日は,年に一度の「大掃除」の日である。水槽の水を全部替え,底砂を洗い,フィルターを掃除する。掃除に要する時間はおよそ4時間。例年,秋の一日を費やして行う。

まず,近くの海へ海水を汲みに行く。車で往復およそ1時間。18リットル入りのポリタンクに7杯,海水を汲んで帰る。これで,90cm水槽がきっかり満タンになる。


初に,水槽に入れた海草(夏場はプラスチック製のものを使う)やストラクチャーを取り出し,魚を網ですくってバケツに入れておく(育ちすぎたものは後で海へ放流する)。続いて,ポンプで水を全部汲み出す。底砂を手でかき出し,底面フィルターも取り出して,水槽をカラッポにする。内壁を海水でざっと洗い,しばらく乾かす。その間に,汲み出した海水で底砂(サンゴ砂)を洗う。パワーフィルターの中のろ材やパイプも同時に洗う。1年間の汚れがたまっているので,水槽の底には泥が沈殿し,フィルターもゴミでかなり目づまりを起こしている。夏場に使っていたクーラーも,来年までお役ご免になるので洗って収納する。ここまでの作業で,およそ2時間かかる。

ととおりの掃除が済んだら,底面フィルターを敷いて,底砂を水槽に戻す。パイプをつなぎ,ポンプを使って新鮮な海水を入れる。ストラクチャーを戻し,レイアウトし直す。海草は来週海で採ってくる予定なので,水槽の中はまだ殺風景なままだ。パワーフィルターのパイプをつなぎ,電源を入れて,海水を循環させる。エアポンプも作動させる。上部からきれいな海水が水槽の中へ循環していく。フィルターを掃除したので,水の勢いが掃除の前とは全然違う。気泡で水槽の半分近くが白く濁る。水槽が,健康を取り戻したように見える。最後に魚を戻してやり,ガラス板をかぶせ,上部にライトを置く。ライトを点灯すると,見違えるほどきれいになった水の中を,気持ちよさそうに泳ぐ魚たちが浮かび上がる。


 一息入れたら,夕方近くの波止へ新しい魚を採りに行く。秋の波止には,魚種さえ見分けがつかない体長数ミリの稚魚がたくさん泳いでいる。こいつらを20〜30匹ほど網ですくう。たぶんクロダイかヒイラギの稚魚だろう。小さなハリにアミエビをつけて波止際にたらすと,小さなドロメやシマハゼ,アミメハギなどが釣れ上がる。魚種にもよるが,採取する魚は小さいほどいい。春までは愛らしい姿を楽しむことができる。ついでに巻貝やカキも採取する。

の時期の波止には,もう一つの楽しみがある --- モガニ(イシガニ)だ。このカニはワタリガニ(ガザミ)の仲間で,型は小さいが味はワタリガニより上という人も多い。水槽用の稚魚を採取するついでに,カニカゴを持って行く。スーパーで買った150円ほどのパックに入ったイワシを数尾,カニアミに入れて海に沈めておく。魚をすくったり釣ったりしながら,10分おきくらいにカニカゴを引き上げてみる。カニが入っていれば,ずっしり重い。今日は,2時間ほどで甲長7〜8cmほどのイシガニが5はい取れた。これだけあれば,晩酌の肴には十分だ。 


時すぎごろ帰宅し,採って来たばかりの小さな魚たちを水槽に放つ。最初は底の方に固まって動かないが,しばらくすると元気のいいのが1匹2匹と,あちこちを探るように泳ぎ出す。小さなカニ,イボニシ,イソスジエビ,アラレタマキビガイ,カキの塊なども入れる。カキには浄化作用があり,カニやナベカの住まいにもなる。水槽の中は,一気に賑わいを見せる。この瞬間が,アクアリストの至福の時である --- が,本当の楽しみはこれからなのだ。しばらく水槽を眺めた後,モガニを洗ってナベに放り込み,風呂に入る。

呂から上がる。ビールの栓を抜き,ジョッキに注ぐ。茹で上がったモガニにスダチを添え,スーパーで買っておいた枝豆を皿に並べて,水槽を眺めながらカニの身をほじくって食べる。ビールを空け,いそいそと焼酎のお湯割りを作る。--- 酒の飲み方は人それぞれだけれど,ぼくの場合はこうやって自分で獲ったカニをほじくりながら焼酎をチビチビ飲むことに,人生のヨロコビを感じる。「海の魚を飼っている」という話をすると,「新鮮な生け簀料理が食べられていいですね」と言う人もいるが,とてもじゃないが水槽で飼っている魚は,情が移って食べられない。その代わり,海へ行くといろんな食材が採れるので,これらを美味しく賞味する。 --- 海の魚を飼い,海の魚を食べる --- 鑑賞専門の人には申し訳ないけど,こういうマリン・アクアリストもいるのです。