日記帳(06年2月12日〜25日)

 

 

イスラム教の預言者ムハンマドを風刺した漫画が,世の中を騒がせている。

「信仰心」と「言論の自由」との対立,ということに,一応はなっている。

しかしこれは,「難しい問題」でも何でもない。悪いのがどちら側かは明らかだ。

 

誰が何と言おうと,悪いのは西欧側である。「西欧にもナチスというタブーが存在

するのに,イスラムのタブーを認めないのはダブル・スタンダードだ」という意見も

確かに一理あるが,それは「悪いのはお互い様」というネガティブな理由にすぎない。

西欧側の本質的な非は,別のところにある。(イスラム教徒が各地で暴動を起こして

いるのは,確かに悪いことだ。しかし,ケンカを売ったのは西欧側である)

 

西欧側は「権力を批判する自由」を重要視しているが,ここで言う「権力」とは元来,

「自分たちを支配する権力」だったはずである。日本を例にとっても明らかだ。

戦前は,新聞が大本営の発表を批判することなど許されなかった。それは確かに

悪であり,軍部の支配下にある者が「軍部を批判する自由」を主張するのは正しい。

しかし,日本のマスコミが他国の文化や宗教や政治指導者を侮辱するようなことを

書き,それに大して当事国の外務省から抗議が来た,という状況なら,どうだろう?

このとき,「言論の自由だから」という理屈が本当に成り立つのか?--- 「それは,

ちょっと違うんじゃないの?」と誰でも思うはずだ。

 

もっと言えば,「自由」とか「権利」とかいう言葉は,もともとそれらを持たない者

たちが「自由がほしい」「権利がほしい」という文脈で使ってこそ意味がある。

今や世の中への影響力という点では政治をも凌駕するマスコミという大権力が,

今さら「自由を守れ」「権利を守れ」と声高に叫んでも,鼻白むばかりだ。

 

ここで話は,「犯罪被害者の実名報道」の問題に移る。

政府が昨年作った基本計画には,犯罪被害者の氏名の発表を(被害者の親族

などの要望をふまえ)警察の判断で実名にするか匿名にするかの判断ができる,

という内容が盛り込まれた。これに対してマスコミは一斉に反発し,「国民の知る

権利に応え,報道機関の責任を果たすためには,実名でなければならない」と

主張している。「警察発表は実名で行い,それをどう扱うかは報道機関が自律

的に判断すべきだ」というのが,マスコミの言い分である。

 

これも,断定しよう。悪いのはマスコミの方である

実名か匿名かの判断を警察に委ねることを積極的に是とするわけではない。

しかし現状では,氏名の扱いをマスコミに一任するのは,メリットよりもデメリット

の方が大きいと言わざるを得ない。そもそもこんな話が出てくるのは,これまで

マスコミが犯罪被害者およびその関係者に多大な二次被害を与えてきたからだ。

マスコミ自身は守るべき倫理協定を作ってはいるが,十分には機能していない。

つまり,「マスコミの自律性に任せていたのでは問題は解決しない」ことが,

匿名報道論議の発端である。それに対して当事者のマスコミは,「警察は信用

できない。我々の自律的判断(良識)の方が信用できる(信用してほしい)」と

言っていることになる。彼らのホンネは,「自分は良識を持っている。自分の

仲間の中には非常識なやつらもいるが,そいつらのために自分まで損をする

のはいやだ」ということだ。こういうのを「自己中」というのだ。

 

ここで再び,風刺漫画の話に戻る。

日本はこの問題の当事者ではないのだから,客観的な論評ができるはずだ。

たとえば「他国の新聞が日本の天皇を風刺する漫画を掲載したなら,我々は

それを『言論の自由』の名の元に不問に付すことができるのか?」というような

問題提起をするマスコミが現れても不思議ではないと思うが,今のところその

ような報道を見たことはない。さらに,新聞はともかく週刊誌は,問題の風刺

漫画をもっと大々的に取り上げてもよさそうなものだが,この問題に関しては

及び腰になっているように見える。

 

しかし,それは当然なのである。なぜなら,「宗教」と「言論の自由」とが対立

している状況下で,マスコミが宗教の方に肩入れするわけがない。それはすな

わち,自分たちの命である「言論の自由」を自ら否定することになるからである。

この姿勢は,匿名報道論議にも当てはまる。要するに彼らのしていることは,

肥大化したお役所が既得権を守ろうと抵抗するのと同じことである。

これらの件に関する彼らの思考は停止しており,「とにかく自分たちが現在

持っているものを少しでも減らしたくない」という本能で動いているにすぎない。

 

「警察が被害者を匿名で発表するのは許されない」と主張したいのなら,

たとえば次のような措置とセットでなければ説得力はない。

 

「警察から実名の提供を受ける代わりとして,今後すべてのメディアは,過剰

報道などによる犯罪被害者への迷惑行為は一切しない。これに違反した報道

関係団体または個人には,我々自らがしかるべき強力な罰則を課す」

 

しかし現実は,「実名はほしい。その扱いはマスコミ各社の良識に任せなさい」

と彼らは言う。アホか?おまえらにそれができんから,被害者たちは警察に

対して匿名での発表を要請しとるんじゃないか。まるで中学生が「服装や化粧

を校則で禁止するのはやめてほしい。校則がなくても自分で判断して,ちゃん

とした格好をするから」と学校に申し入れているようなものだ。そんなもん,

誰が信じるか!ホンマにおまえらに「言論の自由」を守る気概があるんなら,

オリジナルで描いたムハンマドの風刺漫画を新聞や週刊誌に掲載してみい!

 

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