2014/3/2 up

大人の英文法075−V+O+to do  

 

073で引用したホーンビーさんの分析を続けます。

彼は〈S+V+to do〉の形を次の2種類に大別しました。

(a) He opened the door to let the cat out. (彼はネコを出すためにドアを開けた)

     S      V         O

(b) I want Tom to buy some fruit. (私はトムに果物を買ってきてもらいたい)

    S  V              O

つまり,(a)の opened の目的語は the door だけだが,(b)では「私が望んでいる」のは

「トムが果物を買うこと」だから, want の目的語は下線部の全体だというわけです。

さて,高校1年生くらいの英語力がある人,あるいはこの「大人の英文法」をここまで

読み進めてこられた人は,ここまでを読んでいくつかの疑問が沸いたはずです。

あるいは,疑問が沸くべきです。どうですか?

 

1つの疑問は,(b)で Tom 〜 fruit の全体をO(目的語)とみなすことの是非です。

016 品詞と文の要素の関係で説明したとおり,Oになれる要素は基本的に名詞です

Tom to buy some fruit は,全体として名詞だと言えるのでしょうか?

この問いに対する答えはイエスです。Tom は to buy(名詞的用法の不定詞)の

意味上の主語だと考えることができます。つまり,Tom to buy=「トムが買うこと」です。

【参考】このように文中に「〜が…する」という主語と述語の関係が含まれるとき,これをネクサス(nexus)と

         言うことがあります。大学で英文法を勉強した人なら誰でも知っている,イエスペルセンさんという

         偉い文法学者が作った用語です。

 

2つ目の疑問は,「次のように解釈しちゃだめなの?」という点です。

(b) I want Tom to buy some fruit. (私はトムに果物を買ってきてもらいたい)

    S  V      O           C

実際,学校でこう習った人も多いと思います。そして今日の英文法では,このように

考えるのが普通です。一般にSVOCの形(第5文型→029)では「OがCする[である]」

という関係が成り立つので,「トムが買う(ことを望む)」という形はまさに〈O+C〉だと

考えることができます。

 

そして3つ目の疑問。これが最も大切だと私は思うのですが,

〈V+O+to do〉という形には,別のパターンもあるんじゃないの?」ということです。

たとえば次のような形を想像できた人は,英文法のセンスがあります。

(c)  I have no money to lend you. (私は君に貸すお金を全然持っていない)

     S   V               O

この文のOは下線部の全体ですが,これを(b)と同じ構造だと言ってしまうことには

無理があるでしょう。普通は次のように考えます。

(a)=SVO+副詞的用法の不定詞(目的を表す)

(b)=SVOC

(c)=SVO+形容詞的用法の不定詞(前の名詞を修飾する)

〈S+V+O+to do〉という形だけに着目するなら,これ以外のパターンもあります。

ここには構造主義的分析の限界が露呈しており,それが変形文法など後の学説の

ヒントになったと言えますが,その話はさておき。

 

実用的な観点から考えてみましょう。たとえば英語を読んでいて,〈S+V+O+to do〉

という形に出くわした場合,不定詞の働きを正しくとらえる必要があります。

・ I bought a magazine to read on the train.

これも形の上では,〈S+V+O+to do〉ですね。では,この to read は何用法でしょう?

文法的に言えば,2つの解釈が可能です。

(1)「私は電車の中で読むための雑誌を買った」〈to read=形容詞的用法〉

(2)「私は電車の中で読書をするために雑誌を買った」〈to read=副詞的用法〉

このようなことはよく起こります。日本人は用法の分類をしたがりますが,ネイティブの

感覚は「私は雑誌を買った+電車で読む方向で[へ向かった]」というようなものでしょう。

だから「雑誌を買って電車で読んだ」と〈結果〉のように解釈してもかまいません。

 

ここで,大切なことを確認しておきます。

I bought a magazine to ... まで聞いたとき,これが(b)(SVOC)のパターンではないと

判断できなければなりません。逆に,I want him to ... と聞いたら,(b)のパターンを

思い浮かべる必要があります。この違いは,buy と want の語法の違いです。

つまり,want と同じ(b)型の動詞を覚えておかねばならないということです。

(a)型の文はSVOの形で使うすべての動詞について作ることができますが,

(b)の want 型の動詞は数が限られています。ホーンビーさんは(b)型動詞を

「受動態にできるかできないか」で分類しましたが,今日のオーソドックスな

考え方は次のようなものです。

 

Vの後ろに置いて意味を補い,かつその部分を省略することができない(つまり

修飾語ではない)とき,その部分を「補部」と言います。

(b) I want Tom to buy some fruit.

    S    V                 補部

この文の場合,to buy 以下は省略できません。I want Tom.(私はトムがほしい)

では全然違う意味になるからです。

         【参考】(a)の補部はOだけです(後ろの不定詞を省略しても文の大意は変わりません)。

 

補部構造として〈O+to do〉の形をとる動詞は,次の2種類に分けられます。

どちらの場合も,不定詞の原義から「Oが〜するという方向に働きかける[方向で

考える]」という意味を表すと考えてよいでしょう。

 

(1)SVOC型

  (b) I want Tom to buy some fruit. (私はトムに果物を買ってきてもらいたい)

      S  V      O           C

     ※話し手が望んでいるのは「トムが果物を買うこと」です。

     このタイプの主な動詞には,allow(許す),cause(引き起こす), enable(可能にする),

   force(強制する),persuade(説得する)などがあります。

   なお,make(〜させる)などの使役動詞も意味的にはこのグループに入りますが,

   to do ではなく原形不定詞をとるので別項で扱います。また,believe(信じる),expect(予想

   する)などの後ろの〈O+to do〉も別項で取り上げます。

 

(2)SVOO型

  (d) I told Tom to buy some fruit. (私はトムに果物を買ってくるように言った)

      S  V     O           O

     ※話し手は「トムに」「果物を買うこと」を伝えたのです。次のようにも言えます。

         I told Tom that he should buy some fruit.

        S   V    O                 O

         (私はトムに果物を買うべきだと言った)

tell はもともと,tell him the news (彼にその知らせを伝える)のように,

SVOOの形で使う動詞であることからも,(d) のto buy はOだとわかります。

このタイプの主な動詞には,advise(忠告する),ask(頼む),warn(警告する)

などがあります。

    【参考】 promise は特殊な動詞だと言われますが,「オーレックス英和辞典」(旺文社)に

興味深いデータ(ネイティブ100余人へのアンケート結果)が載っています。

・ She promised Philip to go to London. (彼女はロンドンへ行くとフィリップに約束した)

この文の to go の意味上の主語は Philip ではなく she です。そこに promise の特殊性が

ありますが,オーレックスによればこの文を「使う」と答えたネイティブは14%しかおらず,

大半の人は「この内容は She promised that she'd go to London. で表す」と答えています。

     

実用的な見地から言えば,これらの文を受動態にした形も重要です。

・ We were allowed to take pictures there. (私たちはそこで写真を撮ることを許された)

   * 能動態で表すと They allowed us to take ...

・ I was asked to make a presentation. (私はプレゼンをするよう頼まれた)

   * 能動態で表すと They asked me to make a presentation..

・ I was told to copy this (by my boss). (私は(上司に)これをコピーするよう言われた)

   * 能動態で表すと The boss told me to copy this.


 

補記:(2024/1/7加筆)

「現代英文法講義」(pp.23-4)は,上記とは少し違う説明をしています。概要は次のとおりです。

@SVOO型(tellなど)

I told [John] [to go there].I told John that he should go there.とも言える。

ASVOネクサス目的語]型(want,see,makeなど)

I saw [John run].「私は見た」+「ジョンが走る場面」ということ。

BSVOC型(helpなど)

I helped [John] [(to) cook dinner].

helpする対象はJohnだから,(to) cook dinnerはhelpの目的語には入らない。

「人に働きかける+人がその行動を起こす」という意味の動詞の多くはこのグループ。

 

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