日記帳(07年8月27日〜9月9日)

 

 

夜釣りをやらなくなった理由はいろいろある。たとえば,夜釣りに行くと生活時間が狂う。

特に週末は夕飯の支度をすることが多いので,釣りに行くヒマがない。夜釣りは昼間の

釣りに比べてトラブルが起こることが多い(車上荒らしとか)。夜の方が釣り人が多く

(特に明かりのある場所),落ち着いて釣りがしづらい。釣って持ち帰った魚を翌日調理

するのがめんどくさい。そもそも,狙った魚が思うように釣れない。夜釣りのターゲットの

うち,タチウオやイカは明かりのあるポイント付近は大勢の人がいて竿が出しづらいし,

メバル狙いは小型しか釣れんし,アコウは釣れたためしがない。

 

しかし,昼間はまだまだ暑いので,きのうの土曜日(9月8日),10年ぶりくらいに夕方から

釣りに行った。行き先は須波。狙いはホゴ,あわよくばアコウ。エサはエビと青虫。

結果は,6時から9時まで3時間竿を出して,まともな当たりは1回もなく丸ボウズ。

土曜の夜ということで他に釣り人は10人くらい入っていたが,誰も釣った様子はなし。

慣れんことはするもんじゃない。で,今日は釣りに行かず仕事をしたり雑用をしたりして

過ごしている。

 

最近起きた出来事のうち,前田の2,000本安打に思うことを少々。

 

前にも書いたが,プロ野球選手,特に野手の将来性は,入団1〜2年目の成績を見れば

およそ見通せる。投手の場合は大器晩成というケースもあるが,野手にはほとんどない。

前田は,入団した年からファームで抜群の成績を残していた。もっとも当時は,今と違って

スポーツ新聞にもウエスタンリーグのスコアは掲載されていなかった。二軍選手の成績を

知る唯一の手がかりは,週刊ベースボールに毎週掲載される,ウエスタン・イースタンの

防御率と打率のベストテンだけだった(ちなみに緒方の頃にはそれさえもなく,彼が高卒で

入団早々に二軍で好成績を残していたらしいことはラジオで聞いて知った)。

前田は,入団した年の前半戦で,ウエスタンリーグの打撃成績の上位をキープしていた。

この種の情報が出始めて以来,カープの高卒野手で1年目の前半から二軍で高い数字を

残した選手は,記憶する限り長嶋・前田・東出の3人しかいない。他のチームで言うと,

入団2年目にファームで首位打者を取ったイチローは言うまでもなく,別格の数字を残して

いたのは城島・岩村・川崎(ソフトバンク)・吉村(横浜)らだ。彼らは入団2年目にはファームの

トップ選手だった。カープの栗原も,打席は少ないものの2年目には3割を打っていた。

今年の一番の有望株は巨人の坂本だが,そこまでの域には達していない。ちなみに投手の

場合は,「新人の年が一番よかった」ケースも少なくない。ヤクルトの高井やオリックスの

阿部健がその典型だろう。だからカープの前田健や斎藤も,まだまだ先はわからない。

 

前田は,ケガをしたのは確かに不運だったが,最終的にプロ野球選手として名を成した

わけだから,今はそれなりに満足しているだろう。オーナーは「少年が大人になり父親に

なって,人間的にも成長した」的なことを言っていたが,プレーしか見ていない我々には

そのへんのことはよくわからない。しかし本人が言っていたとおり,周囲の人の支えに

感謝している,という気持ちは本当だろう。よかったね,おめでとう,前田くん -------

 

ところで,前田がこれほど絶大な人気を集めている理由は何だろうか?もちろん,高い

才能に対するあこがれも大きな理由だろう。しかし,より大きな理由は,よかれあしかれ

彼の「アクの強さ」にあると思う。独善的だとかふまじめだとか批判する向きもあるが,

結局のところ彼を含む多くのスターは,「普通じゃないもの」を見たいという大衆の欲望を

満たしてくれる点に人気の源泉がある。「前田とはどんな選手か?」と問われれば,

多くの人が共通のイメージを持つことができる。単に野球の成績だけの問題ではない。

以前「クレヨンしんちゃん」で,幼稚園でのクラス対抗の草野球(的な遊び)の話があった。

となりのクラスのチームが最後の切り札を出してきた。先生が言った。

「ピンチヒッター,笑わない前田くんよ!」−大魔人のような四角い顔をした,明らかに

カープの前田をモデルにした幼稚園児が出てきた。そのくらい,カープの前田と言えば

「ヒットを打っても喜ばない」とか「とっつきにくい」とかいう,わかりやすいイメージが

つきまとっている。そのわかりやすさは,清原や金本や,去年の黒田にも通じる。

松井や松坂や楽天の田中などは,どちらかと言えば純粋に高い能力だけで人気を

集めていると思うが,前田の人気はそれとはちょっと違う。前田には失礼だけれど,

前田が集める人気の性格は,細木オバサンのそれに近い。

 

「普通じゃないもの」で思い出したが,中国新聞に最近,あやしげな名前の会社の

社長の一代記のようなものが,毎週日曜日に連載されている。「世の中は自分を

中心に回っている」という発想が露骨に透けて見えて,決してお近づきにはなりたく

ないタイプの人物ではあるが,読み物としては面白い。たとえば先週は,就職したての

若い頃の話で,「当時は会社の先輩や同僚たちと賭け麻雀をやって儲けたお金を

安月給の足しにしていた」という趣旨のことを書いていた。強い人を避けることによって,

麻雀でそこそこ稼ぐことができた,のだそうだ(一種の人生訓のつもりだろう)。

普通の人は,こういうことはまず絶対に書けない。酒の席での雑談や自分のブログ

なら問題ないだろうが,なにしろ新聞である。「こんなことを書いたら,読者から

(違法行為を正当化しているという)苦情が来るんじゃなかろうか」と心配するだろうし,

それによって新聞社に迷惑がかかるかもしれない,と思いを巡らすからだ。しかし,

「こういう性格の人は,そんなことは考えないのだろうな」と思わせる「アクの強さ」が,

文面からにじみ出ている。そこが,この人の文章の訴求力を高めている最大の

売りである。新聞社も,そこを買って連載を依頼しているだろう(おそらく読者から

苦情は来ただろうが)。要するに,多くの人々の気持ちの中には,単にきれいな

ものよりも,ドロドロしたものを見たがる気持ちがある。これも前田に思い切り失礼

だけれど,その「ドロドロ願望」のはるか彼方の延長線上に,前田に惹かれる人々の

心情は位置しているのかもしれない。

 

前田がらみで思うことをもう1つ。前田はドラフト4位であり,5位が江藤だった。

そして,前田より上位のドラフト3位で指名されたのが,前間という左投手だった。

たしか佐賀県の出身で,高校時代に前田を抑えていたことが指名の理由だったそうだ。

ひょろっと背の高い投手で,入団後はずっと二軍暮らしが続いていた。

6〜7年が過ぎた頃,4月の新聞にファームのスコアが載った。前間はウエスタンの

開幕投手となり,完封勝利を飾っていた。それまでにも敗戦処理で何度か1軍で投げた

ことはあったが,この当時は1軍と2軍の入れ替えがあまり活発ではなく,彼もなかなか

チャンスをもらえないような状況だった(前年までの2軍の成績も大したことはなかった)。

しかしその年,前間は1軍と2軍を行ったり来たりしながら,先発と中継ぎで3勝を挙げた。

長い下積みを経てようやく芽が出かけたか?と思いきや,彼はその年のオフに自ら

退団を申し出た。当時の新聞を読んだ記憶では,退団の理由は「家庭の事情」であり,

「入団した頃は,自分はとてもプロではやっていけないと思った。それが1軍で勝利投手

になることもできて,思い残すことはない」というようなことを語っていた。

彼がその後どうなったのかは知らない。選手時代に大した年俸をもらっていたわけでは

なく,家業を継がない限り再就職も楽ではなかっただろう。思えば,こうした選手の方が

成功した選手たちよりもはるかに多い。中には生活苦のために犯罪者になる者もいる。

プロ野球の世界に入り,一生を野球の世界で生きていける選手は一握りにすぎない。

他の多くの「元選手」たちにとっては,野球の世界を離れた後の人生の方がはるかに

長い。ハイリスク・ハイリターンの世界に飛び込み,途中で挫折した人たちの,その後の

幸福を願わずにはいられない。こういうことを思うのも,自分もいくつかの職場を渡り

歩き,たまたまある種の汎用性のある技術を持っていたので路頭に迷わなくて済んだ

にすぎない,という思いがあるからだ。もし一般事務職だったら,会社がつぶれたり

リストラされたりしたら,たちまち生活に困るであろうことは,自分の身を振り返って

みればよくわかる。今のカープの若手選手たちの中にも,そういう危険にさらされて

いる者はたくさんいる。努力で実力の差を埋めることは難しいかもしれないが,彼らが

夢破れて退団した後も,地道な人生を送れるような世の中であってほしい。

 

 

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