日記帳(07年11月18日〜11月23日)

 

 

突然ですが,ネット上でマンガを無料で読めるのを皆さんはご存知ですか?

 

http://comics.yahoo.co.jp/bin/search?kind=browse

 

ここでは,1,500冊近いマンガ単行本の第1巻の一部または全部を,無料で読むことができます。

 

というわけで,そろそろ年末も近づいてきたので,恒例の「今年印象に残ったマンガ」の話を。


オフィシャルな話題としては,コミックヨシモトがあっという間に廃刊になったり(「有名作家を集められなかったから」と当事者たちは弁解していたが,それは違うと思う),「ブラックジャックによろしく」の掲載誌が変わったり,ハチクロの羽海野チカが青年誌に連載を始めたり,作者の呪い(?)通じてか「さよなら絶望先生」がアニメ化されたり,「24のひとみ」がドラマ化されるという冗談のようなことが起きたり,「イキガミ」の映画化が決まったり,「働きマン」は予想通りドラマになったり・・・などなど。


そんな中で,「今年を代表する1本」を選ぶなら,「ライアーゲーム」(甲斐谷忍)を推す。かつて「パタリロ」を評して「風呂に入れてコロンをつけた(がきデカの)こまわり君」と言った人がいたが,「ライアーゲーム」は「風呂に入れて体毛を剃ったカイジ」みたいな,スタイリッシュなギャンブルマンガである。テイストとしては「デスノート」に近い。最近この手の「知能ゲーム」的な話がはやっていて,少年誌にもたいてい1本は連載されている。「ライアーゲーム」は深夜のテレビドラマも高視聴率を上げ,今年はいろんなメディアで話題になった作品である(現在もヤングジャンプで連載が続いている)。

以下,個人的に今年印象に残ったマンガのベスト3を,下から順に挙げてみる。

● 第3位  レッド(山本直樹)


単行本1巻の巻末の作品紹介に,こう書いてある。
「この物語の舞台は1969年から1972年にかけての日本。ベトナム戦争や,公害問題など高度成長の歪みを背景に,当たり前のように学生運動に参加していった普通の若者たちが,やがて矛盾に満ちた国家体制を打倒するという革命運動に身を投じていく様と,その行き着く先をクールに描き出す,若き革命家たちの青春群像劇である。」


山本直樹は,硬派の漫画家である。森山塔名義で18禁青年マンガ界の大人気作家となり,ビッグコミックスピリッツに発表の舞台を移してコメディータッチのお色気漫画で人気を博した後,作風はしだいにシリアスさの度合いを増していく。彼の作品の多くは過激な性描写を含んでおり,作者自身の言葉によれば,原稿を描く際には一切ボカシは入れない(どのように修正するかは編集者に任せる)という。宮崎事件を契機として有害コミック追放運動が盛んになった頃も,表現の自由を代弁する作家集団の重要人物の一人とみなされていた。この「レッド」という作品(タイトルはもちろん連合赤軍のもじり)では,表紙に卒業アルバムのように20数人の若者が並んだ絵が描かれており,そのうち15人に@〜Nの番号がつけられている。この番号は,作品中で死んでいく順番を表している。登場人物はもちろん仮名だが,史実(あさま山荘事件に至る連合赤軍が引き起こした数々の事件)をモチーフにしたフィクションである。第1巻ではまだ1人しか死んでいないが,この先どれだけハードな展開になるのか予想もつかない。

●第2位  おやすみプンプン(浅野いにお)


この作品は,宝島社から毎年出ている「このマンガがすごい」の人気投票でも,ベスト10くらいには入るだろうと思う。浅野いにおの名を一躍有名にしたのは,2005年発表の「ソラニン」である。もう古本屋の棚にも並んでいるだろうから,知らない人は読んでみるといい。「ソラニン」は,少女マンガのメガヒット作「ハチミツとクローバー」を青年誌に移植したような,若者たちの「自分探し」の物語である。読めば,たぶん多くの人が感動するだろう。ただ個人的には,感動を構成する大きな要素が「主要登場人物の死」にある点が,ちょっと安易な気がしないでもない。


作者の最新作「おやすみプンプン」(週刊ヤングサンデー連載中)は,一口で言えば「少年の成長物語」だが,この作品の変わったところは,主人公とその身内だけがラクガキのような鳥の姿で描かれている点にある。この種の手法は作者が初めてではなく,有名なところでは,マンガ界の中島みゆきとも言うべき存在感を放つ巨匠・萩尾望都の短編の代表作の一つ「イグアナの娘」などでも使われている。この作品の場合,ノーマルな人々の中で主人公の少女だけがイグアナの姿をしているのだが,主人公のコンプレックスが自分をイグアナに見せている,という設定になっている。「おやすみプンプン」の場合は,主人公・プンプンと彼の身内だけがなぜそういう異形の姿をしているのか,今のところわからない。ただ,作品の雰囲気はかなりハードであり,ハッピーエンドの物語にはなりそうにない。ある種のホラーというか,この作者のたどってきた道を考えると,行き着く先は新井英樹のような作家になるのだろうか。

● 第1位  ディエンビエンフー(西島大介)

今年の個人的な1位はこの作品で決まりだが,一般の評価が高いかどうかはわからない。まして大人が読んで満足できるかと言えば,かなり怪しい。しかし,この作品の「マンガ的な面白さ」は抜群だと思う。何より,スミで真っ黒く塗られた空が青く見えてしまうほどの,鮮烈な白と黒のコントラストを生かした西島大介の絵が魅力的である。


本作は,もともと大塚英志が責任編集を務めた隔月刊誌「Comic新現実」という,コアな漫画マニア以外は誰も読まない,小さな活字がびっしり詰まった分厚い雑誌に連載されていた。しかし同誌は1年間限定で出版されたため,雑誌の廃刊とともに初代「ディエンビエンフー」は打ち切りの形で終了した(その単行本は持っている。将来値が上がるかもしれない)。本作品は「月刊IKKI」というこれまたマイナーな雑誌でそれをリメイクしたもので,単行本は現在2巻まで出ている。

タイトルからわかるとおり,この作品の舞台はベトナム戦争である。しかし,上記「レッド」のようなシリアスな実録マンガではなく,エンターテイメント色が濃い。主人公は米国からベトナムに赴任した日系のカメラマン青年だが,ヒロインの活躍の方が目立っている。彼女はベトナム人の「お姫様」(詳しい素性は不明)で,グリーンベレーの刺客たちと死闘を繰り広げる。これだけ聞くとありがちな「戦う美少女もの」のようだが,舞台がベトナム戦争だけに,単に登場人物たちが強さを競い合っているわけではなく,それぞれの背景事情を抱えている。西島大介の絵柄はギャグ漫画の延長のようなヘタウマ系で,ヒロインの造形はどの作品でもほとんど同じだが,この作品は敵役のキャラが見事に立っている。また,戦いが自己目的化した安易なバトルマンガとは一線を画しており,ちょっとダークな雰囲気も作品の魅力を増している。マンガの場合,「いい作品」と「面白い作品」とは必ずしも一致しないが,この作品は「面白い作品」であり,読めばカタルシスがたっぷり味わえるはずだ。


今後ブレイクしそうなマンガを1本選ぶなら,これ。

「風が強く吹いている」(原作:三浦しおん/作画:海野そら太)

「ヤングジャンプ」での連載はまだ始まったばかりだが,直木賞作家による箱根駅伝を目指す若者たちを描いた作品が原作ということで,たぶん映画化されるんじゃないかと思う。駅伝マンガと言えば,途中で路線変更してタイトルと内容が食い違ってしまった「奈緒子」(中原裕)が有名だが,あれは高校駅伝の話。箱根駅伝は最近盛り上がっているし,この作品は絵が今イチではあるが,たぶんかなりヒットするだろう。

その他,印象に残った作品を2つ挙げておく。


「遅咲きじじい」(小林よしのり)

以前「一番嫌いな漫画家は小林よしのり」と書いたことがある。確かに当時はそう思っていたが,今は違う。今ではこの人も,立派な漫画家になったと思う。人は日々成長するもので,彼も一時はマンガ家よりも思想家としての活動が目立っていたが,今はその経験でひと回り大きくなったと思わせるような,良質のマンガ作品を世に送り出している。本作はいかにも説教好きそうな初老の男性が主人公で,彼の思想や行動と周囲の人々とのギャップを誇張した一種のユーモア漫画であり,マンガによって何かを主張しようという気負いは全く感じられない。「天才柳沢教授の生活」を泥臭くしたような,心地よい読後感をもたらす,作者の新境地とも言うべき作品である。あの「東大一直線」の頃の見るに堪えなかった絵がここまで進歩しているのも,感慨深い。興味のある人は「ビッグコミック」を読んでみてください。

 

「ジナス−ZENITH」(吉田聡)

「週刊モーニング」に不定期連載されているこの作品も,作者・吉田聡の新境地を感じさせる不思議な魅力を持っている。吉田聡と言えば,「Bad Boys」の田中宏と並ぶ不良系バイクマンガ作家の双璧であり,「湘南爆走族」「荒くれKNIGHT」などのベストセラーを数多く生み出している。この「ジナス」は,浦沢直樹の「Monster」のような緊張感を持つ,一種のホラーマンガである。ヤフーでサワリの部分を立ち読みできるので,興味のある人はどうぞ。


http://comics.yahoo.co.jp/kodansha/yosidasa01/zinasu01/shoshi/shoshi_0001.html

今年はこんなとこで。ちなみに,「ジャンプ」の連載作品中,今一番好きなのは「SKET  DANCE」です。

ところで,来年映画化が予定されている「20世紀少年」は,どれくらいの観客を動員するだろう。  「3丁目の夕日」くらいのヒット作になるだろうか?

 

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