来釣りとは,一人の人間が自然と触れ合いながら楽しむ,ささやかな趣味の一つにすぎません。しかし,釣り人口が増え,釣りが一つのレジャー産業化した今日,残念なことに釣り人は,さまざまな場面で「社会の迷惑」となっています。このページでは,釣り人のマナーの悪さがどの程度社会に害をもたらしているかを反省してみたいと思います。もっとも,「マナー」と呼ばれるものの内実は,時代によって変化します。いい例が「飼い犬のフン」です。われわれが子供の頃,道端にころがった犬のフンは,日常風景の一つにすぎませんでした。それが今では「フンは飼い主が始末する」ことがマナーとして確立しています。釣り人口がこれだけ増えた今日,われわれ釣り人にも,以前よりも高いモラルが求められていると言えるでしょう。

こではいくつかの釣りのジャンルを槍玉に上げていますが,その釣りそのものが悪いと言っているわけではありません。どんな釣りであれ,釣り人自身がマナーをわきまえていればよいことではあります。しかし,一般論として言えば,「下手な奴ほどマナーが悪い」のです。1匹でも多くの魚を釣り上げたい,ということ以外に気が回らないために,自分の行為が周りに迷惑をかけているという自覚もないのでしょう。自分も初心者の頃には経験があるので偉そうなことは言えないけれど,お互い最低限のマナーは守りたいものです。なお,「マナー度」から見たランクを,C(多少問題あり)・D(かなり悪い)・E(最悪)の記号で示しています。A(最高)・B(かなりよい)ランクは,最後に取り上げています。

● ルアー釣り   E

アーと言えばブラックバス。ブラックバスと言えば,世間で言うところの「害魚」。最大の問題は,言うまでもなく「密放流」です。生態系を破壊するこの魚は淡水域の在来魚を駆逐しており,つい先日も,ラージマウスより害の大きいスモールマウス(コクチバス)が主要河川で続々見つかっている,という報道があったばかり。しかもその報道には「釣り業界関係者が無断で川や池に放流したものらしい」とはっきり書いてありました。他の釣りの場合,「ベテランほどマナーがいい」のが普通ですが,ことルアー釣りに関する限り,プロフェッショナルたちのマナーが一番悪い,ということになるのでしょうか。なお悪いことに,この釣りの主なファン層は若者です。自らの反省もこめて一口で言ってしまえば,若者には「マナー」という言葉は存在しません。学生マンション近くのゴミ捨て場を見れば一目瞭然です。彼らは野池近くの畑を荒らし,空き缶やペットボトルを至る所に散らかし(田んぼに釣り人の捨てた割れたガラス瓶が散乱していて田植えができない,という例も),使い捨てのラインやルアーを放置して鳥にケガをさせたりします。くどいようですが,ブラックバスには罪はありません。また,ルアー釣りそのものが悪いわけでは本来ありません。しかし日本のルアー釣り愛好者たち(およびそれに関わる人々)が社会に及ぼしている迷惑の総量は,他のどの釣りの場合よりも多い,と言ってもたぶん間違っていないでしょう。

<追記>

は海のルアー釣りならいいのか?と言えば,これがまた大問題です。1999年秋にも,釣り人で賑わっていた波止が,また1つ立入禁止になりました。地元の方ならご存知の,田島・小用地の波止です。聞くところによれば,主な原因はタチウオ釣りのルアーマンにあるとのこと。それはそうでしょう。瀬戸内海での海のルアー釣りと言えば,夜のスズキやタチウオ狙いが中心ですが,これらの魚は明かりの下の小魚を食べに集まってきます。明かりの下,すなわち漁港です。しかも最高の時合いは,朝・夕のマズメ時 --- つまり,漁船が出入りする時間帯です。そのような場所で大勢の人間がルアー釣りをすればどうなるか?混雑した道路を横切るようなもので,漁船にとっては迷惑行為でしかありません。しかも,どうしても係留してある船の近くで釣ることになるので,ルアーがもやい綱や船の本体にフッキングして,傷つけてしまうこともあります。もちろん港が立入禁止になるのは,他の釣り人にも責任があります。ただ,海のルアー釣りもまた,少なくとも瀬戸内海においては,さまざまな迷惑の原因の一つになっています。

● 波止釣り   D

西日本で波止釣りと言えばチヌ。チヌと言えばダンゴ釣りです。このダンゴがどれほど波止付近の水質を悪化させているかは,多くの釣り人の知るところでしょう。私の家から自転車で10分ほどのところ(松永湾)にも,かつてはチヌがよく釣れる岸壁がありました。しかし,湾内で潮流がほとんどない場所に大勢の釣り人が赤土のダンゴを投入した結果,わずか数年でその釣り場は消滅してしまいました。また,サビキ釣りの客が残すマキエ(およびそれを入れるビニール袋の残骸)の悪臭や,週末に若者が来て散らかす弁当ガラやビールの空き缶,船道に向かって投げ釣りをするマナーの悪さなど,波止はまさに釣り人の「恥」で満ちている,と言っても過言ではありません。休日の波止釣りは行楽を兼ねているケースが多いのでなおさらです。そうした行為によってその波止が立ち入り禁止になり,結局良心的な釣り人の楽しみまでも奪ってしまうケースがよくあることを思うと,「若者と初心者は釣りをするな!」と,ムチャクチャなことも言いたくなろうというものです。

● 渓流釣り   D

自身は渓流釣りの経験はほとんどありませんが,釣り雑誌などを見ていると,渓流釣りの釣り人のマナーも相当悪いようです。ゴミや仕掛けの残りを散らかしたり,山菜を乱獲したり,若者ならともかくいい大人ならもうちょっと節度を持って行動しろよ,と言いたくなります。原生林の残る渓谷を全面立ち入り禁止にすべきだ,といった議論が起こるのも,釣り人の責任によるところが大きいでしょう。

● 磯釣り   D

こでも,釣り人のマナーの悪さは目に余るものがあります。離れ磯でもちょっと人の多いところへ行くと,散乱したマキエの悪臭で釣りどころではない,イシダイ釣り用のピトンなどをそのまま残して帰る,ゴミは散乱しているなど,せっかくの好環境をぶちこわしにするような場所が多くなっているようです。もっとも,これも本などで読んだ情報から判断したものであり,私自身は金を払ってまで磯に渡ろうとは思いません。

● 投げ釣り   C

較的環境には優しいように思える投げ釣りですが,ちょうど犬の散歩と同じで,ゴミを一切散らかさずに投げ釣りを楽しむことのできるマナーのよい釣り人は,一部のベテランに限られているのが現状ではないでしょうか。市販の仕掛けが入っていた袋,釣りを終えた後のハリスやハリなどをそのまま捨てて帰る,フグにハリスを切られたと言ってはハリスをポイポイ投げ捨てる,あるいは釣れたフグやハオコゼを放置してひからびさせる,などなど。私も以前は投げ釣りによく行っていましたが,自分が出したゴミを全部持ち帰るのは,それなりに難しいことだと思いました。最近では,「ゴミは自分で持ち帰りましょう」ということで,ゴミ箱を一切設置していない海岸も増えています。しかしこれは逆効果になっているケースが多く,シーズンオフの海水浴場などは,釣りや水上バイクなどを楽しみに来た若者たちの捨てたゴミがあちこちに散乱しています(若い連中がゴミを自分で持ち帰るなどと期待するほうが間違いでしょう)。よほど自覚して行動しないと,投げ釣り客もまた「海のゴミ」扱いされかねません。

● 船釣り   C

は船に弱いので船釣りの経験はあまり多くありませんが,船釣りで最初に気になったのは,「船頭がやたらに海にゴミを捨てる」ということでした。生ゴミだろうとプラスチックだろうとお構いなしです。今はそうでもないのかもしれないけれど,昔の船頭さんの多くは,基本的に海はゴミ箱だと思っていたようです。もっとも昔は,そんなことは問題にならないくらい海がきれいで,浄化力も十分だったのでしょう。今でも沖釣りをするような海域には,水のきれいなところもたくさん残っています。しかし,日本中の海が汚れて魚が少なくなっているのは,工場廃水や家庭排水による海の汚れだけが原因ではないと思います。確かに磯釣りや船釣りでのマキエが環境を悪化させたという科学的論拠は明らかでないのかもしれません。しかし我々はそろそろ,大量生産・大量消費社会の縮図のような釣りのあり方を見直してもよい時期なのではないでしょうか。

● エコ・フレンドリーな釣りとは?   A・B

状で私の目から見て,比較的「環境に優しい」と思える釣りのジャンルもいくつかあります。それは,フライフィッシング・アユの友釣り・チヌの落とし込み釣りなど,そしてかぶせ釣りです。共通点は,@人工のマキエを使わない,A釣り人口が比較的少ない,Bベテランの釣り人が多い,などです(ふかせ釣りのマキエだって自然の穀物などをベースにしている,というのは理由になりません。自然のものなら海に捨てていいと言うのは,味噌汁を川に流してもかまわないと言うのと理屈は同じだから)。ひとりの釣り人として言わせてもらえば,マキエは全面発売禁止にしてもかまわないと思います。それでも工夫さえすれば魚は釣れるんだから。確かに,数釣りをするのは困難です。でも,1日に数尾釣れればいいじゃないですか。食べる分には十分だし。釣りをする時くらい,世俗的な欲望からは解放されようじゃありませんか,皆さん。