2002.7.6 末尾に記事を追加。

● 有料の釣りイカダでのかぶせ釣りと言えば,ほとんどチヌ(大きいもので50cm級)だけをターゲットにしています。それくらい,チヌ(クロダイ)はかぶせ釣りの対象魚としてなじみの深い魚です。かぶせ釣りで釣れるチヌはほとんどが30cmオーバーで,ファミリーフィッシングの盛んな普通の波止でも40〜45cm級が十分期待できます。

● しかし波止からのかぶせ釣りでは,チヌは対象魚の一つではありますが,決してすべてではありません。なぜなら,チヌが最もよく釣れる夏季は,カキの身が溶けてしまって使えないからです。したがって,波止からのチヌのかぶせ釣りのベストシーズンは,晩秋から初冬にかけて(12〜1月)と,ハラミ(乗っ込み)の時期に当たる4〜5月ころ,ということになります。


● チヌを狙うときは,まずカキは小ぶり(身の白い部分が親指の第1関節から先くらい)のものを使います。身が大きくても,カラを少しだけ割って露出部分を小さくすればOKです。当たりのパターンはさまざまです。チヌは警戒心の強い魚で,よほど活性が高くない限り,一度にエサを飲み込むことはありません。小さめのサイズ(30cm級)の場合は「ガツン」と竿を引ったくるような当たりが出ることもあります(こういう当たりのときは置き竿でもハリ掛かりします)が,一般には小さな前当たりが出ることが多いようです。チヌ釣りの合わせで大切なのは「早合わせしない」ということです。できるだけ我慢して,最後の当たりを取るようにするのがコツです。ただし,ここで言う「遅合わせ」は,フカセ釣りやイカダ(カセ)でのダンゴ釣りなどの場合とは全く意味合いが違います。それらの釣りで遅合わせするのは「チヌがエサを飲み込むまで待つ」のが目的ですが,かぶせ釣りでは「魚がゆっくりエサを飲み込む」ということは絶対にあり得ません。勝負は一瞬で決まります。では,なぜ遅合わせするかと言えば,チヌという魚の就餌行動は,餌を一気に飲み込むよりも,端からかじり取るようについばむことが多いからです。警戒心が強い魚なのでエサを食べ始めるまでには時間がかかりますが,いったん食い気が立つと,そこにあるエサは全部食べようとします。それで,最後の一口を食べるときに合わせるのが一番掛かりがよくなるのです(もちろん最初に口を付けたところにたまたまハリがあれば,一発で掛かります)。

● もっとも,チヌとハゲ(ウマヅラハギ)は同じ時期に同じ場所で釣れることが多いため,チヌの当たりをハゲの当たりと勘違いして,ついつい早合わせしてしまうことがよくあります。ただ,チヌの場合は底でバラしても(口の端にハリ掛かりした感触があって,完全にフッキングしておらず外れたような場合),同じ場所にカキを投入すれば再びヒットすることがよくあります。一般に魚は「底バラシ」をすると散ってしまうと言われていますが,チヌについてはそうでもないように思います。取り込みは,岸壁のカキに擦れてハリスが切れないよう注意しますが,チヌの引きはコブダイなどに比べれば上品なので,ハリス切れによるバラシは少ないと思います。ただ,カラ付きのカキを使うため「餌を飲み込む」ということがないので,口の皮一枚にハリ掛かりしていることがよくあります。強引な抜き上げは避けて,確実にタモですくうようにしてください。


● 釣り方のもう一つのポイントは,「マキエのカキを切らさない」ということです。アイナメやコブダイの場合は第一投でヒットすることもありますが,チヌの場合はまずそういうことはありません。ある程度マキエが効いてこないと,チヌはなかなか寄って来ません。マキエは一度に大量にするのではなく,少量ずつカキを砕いて撒いてやります。潮流を考えながら,自分の狙ったポイントにマキエが溜まるように撒くのがコツです。なお,集魚材は使いません。試みにカキガラに集魚材を混ぜて撒いて釣ったこともありますが,釣果に差は見られませんでした。カキのマキエだけで十分だと思います。


<補足> (2002.7.6)

チヌを釣る場合,「合わせのタイミング」が問題になります。置き竿の向こう合わせでも掛かることはありますが,その確率はせいぜい3割くらい。合わせても空振り,ということもよくあります。

以下,個人的経験から「チヌの当たりの出方と合わせのタイミング」について考えてみます。

 

@ 手元に「ガツッ!」とくる当たり

⇒ あまり多くありませんが,活性の高いときはこういう当たりも出ます。反射的に腕が動くはずなので,特にタイミングを測る必要はありません。たいていハリに掛かります。ただし,30cm級の小ぶりのサイズが多いです。

A 着底前に「スーッ」と竿先を引き込むような当たり

⇒ これも,当たりを感知した瞬間に竿をあおればたいていハリ掛かりします。大型に多い当たりです。おそらく上から落ちてくるサシエをそのまま飲み込んだときの当たりでしょう。この当たりが出るのは,小さいカキを使い,カラを小さくして身をなるべく露出させた状態でゆっくり落とし込んだときです。チヌがサシエを発見してから口にくわえるまでの(泳ぐ)スピードにマッチした速度でサシエが落下するとき,こういう当たりが出るものと思われます。

B 竿先を大きくフワフワ上下させる当たり

⇒ これが一番やっかいです。竿先が2〜3回大きく持ち上がったりおじぎしたりする当たりはチヌ特有のもので,他の魚にはない当たりです。大きく引き込んだときに合わせても,掛からないこともあります。この当たりが出るときチヌがどのようにエサにアタックしているかを,推測してみました。こういう当たりが出るのは,「チヌがカキをカラごとくわえて泳いでいる」状態ではないか,と私は思っています(アケミ貝などの固いエサに対して,チヌがこういう食べ方をする場面を水中撮影で見たことがあります)。つまり,フワフワッとくる当たりの段階では,まだきちんとサシエを口に入れていないのではないでしょうか。このとき合わせると,たまたまハリの位置がチヌの口の中にあれば掛かるし,そうでなければバラすことになります(いったんハリ掛かりして途中でバラすのは,この当たりのときが多いです)。では,どのタイミングで合わせるか?ということになりますが,これがまた難しいです。フワフワッときても合わせずに我慢していると,「コツッ」という鋭い本当たりがくることもあります。このときはたいていハリに乗ります。しかし,「フワフワ」だけでサシエを取られてしまうこともあります。そういうときは「しもた〜,もうちょっと早う合わしときゃえかったか!」というような後悔をしたりもします。が・・・,一般にかぶせ釣りでは「チヌには早合わせは禁物」と言われます。それはたぶん,このような当たりのときに早合わせするな,という先人の知恵なのではないかと私は思っています。私は基本的に,この当たりに対してはじっくり「本当たり」を待ちます。たとえ空振りしても,大丈夫です。チヌはいったん口を使い出すと,同じポイントにサシエを投入すれば何度でも当たってくるからです。ただしそのためには,時合いのときに手際よく打ち返しができなければなりません。せっかく当たりが出ている時間帯にサシエの投入に手間取っていては,寄った魚が散ってしまいます。

C 着底の直後に小さく「コツッ」ときて,フワッと竿先を浮かせる当たり

⇒ 活性が高いときの当たり方です。竿先が浮いたときに合わせても手遅れで,空振りすることもよくあります。これは「いったんくわえたサシエを吐き出した」ときの当たりだと私は考えています。アイナメの場合も,こういう当たりがきます。この当たりのときは,反射神経が勝負です。油断してサシエを取られて,「今のは何の当たりだろうか?」と思って神経を集中して再投入してきっちり合わせると,掛かったのはチヌだった,という経験がたびたびあります。

D 当たりがないので置き竿にして放置しておいたら,竿先が大きく揺れた!

⇒ こういう釣り方は本来は論外ですが,後片付けをしている間に未練たらしくサシエを投入したままにしておいたら,チヌがヒットした,という経験も何度かあります。これは活性が低いときのパターンです。アイナメの場合もそうですが,ふつうはサシエが着底した直後から20〜30秒以内くらいが勝負で,サシエを沈めっぱなしにしていてもなかなか当たりは出ません。ただ,水温が低く魚の活性も低いときは,チヌでもアイナメでも「投入から5〜10分くらいしてから当たる」というようなパターンになることもあります。このときは当然,思わず竿を握って大きく合わせることになります。が,掛かる確率は半分くらいです。まあ,置き竿で釣れりゃ誰も苦労しませんしね。

 

一般に魚は「底でバラしたら散る」と言われます。しかし,チヌの場合はそうでもありません。バラした魚が何度もアタックしてくることもよくあります。合わせに失敗しても,同じポイントに落としさえすれば何度目かにはたいてい釣れます(アイナメの場合はそうはいかず,バラシはおろか一度空振りしたらその後全く当たりが途絶える,ということもよく起こります)。ただ,少なくとも「空振りした魚」が何であったかを判別できなければ,それに応じた釣り方ができません。アイナメはだいたい魚の大きさと当たりの大きさが比例しますが,チヌの場合はどちらかと言えば「大きいチヌほど当たりは小さい」という傾向があります。しかし,竿を手に握ってさえいれば,手元に伝わる「当たりの重み」で,ザコであるかマトモな魚であるかは判断できます。置き竿で竿先を目で見ているだけだと,そういう判断ができません。だから,この釣りでは置き竿は絶対ダメなのです。