日記帳(10年12月6日〜12月26日)

 

 

今日は12月26日の日曜日。きのう,年末までのノルマの仕事が終わった。

これで安心して正月を迎えられる。ただし年明けからも原稿書きの仕事は入っているので,

年末も28日まで仕込みの仕事などをする予定にしている。29日からお休み。今日は一段落

したので,この日記をアップした後は全国高校駅伝を見る。今年1年を振り返ってみたい。

 

今年のニュースで最も印象深いのは,検察が証拠を捏造した,厚生労働省の村木厚子さんの事件だ。

検察官というのは,普通のサラリーマンとは違う職種だろう。彼らは「いろいろ受験したけど,たまたま

ここに受かったから来ました」というのとは違う。少なくともその職業を選んだ時点では,高い志を

持っていたに違いない。その志とは,正義感だ。その感情が彼らのアイデンティティそのものだと

言ってよいと思う。それが,どこでどう間違えたのか,自ら正義に反する行動を取ったことに対して,

当人たちはどう思っているのだろう?組織の風土に従っただけだ,と言い訳するのだろうか?

それを言ったら警察官も教師も似たようなところがあるが,何しろ検察官はエリートだ。今回の事件で

ショックを受けたであろう,希望に燃えた若い検察官たちの気持ちは察するに余りある。

 

何に強い関心を持つかは,その人の経験や人生観に左右される。ぼくがこの件に特別な思い入れを

持つのは,検察官という職業を「正義を守る職人さん」というイメージで捉えているからだ。自分自身は

原稿を書く職人であり,コックさんや大工さんと同じカテゴリーの職種だと思っている。今回の検察の

事件は,言ってみれば寿司屋の板前が,前の客の残り物の寿司を次の客に出すようなものだ。

そうすることによって彼は,何がしかの小さな利益と引き換えに,自分の職人としての誇りを捨てて

いることになる。そんなことをする「職人」が存在するということ自体,ぼくには信じられないのですよ。

我田引水だけれど,ぼくはかつて大手予備校の専門社員であり,収入は今よりいくらか多かった。

4年と8か月前に,職人としての自分の「正義」を貫いた結果,トップの逆鱗に触れてクビを切られた。

その自分の生き方が間違っていなかったことは,現状が証明している。もしも自分の仕事人生に

ピークがあるとしたら,それは今じゃないかと思うくらい,今年は仕事の面では充実した一年だった。

お金の問題ではなく,ぼくは職人だから,自分の技術が他人から評価されることが一番嬉しい。

尖閣ビデオを流出させて逮捕され,辞職した海保の職員の今後の人生にも,幸多かれと祈りたい。

 

 

今年の著作としては,下の13冊が出版された(☆は共著)。

 

ユニコム            宝島社☆                   PHP                        PHP☆                   文英堂☆           岩波書店

       

       文英堂                   文英堂              文英堂            桐原書店☆          桐原書店☆          小学館☆              PHP☆

 

1か月に1本くらいのペースで市販本の原稿を書いて,それだけで食っていけるのが理想だが,

現実はそう甘くない。このほかにも下請けの原稿書きの数をこなして,どうにか会社を潰さずに

済む程度だ。ちなみに,近年のうちの会社の売り上げはこんな感じで推移している。

 

※左から順に,2007・2008・2009・2010年。

 

多少は世の中の景気の動きとリンクしているというか,今年はお金の心配をしなくて済んだ。

年明け以降も,今のところ仕事が6本入っている。数研出版(下請け)・文英堂(下請け)・宝島社

(市販本)・桐原書店(市販本)・Jリサーチ(市販本)・大修館(雑誌連載)だ。このうち,最後の

仕事が自分にとっては一番大きい。宣伝を兼ねて少し説明を。

 

一般には「ジーニアス英和辞典」で知られる大修館という出版社は,「英語教育」という専門誌を

ずっと昔から出している。ぼくも高校で教えていた頃は定期購読していた。同業者なら知っての

とおり,この雑誌は英語教師必読の書とされていて,発行部数の多少にかかわらず,「読むべき

なのはわかっているが忙しくて読む時間がない」という人はいても,「そんな本は知らない」という

英語教師は全国どこを探してもいないだろう,と思われるくらい有名な本だ。そんな本に,一介の

フリーライターである自分が定期連載を持つようになろうとは夢にも思わなかった(向こうから

指名されたわけではなくて,こちらから企画を持ち込んだのではあるけれど)。いわば,草野球を

楽しんでいた少年がいきなりプロ野球のグランドに立つようなものである。何しろこの雑誌は

執筆者も購読者もレベルが高く,うかつなことを書けば批判の嵐が巻き起こる可能性もあるし,

自分の無知をさらけ出す結果にもなりかねない。第1回(4月号)の2ページ分の原稿はほぼ

完成しているが,1月中旬の締切日までになお推敲を重ねるつもりだ。これを読んでおられる

皆さんの中に英語出版関係の方がもしおられたら,たぶん3月に発売の「英語教育」を本屋で

めくってみてください。

 

大学を卒業したのはもう30年ほど前のことで,選択肢としては大学に残って研究者になり,

末は大学教授を目指すという道もなくはなかったが,一人息子だったこともあり,田舎に

帰って就職するのが一番よかろう,というレールが何となく自分の中でできていた。それで,

英語とは無関係の仕事についたが,今は英語関係のフリーライターとして生計を立てている。

大学受験業界にいた期間が長く,アカデミックな世界とはずっと無縁だったのが,人生どこで

どんな機会が廻ってくるかわからない。海援隊の「思えば遠くへ来たもんだ」という歌があるが,

まさにそんな感じ。この歌のラストの歌詞は,「思えば遠くへ来たもんだ  ここまで一人で

来たけれど  思えば遠くへ来たもんだ  この先どこまで行くのやら」である。

 

自分の身の回りでは,学生時代の親しい友達が急死するなど,いろんなことがあった。

家族について言うと,大学を中退した上の娘はまだ就職が決まらない。12月の初め頃に,

娘は大学の同級生たち(現在4年生)から久しぶりに会おうと誘われて,広島へ行った。

「お前,行かん方がええんじゃないんか。友だちはみんな就職が決まっとって,お前だけ

フリーターじゃあ肩身が狭いで」とオヤジは心配したが,それは幸か不幸か杞憂だった。

うちの娘が2年生の途中まで在籍したY女子大は,娘の入学時点では就職率100%を

誇っていたが,当日集まった5人の4年生のうち,就職が決まっていたのはわずかに

1人だけだったそうだ。クラスで一番優秀と言われていた子も来たが,その子もまだ

就職が決まってないという。娘はこの夏に専門学校へ通って医療事務の資格を取り,

ハローワークなどを通じて求人募集の面接に何度も行っているが,現場経験がない

ことがネックになって,なかなか採用が決まらない。今はヨメが専属で働いている

葬儀会社でアルバイトをしているが,本人は経済的に自立したいので正社員を

目指している。同じ悩みを抱えている若者は大勢いるんだろうが,誰かうちの娘の

就職を世話してくれませんか?医療事務でなくても全然かまいません。葬儀会社で

荷物の運搬には慣れているので,力仕事は得意です(笑)。ついでに言うと,最終的な

夢は「専業主婦」という大それた望みを持っています。誰か叶えてやってください。

娘がせがむので,顔写真を出しておきます。

 

 

え?性格?うーん・・・そうですね。めんどくさい女です。つーか,ファザコン?

 

 

今年は仕事が多忙で,ぶっちゃけ本は1冊も読んでない。ただしマンガは除く。

宝島社の「このマンガがすごい」の2011年版をきのう買った。毎年業界人が選ぶため

マニアックな作品が多く,予想が難しかったが,今年の1位は予想どおりだった。

一般の人は知らないだろうが,月刊少年マガジンに連載されている「進撃の巨人

という,新人の作品だ。これが今年のトップになることは十分予想できた。ただし,

マンガ作品として特に面白いとか優れているとかという理由ではない。言うなれば,

AKB48の人気と同じだ。AKBには秋本康という仕掛け人がいたが,「進撃の巨人」の

仕掛け人は,書店員をはじめとする出版関連業界全体である。2位に大差をつけて

トップになるはずだ。自分たちが売りたい(ブームにしたい)マンガを選んでいるの

だから。たとえばいしかわじゅん(BS「マンガ夜話」に出演していたマンガ家兼評論家)

が週刊誌の書評でプッシュするなど,この作品が今年のトップになる流れは,

夏ごろから既にできていた。

 

個人的には,今年読んだマンガ(レンタルを含む)で一番面白かったのは,

極悪がんぼ」だ(現在はタイトルを変えて続編が連載中)。「カバチタレ」の裏版の

ような作品で,広島を舞台にして怪しい連中が怪しいこと(基本は犯罪)を繰り返す。

単なる「特殊な業界の情報を提供するマンガ」ではなく,物語として感動できるのが

素晴らしい。今年出た単行本の中での個人的ベストは,「ピアノの森」(19巻)

ポーランドのショパンコンクール二次審査に出場した主人公・一之瀬カイ(ちなみに

この名前は「世界一の」のもじりだろう)の演奏シーンを,情緒豊かに描いている。

「ピアノの森」は去年劇場アニメにもなり,確かに絵はジャパニメーションが誇る

高い技術に裏打ちされたものだったが,見終わった後の感動が原作のマンガに

比べて遥かに少なかったことは否めない。「二十世紀少年」の場合もそうだが,

原作に忠実に映画化したのでは,決して原作を超えるものは作れない。

 

少年マンガでは,少年ジャンプ連載中の「逢魔ヶ刻動物園」(堀越耕平)を推す。

何と言っても,絵が圧倒的に素晴らしい。構図も,表情も,動きも,作者が表現

したいものを思い通りに表現できている感じだ。ワンピースは別格にしても,

ナルトやブリーチの絵よりもレベルが高い。そして何より,マンガ家のキャリアの中で

ごく短い(ことが多い)「最盛期」の情熱が感じられる。何のことやらわからないと

思う人も多いだろうが,たとえば備前焼の一杯の茶碗を見て,その造形に感動

するか,「ただの容器じゃないか」と思うかの違いと同じだ。焼き物の世界に

惹かれる人には,ただの容器の中に,余人には見えない「美」が見えるのだ。

マンガも同じですよ。堀越クンの絵を見て「他のマンガとどこが違うんだ?」と

普通の人は思うかもしれないけれど,マニアには「違い」がわかるのだよ。

たとえば,そう。ジャンプ系で言えば,和月伸宏というマンガ家のピークは,

「るろうに剣心」の初期の頃だった。今の「武装練金」の作者としての彼の絵には,

当時の魅力はない。マガジンの「絶望先生」しかり。作者・久米田康治はギャグマンガ家

としてはかなり息が長いが,今の絵は無機質的であり,サンデーに描いていた

「かってに改蔵」の頃の絵の方がずっと艶がある・・・きりがないのでこの項終わり。

 

自分が出版業界に関わっているので,ベストセラーには関心がある。今年売れた

本は,「もしも高校野球のマネージャーがドラッカーを読んだら」がダントツの1位で,

「巻くだけダイエット」「体脂肪計タニタの社員食堂」なども数十万部売れている。

「もしドラ」が売れた理由の一つはタイトルと表紙の萌え絵だろうが,作者が秋本康の

弟子だというので納得した。若者の間ではライトノベルがブームになっているが,

ちょっと目端の利くライターなら,どんな話を書いてどう見せれば売れるかは

簡単にわかるはずだ。え?お前は書かないのか?書きませんよ。中華料理の

コックに寿司は握れません。

 

映画は,秋以降は全く見ていないが,全部で10本くらい見た。見た中でのベストは

書道ガールズ」,次点は「ハングオーバー」。最悪はダントツで「告白」だ。

仕事が多忙のせいで,スカパーの契約をしていたプロ野球もほとんど見れなかった。

カープは来年もAクラスは難しいだろう。再来年,黒田が復帰して大竹が回復し,

中田・今村・伊東らが1軍の戦力になっているようなら期待できる。それまでに,

野村監督・大野コーチには,これ以上故障者を増やさないよう選手の体のケアに

気を配ってもらいたい。

 

最後に釣りは,今年は釣りに行ける時期と行けない時期がはっきりしていた。

幸い春と秋のかぶせ釣りのシーズンには時間が取れたし,秋にイシダイが1匹

釣れたので満足している。欲を言えばカレイが釣りたかった。年が明けると,

福山方面は1月中旬ごろから昼間はほとんど魚が釣れなくなる。仕事も忙しく

なりそうなので,2〜3月は部屋にこもって仕事をして,3月下旬頃からまた

かぶせ釣りを楽しみたい。

 

それでは皆さん,よいお年を。次回の更新は1月2日か3日の予定です。

 

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