2002/10/06 up

イシダイに寄せて

 

イシダイは,釣りのターゲットとして熱狂的なファンを持っている。

その人たちがイシダイに惹かれるのには,大きく2つの理由がある(と思う)。

1つ目は,強烈な引き。2つ目は,めったに釣れない魚であるという事実

釣りをしない人には,2つ目の理由は理解できないかもしれない。

いかにデカい魚でも,じゃんじゃん釣れては価値は下がってしまう。

もしアジやサバやサヨリやタチウオが「めったに釣れない魚」だったら,

その(釣り魚としての)価値は今よりはるかに高いことだろう。

 

荒磯でさえなかなか釣れないそのイシダイを,狙って釣ろうと思うようになるとは

自分でも思っていなかった。

イシダイがカキで釣れるということは,ずいぶん前から知っていた。

釣り具店の魚拓の脇に書かれていたので。

波止でかぶせ釣りをする人は少数ながら昔からいて,そういう人たちが

近場の波止で偶然に(?)イシダイを釣り上げることがあったようだ。

もっともサイズはせいぜい35cmくらいまでで,本格的なイシダイ師から見れば

取るに足りないサイズかもしれない。

 

しかし,いくら魅力的でも,磯に渡って本格的なイシダイ釣りをしようとは思わない。

何よりも,お金がかかる。

竿は10万円単位だし,エサはウニ。

1回の釣行にいくらかかるのか,見当もつかない。

それでいて,ボウズで帰るのが当たり前。異常な世界である。

 

そもそも,イシダイは自分とは縁のない魚だった。

実物を初めて間近で見たのは,大学生の頃。伊豆で釣りサークルの合宿をやったとき,

ボート釣りで10cmくらいのシマダイ(サンバソウ)が釣れた。

なんと綺麗な魚か,と思った。

水槽で飼ってみたい,とも思った。(今は時々飼っている)

 

福山近辺で釣りをしていても,昔はイシダイなんぞ見たこともなかった。

ここ数年,夏場のサビキ釣りによく小型のサンバソウが掛かるようになった。

過去の釣り日記を見ると,1995年ごろから手の平サイズのサンバソウが釣れている。

かぶせ釣りでまともなイシダイを釣ったのは須波のフェリー波止が初めてで,

最近は秋にはここでイシダイを狙っている。

 

手の平くらいまでのサンバソウは,いろんな場所で時々ヒットする。

30cm級となると釣れるポイントが限られている感じではあるが,まだまだ情報不足

なので,今後情報が集まれば「秋のかぶせ釣りのメインターゲットはイシダイ」という

状況が近いうちに来るかもしれない。

 

「コブダイに寄せて」のページにも書いたが,「かぶせ釣りで狙う必然性のある魚」

とは,今のところコブダイ・アイナメ・イシダイの3種だと思う。

コブダイとアイナメはたぶん食性の関係だろうが,イシダイは必ずしもカキが好物,

というわけでもないらしい。本虫などの虫エサのぶっこみ釣りでも釣れる。

しかし,イシダイにかぶせ釣りが適している大きな理由が,1つある。

あくまで推測だが,イシダイは壁にへばりついて暮らす魚ではないかと思う。

サビキに釣れるサンバソウも,上からのぞくと,岸壁からササッと出てきて

すばやくエサをつついてはまた戻っていく,という行動を取るのがわかる。

須波にしても生名島の小さい波止にしても,岸壁がスリットで潮を通す構造で,

魚にとっては広い隠れ家になっている。

ふだんはその隠れ家にいて,エサの時間だけ外へ出てくるんじゃあるまいか?

そうなると,第1に「岸壁の際を狙う」釣り方が理にかなっていることになる。

手の平くらいのサンバソウは沖目でヒットすることもあるが,今までの経験から

言うと,30cm近いイシダイはすべて岸壁近くのポイントでヒットしている。

こういう釣り方をするには,かぶせ釣りが一番適している。

 

では,たとえばウニを使って岸壁の際を狙ったぶっこみ釣りをするのはどうか?

悪くはないと思うが,たぶんかぶせ釣りよりも釣果は落ちるだろう。

第2のポイントは,「エサが上から落ちてくる状況を作る」という点にある。

イシダイに限らず,魚は上から落ちてくるエサに大きな反応を示す。

活性の低いときは,底についたエサには見向きもしないこともある。

以前テレビの地元釣り番組に出てきた「イシダイ釣り名人」は,

山口県あたりの磯場で面白い釣り方をしていた。

エサはウニだが,投入して10秒ぐらい待って当たりがなければすぐリールを巻き,

また別のポイントへ投入し直す,という動作を繰り返していた。

あれが,正しい釣り方だと思う。

かぶせ釣りの場合でも,イシダイの当たりは着底直後に出ることがほとんどで,

中層で落下中のカキに食いつくこともある。

着底した後じっと当たりを待つような釣り方だと,効率が悪い。

 

当たりについては,「なかなか手ごわい」と言える。

口が小さく固いので,ハリに乗りにくい上にバラしやすい。

ギザミの当たりかと思って合わせたらイシダイだった,ということもよくある。

当たりがあっても掛からない,というのは何を意味するかと言えば,

いったん口に入れたエサを吐き出す」ということである。

チヌやアイナメと同じ習性があることになる。

もっとも,水槽で飼育している魚を観察すると,ほとんどの魚はそういう行動を取る。

彼らはまず,「自分のサイズに合ったエサ」を選んで食べる。

小さいエサと大きいエサをまぜて落としてやると,大きいエサに食いつく。

小さすぎるエサには見向きもしない。

ただし,大きいエサを一度で飲み込むわけではなく,吸い込んでは吐くのくり返しで,

少しずつ食べていく。

 

テレビの釣り番組では,イシダイ釣りのセオリーとして「最後の大きな当たりが

出るまで待つことが一番大切だ」とたいてい言っている。

「これはイシダイの当たりですねー」「最後の食い込みがありませんねー」---

で,仕掛けを上げてみるときれいにエサをとられている,という場面が出てくる。

あれを見ると,「全然違うんでないの?」とツッコミを入れたくなってしまう。

イシダイ君は,いったんエサをきちんと口に入れとるんでないかい?

で,柔らかいとこだけ食べて吐き出しとるんでないかい?

吐き出す前に合わさんから,ハリに掛からんのでないかい?

「最後の食い込み」というのは,エサを吐き出すとき間違ってハリが口に

引っ掛かってしまって暴れる動きなんでないかい?

--- と,思ってしまうのですね。

 

だいたいやね,ワイヤを使うというのからして間違いですよ。

ワイヤでコブダイと勝負した井原のお二人には実感できると思いますが,

ワイヤ付きのサシエにホイホイ食いつくのは,よほど鈍い魚であります。

70cmとか80cmとかのサイズしか狙わんのならともかく,

40〜50cmくらいのイシダイなら,磯でも自分ならこう釣りますね。

まず,竿は4〜5mくらいの軟調軽量竿。リールはスピニング。

道糸は5〜6号くらい。ハリスも5〜6号ぐらいのナイロンかフロロ。

ハリはなるべく軸の長いの(口の端で噛み切られないため)。

エサは,カキ。

釣り座からせいぜい10m沖くらいまでの急深のポイントを狙って,

かぶせ釣りと同じ要領で投入。

根掛かりが多いだろうから,当たりがなければすぐに巻き上げて再投入。

当たりがあったら即合わせ。

実際にやったことがないから全然間違っているかもしれませんが,

要は「ハリス切れの危険を冒しても当たりを頻繁に出すか,それとも

当たりは少なくていいから確実に掛けて取り込むか」の選択になると

思うわけです。かぶせ釣りのコブダイ釣りと一緒ですね。

 

イシダイをことさらに釣りたいと思う個人的動機は,3つある。

その1。めったに釣れないので希少価値がある。

その2。「波止でイシダイを釣る」ということにパイオニア精神を感じる。

その3。イシダイは食べて美味しい。

その1は一般的なイシダイ師さんと同じ。

その2は,そもそも瀬戸内海の波止でイシダイを狙って釣る,というようなことを

かつて考えた人は,あまりおらんのじゃないか,と思うのであります。

イシダイは暖海性の魚なので,今後数が増えることはあっても減りはすまいし。

スカリにイシダイが入っとったら,ギャラリーにも自慢できるしね。

 

イシダイの刺身については,独特の風味があるので好き嫌いが分かれると思う。

しかし,煮付け・吸い物・蒸し物などは無条件に美味しい。

チヌやグレなんか問題外。

アコウの次ぐらいのグループに入れていい。

手の平サイズのサンバソウでも,煮付けや吸い物が食べたいので

キープサイズの目安を16cmとして,小さいやつも持ち帰っている。

 

最後に,過去の記録から備後地方のイシダイ釣りの状況をまとめてご紹介。

● 釣期は10月が中心。今年は生名島で5月中旬〜6月末ごろまで好調でした。

   基本的に暖かい海の魚なので,水温の低い時期はダメ。7〜8月でも釣れるかも。

● 30cm級イシダイの実績ポイント(自分で釣ったか,他人が釣ったのを見聞きした)

・田島=小用地波止 / 幸崎旧フェリー乗り場波止 / 天神波止

・横島=横田漁港大波止&一文字波止 / 釜戸(タンク)波止

・沼隈=岩船波止

・その他=須波フェリー波止 / 生名島埋立地波止 / 下蒲刈島・向の波止