food.

同書によれば,pleaseを使ったこの文は「お願いだから,この食べ物を食べてください」

のように響くと説明されています。(より適切な英訳は Enjoy!)

pleaseを使った文が何かヘンだな?ということは,多くの人が感覚的にわかると思います。

この本では「これだと『嫌かもしれないけど,お願いだから,この食べ物,食べてください』

というニュアンスになってしまうのだ」と説明されています。

辞書の説明も見ておきましょう。「ウィズダム英和辞典」では,pleaseには「[話し手に

利益となる依頼・命令を和らげて]どうか,どうぞ」という訳語がつけられています。

したがって,Please eat this food. は「私の(利益の)ためにこれを食べてください」という

響きを持ってしまうわけです。この点を多くの日本人は誤解しており,「please をつけると

ていねいな言い方になる」と漠然と考えている人が大半です。そこから次のような誤りが

生じます。ある大学入試問題からの抜粋です。

(問)空所に入る適切な文を1つ選べ。

"Would you like to open the window, please?"  "(    )"

@ No.   A No, thank you.   B OK.   C Yes, please.   D Yes, thank you.

この問いの1つ目の文は,意味不明です。「窓を開けてくれませんか」なら Would you please

open the window? が正しい表現。「あなたは窓を開けたいですか」という意味なら(ヘンな

質問ですが)最後の please は不要です。この文が「窓を開けてくれませんか」という依頼の

意味を表すとすれば,please をつけることができます。それは「窓を開ける」という相手の

行為が話し手の利益になるからです。しかし「窓を開けたいですか」という質問なら,相手の

行為は話し手の利益とは無関係なので please をつけることはできません。出題者の意図は

測りかねますが,何でもかんでも please をつければていねいな言い方になると,「何となく」

考えた公算が大です。

◆追記(2015/1/3) : ある方から,「Would you like to open the window, please? は間違っては

いないのではないか」というご指摘を受けました。機会があればネイティブに再度尋ねてみます。

少なくとも私が以前尋ねたネイティブは,この文を正しいとは認めませんでした。

なお,次のような場合も please を使います。

・May I ask your name, please? (お名前をうかがってもいいですか)

この文で please を使うのは,相手に名前を教えてもらうことが話し手の利益になるからだ,と

考えてかまいません。


 

<依頼を表すさまざまな表現>

「ウィズダム英和辞典」の説明をさらに引用しておきます。

命令文や Will you ...? といった形に please を添えても,若干調子は和らぐものの,丁寧な

依頼表現にはならない。家族や親しい友人以外には,Can [Could, Would] you (please) ...?,

Would [Do] you mind if ...? などを用いる方が無難。

この説明をふまえて,相手に何かを依頼する場合に使う文をいくつか示します。

下にある文ほど「ていねいさ」の度合いが大きいと考えてください。

ニュアンスの違いを訳文に反映させています。

(a) Help me, please. (手伝ってくれよ)

(b) Will you (please) help me? (手伝ってちょうだい)

(c) Would you (please) help me? (手伝ってもらえますか)

(d) Would you mind helping me? (手伝っていただいてもかまいませんか)

(e) I'd appreciate it if you would help me. (お手伝いいただけるとありがたいのですが)

(a)は please があってもなくても「命令文」ですから,相手に選択の余地を与えない響きがあります。

(b)〜(d)は Yes/No で答える質問の形になっているので,相手に判断を委ねている分だけ(a)より

ていねいな表現だと言えます。

 

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