2015/8/23 up

大人の英文法105−関係代名詞のthat 

 

who,which,what などの関係代名詞は,疑問詞の働きも持っています。

これに対して関係代名詞のthatは,「それ」という意味の指示代名詞,あるいは「〜ということ」

の意味の接続詞としても使われます。次の文で考えてみましょう。

(a) I'm looking for a store that sells liquor. (私はお酒を売っている店を探しています)

この文は,「私は店を探している」+「それ[その店]はお酒を売っている」ということです。

つまり,thatはもともとa storeを指す代名詞だったと考えればいいわけです。

thatには関係副詞としての用法もありますが,その説明は後回しにします。

ここでは,関係代名詞のthatに関する主な注意点を列挙します。

 

@ thatは,限定用法の who(m)・whichの代わりに使える。

上の(a)の that は which で言い換えられます。人間も先行詞にできます。

(b) I hate people that [who] tell lies. (私はうそをつく人が大嫌いです)

(c) Who is the girl (that [who(m)]) you love? (君の好きな子はだれだい?)

 

A thatがwho(m)・whichよりも好まれる場合がある。

上の(c)では,Who is the girl who(m) you love? だとwhoが繰り返されることに

なるのでthatが好まれますが,that[who(m)]を省略するのが普通です。

(d) This is all (that) I have to say. (私が言いたいのはこれだけです)

この文ではwhichよりもthatが好まれます(しばしば省略されますが)。

I have △ to say.(私は言うために△を持っている) → △ (that) I have to say

(私が言うために持っている△)の△に当たるのがall。つまり「all はもともと have の

目的語」という関係です。have to 〜(〜しなければならない)ではありません。

一般に,先行詞が all・every・the only などの指示性の強い語句を含むときは,

関係代名詞としてthatが好まれます。that はもともと「それ」という特定の1つの

ものを指示する代名詞なので,これらの語句と相性がいいからです。

 

B thatは補足説明用法では使えない。

(d) I live in Tokyo, which [×that] is the capital of Japan.

     (私は日本の首都である東京に住んでいます)

この文でthatが使えないのは,thatには指示代名詞としての働きもあるからです。

(d)でthatを使った文を口に出して言うと,I live in Tokyo. That is the capital of Japan.

という文と区別がつかなくなります。また,(d)のthatを指示代名詞と解釈した場合,

独立した2つの文がコンマで結ばれていることになり,文法的な説明がつきません。

※つまり「(d)は誤り」というのは書き言葉のルールです。発音すれば2つの独立した

    文と区別がつきません。

 

C 〈前置詞+that〉の形にはできない。

(e) This is the hospital  in which [× in that] I was born.

     (ここは私が生まれた病院です)

〈前置詞+that〉の形が使えないのは,関係代名詞の that が,指示代名詞の that 

だけでなく接続詞の that とも関係があることから説明できます。

一般に,前置詞の後ろに接続詞を置くことはまれです。なぜなら前置詞の後ろには

名詞の働きをする語が置かれますが,多くの接続詞は副詞節を作るからです。

逆に言えば,名詞節を作る that・if・whether は前置詞の後ろに置けます。

・ Humans differ from animals in that they use fire.

(人間は火を使うという(ことの)点で動物とは異なる) ※thatは接続詞。

だから(接続詞と接点のある)関係代名詞の that は,前置詞の後ろでは使いません。

一方,〈前置詞+疑問詞〉の形は普通に使われます。だから,who,whichなど疑問詞

との接点を持つ関係代名詞は,前置詞との相性がいいわけです。

In which bag is the camera? (カメラはどのバッグに入っていますか)

  ※会話では Which bag is the camera in? の方が普通。

 


 

「関係代名詞として that が好まれる場合」についての補記

※以下の記事は,拙著「英語教育村の真実」からの抜粋です(一部リライト)。

(問) 空所に入る適切な文を下から1つ選べ。

Look at the boy and the dog (     ) are playing over there. 

@ whose   A who   B which   C that

これは,2011年に関東のある私立高校の入試に出た問題です。

正解はC。文意は「向こうで遊んでいる少年と犬を見なさい」となります。

この問いの出題者は,「先行詞が〈人+人以外〉のときは,関係代名詞はthatを使う」という

ルールを尋ねたかったのでしょう。

しかしこのルールは,筆者に言わせれば日本の多くの英語指導者・学習者の頭に刷り込まれた

一種の「都市伝説」のようなものです。もちろん間違っているわけではありません。

しかし実質的には無意味です。関係代名詞の先行詞が〈人+人以外〉であるような文が使われる

状況は,現実にはほとんど考えられません。

実際の使用場面を想像して,もう一度この問いを見てみましょう。

「向こうで遊んでいる少年と犬を見なさい」

Look at the boy and the dog that are playing over there.

○Look at the boy and the dog playing over there.

日本語に対する英訳としてより自然なのは○の文であり,△の文は文法的には正しくても

実際には使われないでしょう。つまりこの例では関係代名詞(that)を使う必要はないわけ

ですから,先行詞うんぬんの規則は知らなくてかまいません。

ところが,この規則は日本の中学・高校生向けの多くの文法参考書に載っています。

本場の著名な文法研究家の1人がこのルールに言及したために,日本の文法書がそれを

取り入れたわけです。そして(B)タイプの本の著者たちは,(A)タイプの本からの孫引きで

このルールを中学・高校生向けの学習参考書にも入れます。結果的にこれが学校教師の

頭の中に「教えるべき文法知識」として定着してしまうわけです。

このルールを問う私立高校の問題例を,もう2つ挙げておきます。どちらも2011年に出題された

整序作文(単語を並べ替えて英文を完成する)形式の問いです。

(1) 通りを横切っている女の子と犬を見てごらん。

Look at the girl [ that / are / dog / and / her / street / crossing / the ].

(2) いつもこの公園を走っている少年と犬は私の家の近くに住んでいます。

[ are / always / near / this park / and the dog / running around / live / the boy / that ] my house.

正解は,(1)が(Look at the girl) and her dog that are crossing the street.,

(2)がThe boy and the dog that are always running around this park live near (my house). です。

ここには全部で3つの例を挙げましたが,一目瞭然の共通点があります。

どの文でも,先行詞は「人+犬」なのです。これは,(B)型参考書のもとになった(A)型参考書,

さらにそのもとになった外国の文法書の例文が「人+犬」を先行詞とするものだったためです。

いったい「人と犬」を先行詞として後ろに関係代名詞を置く文を作らねばならない状況が,

実際にどれだけあるというのでしょうか。「文法書に書いてあるから」という理由だけで入試の

文法問題を作っていると,こんな非実用的でステレオタイプのダメ問題が量産される結果を生むと

いう典型例と言えます。

 

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