2019/11/4 up

大人の英文法−コラム(17)

これからの英語入試対策学習

 

以下の説明は,私個人の次のような問題意識を背景としています。

日本の高校の英語学習では,「4技能」のほかに第5の技能が重視されています。

第5の技能とは,大学入試の文法問題対策のためだけに必要な知識の習得です。

たとえば,make it a rule to や had it not been for のようなものです。

もちろんこれらも正しい英語であり,知っておくに越したことはありません。

しかし英語の4技能との関連から言えば,もっと大切な知識が山ほどあります。

要するに「何を優先的に学習すべきか?」という観点から,入試対策学習の効率性を見直したい。

― それが,この記事の趣旨です。

 

◆国立大志望者へのアドバイス

センター試験の共通テストへの切り替えは,国(公)立大志望者の学習方法にかなり大きな影響があると思います。

国立大志望者に対して私が勧める学習および受験先選択の注意点は,次の3つです。

@文法問題集を使ってはならない。

A文法参考書は,知識を確認するためだけに使う。

B私大を併願する場合は,なるべく文法問題を出題しない大学を選ぶ。

これらの方法を薦める理由は,第5の技能(文法問題対策)にむだな時間を費やさないためです。

センター試験(筆記)と共通テスト(筆記)の最大の違いは,次のように説明できます。

センター試験は文法問題を含む。共通テストはリーディングに特化した内容である。

再来年以降,国立大志望者は基本的に1次試験(共通テスト)2次試験(各大学の個別入試)を受験します。

2次試験は多くの大学が「読解+作文」の構成であり,一部の大学を除き文法問題は出ません。

したがって国立大専願者は,文法問題対策学習(=第5の技能)の必要が(ほぼ)なくなりました。

民間の4技能試験は導入の棚上げが先日発表されましたが,「1次+2次」の試験全体を見ると,

これから当分の間は「読む・聞く・書く」の3技能だけが問われることになります。

その現状認識をもとに,上記の3点を少し詳しく説明します。

@いわゆる文法問題集の目的は「文法問題を解く力をつける」こと,つまり第5の技能の習得です。

これからの国立大入試(1次+2次)には文法問題は出ないのだから,その学習は無意味です。

A多くの高校では「○○総合英語」という文法書を使って,2年の夏ごろまでに文法をひととおり学習します。

それ以降は,国立大志望者はその文法書をレファレンス(参照)のためだけに利用すべきです。

(A)模試の解説中に「強調構文」という言葉が出てきた。解釈のしかたを文法書で確認しよう。

(B)自分は文法知識が十分ではないので,もう一度文法書を最初から読み直そう。

(A)は文法書の正しい使い方,(B)は非効率な学習です。

一般に文法書は,「第5の技能」(たとえばhad it not been for)をたくさん含んでいます。

くり返しますが,国立大志望者には第5の技能は必要ありません。

Bたとえば首都圏の国立大を志望する人が早慶上智を併願先とする場合,学部の選択に注意が必要です。

慶応は,文法問題が出るのは看護医療学部のみ。早稲田は学部によってまちまちです。

上智は全学部で文法問題が出ますが,TEAPを選択すれば文法問題対策は不要です。

法学部に進みたい高校生が,千葉大の併願先として早慶上智のどの法学部を選ぶかを考える場合,

私なら慶応の法学部を勧めます。「千葉大+慶応(法)」なら,文法対策学習が不要だからです。

つまり,3技能(読む・聞く・書く)に自分の学習のすべてのエネルギーを向けることができます。

一方,早稲田(法)や上智(法)を併願先に選ぶと,それらの大学の文法問題対策が必要になります。

偏差値の上下より,その学習の負担の方がはるかに大きなハンディになると私は思います。

 

◆私立大志望者へのアドバイス

民間試験導入の話は迷走の末に棚上げとなりましたが,この議論は私立大志望者には基本的に無関係でした。

したがって,私立大志望者は従来と同じように受験対策学習を行うことができます。

ただし文法問題の扱いは大学ごとに違うので,なるべく似た出題パターンの大学を組み合わせるのが賢明です。

たとえば関関同立なら,「同志社+関西」「関学+立命館」の組み合わせがベターでしょう。

前者は「文法問題がほぼ出ない」,後者は「文法問題が一定の配点比率を占める」という違いがあります。

また,日大・駒沢・東洋・近大などはいかにも受験英語的な文法問題を好んで出題するので,

それらの大学を志望する人には文法問題集が多いに役立ちます。

なお,以下は参考までに。

将来何らかの形で4技能試験が導入されたとしても,私大はその試験を「センター利用方式」と同様に扱うでしょう。

たとえば私立のA大学がセンター(試験)利用方式を定員の一部に割り振っている場合,センターで一定の得点を

取った受験生はA大学の入試に合格したものとみなされます。

国立大を第一志望とする受験生は,すべり止めのA大学(センター利用方式)に願書を出しておけば,

A大学の入試を受けなくても(センターの成績次第で)自動的に合格通知がもらえるというシステムです。

これはA大学にとって優秀な学生を獲得するチャンスでもあり,受験料収入の増加にもつながります。

しかし,自校の独自入試を廃止してセンター利用方式に一本化している私立大学は1つもありません。

当然ですが独自入試の方が受験料は高く,センター利用方式だけだと受験料収入が激減するからです。

TEAPも少しずつ採用する大学が増えていますが,理屈は同じです。

開発の主体である上智大学でさえ,TEAP利用方式の定員は4分の1ほどにすぎません。

将来の4技能試験も,おそらくこれと同じ扱いになります。つまり,私大の独自入試は永遠に続きます。

したがって私大の対策学習も,基本的には同じままでしょう。

 

◆将来の4技能試験の展望

上で説明したとおり,共通テストが4技能試験になるにせよ,民間の4技能試験が採用されるにせよ,

その影響を受けるのは国立大志望者だけです。

そして国立大志望者は,現状でも実質的に「3技能(読む・聞く・話す)」の学習が求められています。

したがって「4技能テストの導入」とは,「スピーキング試験の導入」とほぼ同義だと言えます。

将来4技能テストが導入されると,国立大志望者にはスピーキング学習という新たな負担が発生します。

しかし一方で,共通テストにせよ英検・GTECなどの民間試験にせよ,「第5の技能」が含まれていません。

つまり,ざっくり言えば次のような関係です。

(A)現状(センター試験+国立2次)=読む・聞く・書く・第5の技能(文法対策学習)

(B)将来(4技能試験+国立2次)=読む・聞く・書く・話す

どちらの学習の負担が大きいかという判断は微妙なところですが,望ましい英語学習の姿をイメージするなら,

私は(B)がベターだと思います。

世間では「センター試験のどこが悪いのか?」という声が主流ですが,入試分析を専門とする私に言わせれば,

センター試験にも共通テストにも欠点があります。

・センター試験(筆記)は,高校生に「第5の技能」の習得を強いています。それは,第2問のせいです。

・共通テスト(筆記)はリーディングに特化していますが,試行テストを見る限り,「factかopinionか」という

尋ね方には問題があります。→ 英語リーディングでのfactとopinionの区別

ただ,共通テストの目指す方向は正しいと思います。

当面は「読む+聞く」だけですが,「書く+話す」を加えて,AIを使った機械採点で公平性を確保するのが理想です。

参考までに,次のような素朴な疑問についてもコメントしておきます。

「国立大2次に英作文が出るのだから,共通テストにライティングを加える必要はないのでは?」

理屈はそのとおりです。

仮に将来共通テストにライティングが加わるにせよ,国立2次の英作文より確実に易しい問題になるでしょう。

したがって「屋上屋を架す」ようにも見えます。しかし私が理想とする英語入試の形は違います。

私は基本的に,現状の大学入試の英語(筆記試験)は,求めるレベルが高すぎると思っています。

以前にも書きましたが,私の理想とする国立大の英語大学入試は次のようなものです。

@4技能の共通テストをすべての国立大の受験者に課す(レベルはセンター試験程度)。

Aその試験は点数化せず,合格か不合格かで判定する。

B各大学の個別入試(2次試験)は廃止する。

つまり,共通テストに合格した高校生は,英語に関しては大学入学資格を得るということです。

それ以上の勉強は,大学に入った後に自分の選んだ学部や将来の進路に応じて各自で行えば十分です。

このようにすれば,「第5の技能」を英語学習から完全に排除することができます。

また,ここでは詳しく触れませんが,国立大入試にも「悪問」はあります。

オーセンティックな共通テストだけで英語力を判定することが最も公平であり,

必要以上にレベルを上げないことで高校生の学習の負担を減らし,

英語学習に対するモチベーションを高める ― これが私の理想とする大学入試英語の姿です。

 

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