2016/8/21 up

大人の英文法119−There構文 

 

「〜がある[いる]」の意味を表すThereで始まる構文は,5文型の分類によれば第1文型(SV)です。

中学レベルの基本事項の説明は,ここでは割愛します。

There構文の存在理由は,情報構造の観点から説明することができます。

「1冊の本が机の上にある」

×(1a) A book is on the desk. 

    (1b) There is a book on the desk. 

                           V    S[新情報]

「その本は机の上にある」

(2a) The book is on the desk.

    ×(2b) There is the book on the desk.

                                旧情報

【参考】7文型や8文型では,(2a)はSVAです。(→115 5文型と7・8文型

(1a)の A book is on the desk. は完全な誤りとまでは言えませんが,日常的にはまず使われません。

その理由は,新情報(A book)が文頭に置かれているからです(aのつく名詞は新情報)。

英文は基本的に「旧情報−新情報」という構造を持っています(→ 001 情報構造1)。

だから(2a)は問題ありません。旧情報(the book)が文頭に置かれているからです。

しかし(2b)は誤り。一般に There構文の主語は新情報です。

the book(その本)は旧情報だから,There is the book という形にはできません。

 

(1b)のようなthereは,実質的な意味を持たない機能語です。

thereの働きは「この文は存在文ですよ」と予告すること。

存在文とは,「〜が(…に)ある[いる]」という意味を表す文のことです。

このthereは,形式主語のitと似た働きをしているとも言えます。(詳細は後述)

 

一般に機能語には強勢を置かないので,(1b)は次のように読みます。

(1b) There is a bóok on the désk.

※thereには強勢を置きません。強勢は新情報のbookに置きます。

また,on the desk も新情報です。the は外界照応の用法で,話し手は

「the desk と言えばどの机を指すかが聞き手に伝わる」と考えています。

(照応については別項で説明します。「英語のしくみ」をお持ちの方はp.252以下を参照してください)

つまり,

(1b) There is a book on the desk.

                     新情報      新情報

このように,

There+be動詞+S場所 

という形の文では,「S」と「場所」の両方が新情報になります。

1つの文中には新情報が少なくとも1つは必要ですが,1つだけでも十分です。

したがって,言う必要のない(情報的価値が低い)ときは「場所」は省略します。

(3) There are three reasons (for that). ((それには)3つの理由がある)

この文の情報の中心は「理由がある[存在する]」ということであり,「どこにあるか」は

どうでもよいことです。だから「場所」を表す語句は不要です。

 

さらに,(1b)をもう一度見てみましょう。

(1b) There is a book on the desk.

                      新情報     新情報

一般に,〈a/an+名詞〉は常に新情報ですが,〈the+名詞〉は旧情報の場合と

新情報の場合とがあります。上の文の on the desk は新情報です。

"Where's my bag?" と尋ねられて "It's on the desk." と答えた場合も,下線部は新情報ですね。

ここまでに述べたことを,次のようにまとめてみます。

(A)There構文の主語は新情報である。

(B)〈the+名詞〉が新情報の場合もある。

この2つから,論理的に次のことが言えます。

(C)There構文の主語が〈the+名詞〉のこともある。

すなわち,There is the 〜 のような形がありうるということです。

この「大人の英文法」をお読みの方は,「謎解きの英文法」シリーズ(くろしお出版)をお持ちかもしれません。

次の文は,このシリーズ中の「冠詞と名詞」編から抜粋したものです。

(4) "I'm hungry. Is there anything to eat?"  "Well, there's the leftover apple pie from last night."

(「お腹すいた。何か食べるものある?」「えーっと,昨日の残りのアップルパイがあります」)

答えの文は〈There is the 〜〉という形になっています。そして,下線部は新情報です。

では,the leftover apple pie は,なぜ a leftover apple pie ではないのでしょうか?

それは,「聞き手はそのアップルパイのことを知っている」と話し手が考えているからです( the は外界照応的)。

つまり,「ほら,きのうアップルパイを食べたじゃない。その残りがあるわよ」というような状況です。

このような場合は,There構文の主語の位置に〈the+名詞〉を置くことができます。

※ただしそのようなケースは例外的なので,基本的には「〈There is the 〜〉は誤り」と覚えておいてもかまいません。

以下,There構文についていくつかの補足説明をしておきます。

 

◆be動詞のバリエーション

There に続くbe動詞は,助動詞などと組み合わせて使うことができます。

(5a) There is someone in the classroom. (教室に誰かがいる)

(5b) There must be someone in the classroom. (教室に誰かがいるに違いない)

(5c) There seems to have been someone in the classroom. 

      (教室に誰かがいたらしい)

(6) There used to be a movie theater here. (以前ここに映画館があった)

 

◆be動詞以外の自動詞を使う形

There の後ろにbe動詞以外の自動詞を置く形があります。

(7) There lived a wizard in the woods. (森に1人の魔法使いが住んでいた)

(8) There remain no records about the incident. (その事件には記録が残っていない)

たとえば(7)は A wizard lived in the woods. とも言えますが,新情報(A wizard)が文頭に

くるのを避けるために There で文を始めたものです。

 

◆分詞と組み合わせた形

一般に,次のことが言えます。

Sbe動詞+分詞〉が「Sがある」の意味を含むとき,Sが新情報なら

Therebe動詞+S+分詞〉で言い換える方が自然な文になる。

たとえば,次のような文です。

(9a) There are some boys swimming in the river. (少年たちが川で泳いでいる)

(10) There is little time left (for us). ((私たちには)時間がほとんど残っていない)

(9a)を次の文と比べてみましょう。

(9b) Some bóys are swimming in the river. 

           新情報

この文では新情報(some boys)が文頭に置かれているので,(9a)の方が自然です。

同様に(10)も,Little time is left for us. よりも自然な文です。

ところで,たとえば(9a)の swimming(現在分詞)の働きは何でしょうか?

学校で使われている文法参考書では,「boysを修飾する限定用法」と説明しているものと,

(あえて)この種の分詞の用法を説明していないものとがあります。

以前,「(9a)は(9b)と同じ意味だから,swimmingは限定用法ではないのでは?」という質問を

受けたことがあります。そこには,

(9b) Some boys are swimming in the river. 

(9a) There are some boys swimming in the river.

このような「変形」が常に成り立つか?という問題があります。

その答えはノーです。したがって私は,(9a)のswimmingは限定用法と理解してよいと思います。

「変形」が成り立たない文の例を1つ挙げておきます。

(11) There are mushrooms containing poison. (毒を含むキノコがある)

これは正しい文ですが,この文を Mushrooms are containing poison. と言い換えることはできません。

contain は状態動詞だから進行形にはできません。また,その点に目をつぶったとしても,この文は

「(すべての)キノコは毒を含む」と解釈されるので,(11)とは全く違った意味になります。

(9a) の There are some boys swimming in the river. は,「(何人かの)男の子たちがいる」とまず

言ってから,boysの後ろに「川で泳いでいる」という情報を補足的に加えた感じです。

一方(11)は,There are X.(Xがある)という形の X の位置に「毒を含むキノコ(=poisonous mushrooms)」

をはめこんだ感じがします。

 

There構文は詳しく考えると奥の深いテーマですが,一般の学習者は

・基本形

・There must be 〜 など (be動詞のバリエーション)

・There is little time left 型の表現 (名詞に分詞(句)を加えた形)

この3つを知っておけば十分だと思います。

 

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