2016/6/5 up

大人の英文法116−混交 

 

このサイトの記事について,ある読者から次のような趣旨の質問が来ました。

(063) Cの働きをする不定詞 中の次の例文に関するものです。

(a) All you need is (to) do your best.

           S                C

(君に必要なのは全力を尽くすことだけだ) 

一般に,S is C. のCが不定詞であるとき,Sの中に do が含まれていれば,Cの to は

省略できます。しかし(a)のSにはdoが含まれていません。それでもCの to が省略できるのは

なぜか?という質問です。質問者は「Sは All you need (to do) の to do の省略形であり,

実質的にSの中に do の意味が含まれるからではないか」と考えておられました。

そういう解釈もできるかもしれませんが,私はこれは「混交」という現象の例だと思います。

混交(blending)とは,複数の表現がいわば化学反応を起こして,A+B → C のような新たな

形を作ることを言います。新しくできるCには,AとBの形が部分的に含まれます

典型例は次のようなものです。

(A) I can't help feeling sorry for them.

(B) I can't but feel sorry for them.

(C) I can't help but feel sorry for them.

     (私は彼らを気の毒に思わないではいられない)

(A)と(B)との混交によってできたのが,(C)の表現です。(今日では(B)はあまり使われません)

 

最初の文に話を戻します。

(a) All you need is do your best. (君に必要なのは全力を尽くすことだけだ) 

このようにtoが省略される形は,All you have to do is do your best. や All I could do was wait for him.

など似た形の(S に do が含まれCの to が省略される)フレーズがあるために,それらの形との

混交が起こって(a)のtoも省略されるのだと思います。

※All you need is love. のようにCの位置に名詞を置く形もあるので,私は「(a)は All you need (to do)

is ... の省略形だ」という立場は取りません。

 

もう1つ,例を挙げます。別の読者の方から,次の文の意味を教えてほしいという質問をいただきました。

(b1) It was the last time I would see them for 14 years.

この文はある長い文章の中に出てきますが,「私が彼らに会ったのはそれが最後であり,その後

14年会わなかった(14年後に再会した)」という意味です。逐語訳しようとするとなかなか意味が

取れませんが,これも混交によって生じたものではないかと思います。

(b2) It was the last time. (それが最後の時だった)

(b3) I wouldn't see them for 14 years (after that). (私はその後14年間彼らに会わないことになった)

(b3)のwouldは「過去における未来」を表す用法で,次の文のwouldと同じでしょう。

・In Berlin, he first met the woman who he would one day marry.

 (彼はベルリンでいつの日か結婚することになる女性に初めて会った)〈PEU〉

(b2)+(b3) → (b1)という混交が起きるとき,「私はそのとき彼らに最後に会った」という肯定的な

意味が意識された結果,(b3)の wouldn't のnotが脱落して(b1)のようになるのではないでしょうか。

※以下は2019年8月3日に加筆:

(b1)の意味に関して読者の方から「別の解釈も可能ではないか」という趣旨の質問があったので,ネイティブ(イギリス人)に確認しました。

結論としては,上の説明で間違っていません。(b1)が語っているのは過去の事実です。

たとえば「今は2019年。私が彼らに会ったのは2000年。その後14年間は会わず,2014年に再開した」のような状況を表すとのことです。

 

なお,混交は文のさまざまなレベルで起こります。いわゆる描出話法(詳細は後述)も混交の一種です。

また,単語レベルでの混交も多く見られます。たとえば英国のオックスフォード(Oxford)大学と

ケンブリッジ(Cambridge)大学を,まとめて Oxbridge と言います。このようにしてできた語を

かばん語(portmanteau word)」と言います。smog (← smoke+fog),motel (← motor+hotel),

workaholic (←work+alcoholic) などもかばん語です。

 

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