2016/1/24 up

大人の英文法111−関係代名詞のas・than・but 

 

「as・than・butは関係代名詞の用法を持つ」と多くの文法書が説明しています。

まず as の用法から見ておきます。次の表現は大学入試に非常によく出る形です。

(a) (     ) is often the case, John was late for the meeting.
    @ As   A When   B Since   C Why   D For
  (2008 中央大)

(よくあることだが,ジョンは会議に遅刻した)(@Asが正解)

the case は「実情,真相」の意味で,下線部の直訳は「しばしば実情であるように[とおりに]」。

では,なぜ(a)のasは「関係代名詞」というカテゴリーに入るのか?

ここで改めて,関係詞とは何か?という点を明らかにしておきます。

主な関係詞は関係代名詞と関係副詞ですが,これらは次のように定義されます。

・関係代名詞=代名詞と接続詞の働きを合わせ持つ語

・関係副詞=副詞と接続詞の働きを合わせ持つ語

たとえば a woman who can speak English(英語を話せる女性)のwhoは,woman を指すので代名詞。

また,who は前後の語句を結びつける働きをしており,これは接続詞の機能に近いものです。

この理屈を(a)に当てはめてみます。

(a)では文頭の as が is の主語を働きをしており,主節(he 〜 train)の内容を指しています。

また,コンマの前後の節を結びつけている接着剤のような(=接続詞に近い)働きをしています。

だからこの as は関係代名詞です。

では,次の文の as はどうでしょう。

(b) As you know, John is often late for meetings.

(君も知っているように,ジョンはよく会議に遅刻する) 

一般にはこの文のas は接続詞とされますが,関係代名詞と考えることも可能です。

その場合,as は主節の内容を指し,かつknowの目的語の働きをしていると解釈できます。

このように関係代名詞の as と接続詞の as の境界はあいまいであり,品詞の違いにこだわる

必要はありません。同じことは than にも言えます。

(c1) You shouldn't give your children more money than is needed.

=(c2) You shouldn't give your children more money than necessary.

(子どもには必要以上のお金を与えない方がよい) 

(c1)のthanはisの主語の働きをしているので関係代名詞ですが,(c2)は接続詞と考えられます。

as や than が明らかに関係代名詞だと考えられるのは,(a)や(c1)のように後続の動詞の主語の

働きを兼ねている(つまり主格の)場合ですが,私の経験ではこのような形が使えなくてもあまり

支障はありません。代用表現がいくらでもあるからです。

たとえば(a)の「よくあることだが,ジョンは会議に遅刻した」という内容は,

実際の会話では John was left for the meeting again. と言えば済むことです。

さらに He's never punctual.(彼は時間を守ったことがない)などと加えてもいいでしょう。

参考までに,もう一度 (a)の文を見ておきます。

(a) As is often the case, John was late for the meeting.

(よくあることだが,ジョンは会議に遅刻した)

次の文と比較してみましょう(「ロングマン英和辞典」からの引用)。

(d) House prices are rising here, as is the case in most areas.

(大方の地域でもそうであるように,この辺の住宅の価格も上昇している)

(d)では前半が情報の焦点であり,as 以下は補足説明と考えられます。

そのニュアンスに沿って訳せば,次のようになるでしょう。

「この辺の住宅の価格は上昇している。それはほとんどの地域も同じだが」

一方(a)では前半が「前置き」であり,情報の焦点は John 以下にあります。

ただ,この程度の内容を,そこまで「もったいぶって」表現する必要があるでしょうか?

(a)は間違っているわけではありませんが,回りくどい表現のように私には感じられます。

 

最後に,悪名高い「関係代名詞の but」についても触れておきます。

There is no worker (     ) appreciates a pay raise. 
@ whose  A those  B but  C he 
(2009福山平成大)

出題者の想定した正解はBです(想定された文意は「昇給をありがたく思わない労働者はいない」)。

しかし,ネイティブにこの問題を見せても答えは出せないでしょう。

まず間違いなく「こんな英語はない」と答えるはずです。

 

かつて大橋巨泉氏が司会をしていた「巨泉のこんなモノいらない」という人気番組の中で

「英語教育」が「いらないモノ」として取り上げられ,その中で「関係代名詞の but」が

悪しき学校英語の象徴の1つとして紹介されていたように記憶しています。

(ちなみにその番組では,アメリカ大統領の Roosevelt を日本人はみんな「ルーズベルト」

と読むが,正しい発音は「ロウズヴェルト」だ,ということも言っていました)

実は,アトラスでも関係代名詞の but は「入れるか,入れないか」の議論になりました。

共著者の長田先生・Sue先生も,もちろん私も,butは入れなくてよいと考えていました。

しかし,たとえば同じ桐原書店の「フォレスト」には,関係代名詞のbutの説明があります。

フォレストの執筆者も悩んだことでしょう。英語を指導するという立場からは,入れたくない。

しかし,学習参考書を営業先は高校教師であり,高校教師の中には「関係代名詞のbut」を

今でも重要な文法事項として教えている人がいる。だから営業的にはこの but は入れたい。

(上の例にもあるように)今でも大学入試にも出ているし…

しかし結局,編集責任者と協議の結果,アトラスには関係代名詞のbutを入れませんでした。

その編集者も,教育的良心の問題としてこのbutは入れない方がよい,という意見でした。

皆さんが学校で使った(あるいは使っている)参考書の編集課程では,このような葛藤が

日々繰り広げられているのです。だから,何度でも言いますが,大学入試から文法問題を

一掃すれば,関係代名詞のbutのような「ネイティブも知らない英語」を学校で教える必要は

なくなるのです。

 

※以下は2016年2月11日に追加した記事です(2月4日に追加した記事を大幅に訂正)。

この項目の説明に関して,読者の方から次のような質問が届きました。

(1) John was late for the meeting, which is often the case.

(2) John was late for the meeting, as is often the case.

質問は「(1)と(2)の間には意味の違いがあるのか?」ということです。

これについては2月4日に書いた記事を訂正したいと思います。

「ジーニアス英和辞典」のasの項に,次のような説明がありました。

(3) Max knocked on the door and went in without waiting for an answer, as [which] was usual on the island.

(マックスはドアをノックし,返事も待たずに中に入っていったが,それはその島ではふつうのことだった)

この例文に対して「and this [that] で書き換え可能」という注記がついています。

したがって(3)では,情報構造の観点から言えば,コンマの前後に対等の重みがあることになります。

ただ,ジーニアスには「この関係詞は自分の発言にコメントを加えるもので…」とも書いてあるので,

(3)の as [which] 以下は補足的な情報だと考えることができます。同じことは(1)(2)にも言えます。

つまり(1)と(2)の間には,実質的な意味の差はないということです。

ジーニアスには「as の方がwhichより堅い語」という趣旨の説明があるので,その程度の違いでしょうか。

ただし,それでもやはり,次のような説明は成り立つと思います。

(2)の as の語源は also(=all so)の弱形であり(「ウィズダム英和辞典」を参照),

何かと何かを比べて「同じ程度だ」という意味を表すのがもともとの用法でした。

そこから「〜であるように,とおりに」という接続詞の意味が生まれたと考えられます。

このとき,as you know などの言い方からもわかるとおり,一般に as の後ろには

「既知の情報」が置かれます。このことは接続詞の項で詳しく説明しますが,

たとえば As I'm poor, I can't buy a car. は「君も知ってのとおり僕は貧乏だろ,だから

車が買えないんだ」のような意味で,情報の焦点は下線部にあります。

(2) John was late for the meeting, as is often the case.

この文のas以下は基本的に「補足説明」であり,as以下を前に移動すればas節は

「(本題に入る前の)前置き」の働きをすることになります。

(2') As is often the case, John was late for the meeting.

これなら重要な情報が後ろに来るので,形が整います。

一方,(1)を Which is often the case, John was late for the meeting. と言えないのは,

一般に which が自由関係詞(=先行詞を含む関係詞)として使えないことと関係しています。

what には疑問詞と自由関係詞の両方の用法があるので,What he said is true. のように

文頭に関係代名詞のwhatを置くこともできますが,which は単独では疑問詞としてしか

使わないために,文頭に Which があると疑問文だと誤解されてしまう,と考えてもよいでしょう。

 

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