日記帳(11年11月7日〜11月19日)

 

 

年末も近づいたころにようやく生活が普段のペースに戻りつつある。

この週末は天気が悪く潮もよくないので,釣りは自重。

今日の土曜日(19日)は半日仕事して,午後は仕事場の片付けをした。

今日は家族が不在で夜は酒を飲んで寝るだけなので,ちょっと日記を書く。

 

まず,最近の話題から1本。巨人の清武GMの一連の騒動について。

おおよその経緯はこんな感じだった。

 

@読売巨人軍は,読売新聞社の子会社のようなものに当たる。

A清武氏はその子会社のトップ,渡辺氏は親会社のトップに当たる。

  だから両者の間に直属の上司と部下の関係は(たぶん)ない。

B会社の定款によれば,子会社(巨人)の人事には親会社の承認が

  必要なことになっている。

C清武氏によれば,10月に本人と巨人の桃井オーナーが一緒に

  渡辺氏に面会して,岡崎コーチを含む人事(留任)の承認を口頭で

  得た。 しかし渡辺氏はこれを覆し,(原監督の希望で)江川氏を

  チームに招く意向を示した。

Dこれに対して清武氏が反発し,文部科学省で渡辺氏を批判する

  会見を開いた。

Eあとは両者の非難合戦となって,結局清武氏は解任された。

 

清武氏が最初に渡辺氏に反旗を翻したときの報道を聞いて,ぼく自身は

ある6文字の感想を直感的に思い浮かべたが,スポーツ新聞やネット上では

それと同じ感想を言う人がほとんどいないのが意外だった。

 

この件で多くの人の意見が割れている最大の理由は,「どういう立場で見るか」

が人によって違うからだろう。たとえば「巨人が優勝できなかったのは清武氏の

責任だ。だから(江川氏を招いてチームを強化しようとする)渡辺氏が正しい」と

言う人もいる。しかしそういう見方は,今回の清武氏の行動の根っこの部分と

何の関係もない。

 

ぼくはこの件を,世間の多くの人と同様に,「横暴な上司とそれに反発する部下」

という図式で見た。このとき世間のかなりの人が,こういう感想を言った。

 

「部下が上司の言うことを聞くのは当たり前だ。でなければ会社が成り立たない」

 

厳密には上で書いたとおり渡辺氏は清武氏の直属の上司ではないようだが,

親会社のトップと子会社のトップという関係なら,上のような感想を持つ人が

大勢いても何の不思議もない。(もちろんそれに反発する人もいるだろう)

裁判になったら,たぶん渡辺氏が勝つだろう。口頭で承認を得たと清武氏が

いくら主張しても,一般社会では(民間企業でも役所でも)無意味だ。文書に

印鑑が押されていない限り正式決定ではないのだから,「渡辺氏がいったん

認めた人事を後から覆した」という清武氏の主張そのものが成り立たない。

そもそも,法的な人事決定権が誰にあるかは裁判所で白黒をつければいい

話であって,一般人はそんなものに興味はない。たかが一企業の内部抗争を

文部科学省という役所を使って行ったのは税金の無駄遣いだ,という意見も

あるが,結果的に清武氏の行動が社会的に何らかの意義があったと後で

認められるなら(その可能性は低いが),一概に「無駄」とは言えない。

 

では,ぼくが最初に抱いた6文字の感想の答えを言おう。

 

それは,「うらやましい」という感想だ。

 

わかる人にはこれ以上の説明は不要だろうが,一応フォローしておく。

清武氏が「うらやましい」理由は2つある。第1に,経営者がわがままなのは

すべての会社に共通しており,多くの部下は「いつかこいつを痛い目に合わせて

やりたい」と思って日々仕事をしている(偏見です)。しかし,普通の人がいわゆる

内部告発をしても単にもみ消されるだけで,経営者は痛くも痒くもない。一方,

今回の件では清武氏は文部科学省での記者会見という形で自分の意見を

白日の下に晒しており,勝負に勝っても負けても半分以上の目的は達成したと

言っていいだろう(本人は負けたら不満だろうが)。こんな恵まれた「内部告発」が

できる環境にいる労働者は,千人に1人もいないだろう。「うらやましい」という

理由の1つはそれだ。

 

もう1つの理由はもっと切実なことで,清武氏は最初から辞任の覚悟を持って

事に及んだのだろうが,それは裏を返せば「辞任しても困らない」という一種の

セーフティネットを彼が持っていたからにほかならない。世の中の圧倒的多数の

労働者はそんなものを持っていない。だから内部告発もできないし,捨てゼリフを

残して会社をやめることもできず,わがままな上司に仕方なく従っている。

清武氏のセーフティネットとは,言うまでもなく経済的な生活基盤だ。渡辺氏と刺し

違えて2人とも引退するのがベストだとしても,告発によって少なくとも一矢報いる

ことはできるのだから,思い残すことなくビジネスの一線から去って悠悠自適の

隠居生活を送ればいい・・・と本人が思っているかどうかは知らないが,第三者から

見れば,そういう背景がなければあんな行動は絶対に取れない。「GMとしての

自分の力量からすれば,巨人をやめても他の職場で仕事ができる」とは思って

いないだろう。世の中がそんなに甘くないことは誰でも知っている。その1つの

理由は,上司に逆らって会社を辞めたような人間を他の会社が雇うとは思えない

ことだ。もう1つの理由は,たとえその点を評価して(あるいは割り引いて)彼を

雇おうとする会社があっても,辞めた元の会社(この場合は読売新聞社)がそれに

対して「嫌がらせ」をする可能性が高いことだ。これは読売新聞や渡辺氏個人の

問題ではない。どこの会社でもそういうことをする。辞めた社員が他の会社に

再就職するのを,元の会社が妨害するわけだ。そういう現実を承知でなお,

(本人にしてみれば)「勇気ある行動」を取ることのできた清武氏に対して,

「うらやましい」という感想を持つ人が多いんじゃないかと予想したが,実際は

そうでもなかった。ちなみにぼくがその感想を持ったのは,一般の勤め人の

立場で考えたからであって,現実にはそうではない。自分には上司はいないので。

 

 

それで思い出したが,今年はうちの会社に社員が1人増えた。上の娘だ。

今までは代表取締役(わたくし)と取締役(ヨメ)の2人だけの会社だったが,

もう1人取締役として娘を入れた。娘は医療事務の資格を取って,派遣会社から

斡旋された病院で非常勤の仕事をしていたが,秋に契約が切れて,今は家で

家事手伝いをしている。本人は広島に出たがっているが,医療事務は時給が

800円ちょっとくらいの割の悪い仕事なので,正社員になっても自活するのは

経済的に苦しい。しかも国民年金や社会保険料の支払いの督促も来る。

あれやこれやを考えて,娘をうちの会社の社員にして,どこへ勤めてもうちの

会社からの派遣という形にすることにした。勤務先から本人に支払われる給料は

個人の口座ではなくうちの会社の口座に入り,会社の売り上げになる。娘自身は

うちの会社から定額の給料を受け取る。こうすれば,本人が会社の売り上げに

いくら貢献したかとは無関係に,毎月決まった額の収入を手にできる。さらに,

年金や保険料は給料から天引きになるので,本人は支払いの心配をしなくていい。

もっとも,娘が国から厚生年金をもらうことは最初から当てにしていない。うちの

会社から国に収める娘の年金の掛け金は,いわば不良債権なのはわかっている。

今年は休みなしで働いたおかげで会社の売り上げも増えたので,景気のいい時

くらいは国民の義務を果たそうか,と思ったわけだ。この先どうなるかわからんが。

 


 

 

話題その2。今年は外出もできないくらい忙しかったので,例年以上に仕事の

合間のストレス解消にマンガを読んだ。宝島社が毎年出している「このマンガが

すごい」もそろそろ発売される頃になったが,その予想とは関係なく,一人の

マンガマニアが選んだ「今年印象に残った10作」を紹介したい。作品の

内容や感想は,読まない人には全然わからないだろうから細かくは書かない。

※順番は作者のアイウエオ順で,10作に優劣はない。

 

(1)よいこの黙示録(青山景)

単行本が1巻しか出ていないのに,作者の青山景は10月に32歳の若さで

自殺してしまった。「小学生たちが宗教団体を作る」という話で,作者が死ぬ

直前まで連載を立ち読みしていた。「この人は今がピークだろう」と思うほど

素晴らしい質の作品だったのだが,未完で終わった・・・合掌。

 

(2)空が灰色だから(阿部共実)

週刊少年チャンピオンという地味な雑誌で,先月連載が始まったばかりだ。

高校生の日常を描くオムニバス形式で,絵的にはギャグ漫画っぽいが,

凡庸でない才能を感じる。どこまで伸びるか今後が楽しみな作家だ。

 

(3)銀の匙(荒川弘)

ハガレンの作者が週刊少年サンデーに連載を始めたという話題性だけで,

今年のランキングに入るかもしれない。話は北海道の農業高校を舞台に

しており,ジャンプなら単行本2巻くらいで打ち切りだろうが,サンデーと

いう雑誌にはよく合っている。「もやしもん」と少しカブる気がしないでもない。

 

(4)ごっこ(小路啓之)

「ごっこ」とは子育てごっこということで,ダメ男と幼女を中心としたけっこう

ハードな話。クールな絵柄とのギャップが1つの魅力だろう。大人の読者の

鑑賞にも堪えうる作品だと思う。

 

(5)水面座(みもざ)高校文化祭(釣巻和)

デザイン系の絵が圧倒的に素晴らしい。これと同じ系統の絵でここまでレベルが

高いのは山田章博くらいしか思い浮かばないが,惜しむらくは話がわかりづらい。

同じ作者の「くおんの森」もそうだが,基本的にファンタジーだから多少の飛躍は

あってもいいと思うが,もうちょっと背景説明がほしい。だれかに脚本を頼んでは?

 

(6)ねじまきカギュー(中山敦支)

これも絵がいい。押切蓮介にワンピースを描かせたような,おどろおどろしさと

躍動感の両方を備えている。話はいわゆる萌え系で,アニメ化もされるだろう。

この作品にのめり込んでいる若い男が秋葉原周辺にごろごろいるはずだ。

絵も話もおたく向けなので,若者以外には勧めない。

 

(7)浜田ブリトニーの漫画でわかる萌えビジネス(浜田ブリトニー)

マンガ作品としても面白く,かつ情報的価値も高い。一種の実録マンガで,

編集者と漫画家がいろんな人にインタビューなどをして,今日のマンガ

周辺のビジネスの実態を詳しく伝えている。絵は下手だが味がある。

これは誰が読んでも楽しめる作品だと思う。

 

(8)大砲とスタンプ(速水螺旋人)

これも絵が魅力的。ロシアの軍隊を舞台にした軽いノリのマンガで,女性キャラの

魅力への依存度が高い面はあるが,読んで面白い作品に仕上がっている。

ただし,あくまでマニア向けの作品ではある。

 

(9)Sunny(松本大洋)

ここに挙げた10人のうちでは,漫画家としての「格」はこの人と次の吉田聡が双璧。

松本大洋の代表作と言えば映画化もされた「ピンポン」や最近では「竹光侍」だが,

この作品は作者が最も得意とする少年たちの交流と成長を孤児院を舞台にして

描いており,独特の絵柄とよくマッチした味わい深い作品になっている。

 

(10)七月の骨(吉田聡)

2年ほど前に島本和彦版「まんが道」の「アオイホノオ」が話題になったが,この

作品は「湘南爆走族」の作者・吉田聡が20歳の頃の自伝漫画だ。これは面白い。

1980年代初頭の時代背景を知っている人なら,なおさら楽しめる。40代以上の

人にお勧めしたい。


このほか評論家的な見方をするなら,話題性という点では今年は東北の震災を作品中に

取り入れたマンガが最近増えてきている。最初からそれに絞って比較的早い時期に

出たものの1つに「東日本ふるさと物語」(徳間書店)がある。この本は東北6県出身の

12人の漫画家による描き下ろしの短編集で,必ずしも震災を描いているわけではない。

一種の企画物であって,作品の質も玉石混交であり,評価に値する本ではなかった。

去年200万部以上を売り上げたベストセラー「もしドラ」がコミカライズされ,作画が

「これが私のご主人様」の椿あすとくればヒットは約束されたも同然だろうと思ったが,

蓋を開けてみると絵が期待はずれだった。もっと萌え系にシフトしていれば売れただろう。

有名人のコラボという点では,原作が元外務官僚の佐藤優,脚本が浦沢直樹のブレーン

・長崎尚志,作画がホラーの名手・伊藤潤二という「憂国のラスプーチン」にも注目したが,

マンガ作品として成功したとは言い難い。原作が「GTO」の藤沢とおる,作画が「ホットマン」

のきたがわ翔という大物コンビの「ソウルメッセンジャー」も,確かに面白いが,「いつもの

面白さ」でしかない。最近の流行で言えば,「宝島のランキングで上位に入った作品の亜流」

が目につく。たとえば去年の「進撃の巨人」と同系統の「ハカイジュウ」(本田真吾)。

「聖☆おにいさん」や「テルマエ・ロマエ」路線の「鬼灯(ほおずき)の冷徹」(江口夏実)。

明らかに市川春子の路線を狙ったとしか思えない「なかよし団の冒険」(西村ツチカ)。

ちなみに市川春子は,その昔一部のマニアから熱狂的な支持を得ていた「ガロ」という

暗い漫画雑誌の雰囲気を色濃く感じさせる作風で,団塊の世代には懐かしいかもしれない。

既に評価が定着している作品で今後が注目されるのは,まず「三月のライオン」(羽海野チカ)。

主人公のライバル・二階堂くんが最初に出てきたときに,(29歳で急逝した故・村山聖九段が

モデルであることが一目瞭然だったので)「こいつはいずれ死ぬんだろうなあ」と思ったが,

その通りになりつつある。たぶんその前後がこの作品のクライマックスになり,映画が作られ,

同じ作者の「ハチクロ」と同様に伝説の名作になっていくのだろう。

もう1本は「風光る」(渡辺多恵子)。京都の新撰組屯所跡で,この人の漫画が飾ってある

のを見た。まったりしたエピソードが多かったが,単行本では物語は1868年(明治維新)に

入り,これから主要な登場人物がバタバタ死んでいくだろう。広げた風呂敷をどうたたむか

今後に注目したい。

 

なお,劇場アニメは今年3本しか見なかった。1本は「コナン」で,これはまあいつも通り。

2本目は「星を追う子ども」。これは最悪。ゲド戦記をさらにダメにしたような話だった。

この監督(新海誠)の前回の作品「秒速5センチメートル」もそうだったが,絵のクオリティが

高いだけに残念だ。ダメなのは(監督自身が書いた)脚本で,説明不足もいいところだ。

ラスト近くで主人公の少女が微笑む場面があるが,「おまえは何でそこで笑えるんだ?」

という疑問を見る者に抱かせて終わった。3本目は「鋼の錬金術師」の映画版。これは

前作同様面白かった。ただ,原作がきれいな形で今年完結した後で公開された映画

だけに,物語全体との整合性は欠いている。次回作はもうないだろう。テレビアニメは

最近ほとんど(普通の時間には)放送されていないが,竹原市を舞台にした「たまゆら」は

現在水曜日の深夜に毎週放送されている。竹原プロモーション用萌えアニメという

コンセプトが明確で,その意味では成功作と言えるだろう。忠海や大崎下島も出てくる。

女子高校生たちの何も起こらない日常を描いた話で,「らき☆すた」や「けいおん」と

同じパターンだ。浜田ブリトニーの漫画の中でパチスロの店長が語っているが,

この種のアニメは熱帯魚の水槽のようなもので,自分には手の届かない理想的な

高校生活を見て癒されるファンが多いのだろう。しかしこれはある意味で麻薬であり,

部屋にこもってこういうものをずっと見続けているうちに30歳になっていた,という

シャレにならない事態が起きることもありそうだ。

 

さて。家へ帰ってひと風呂浴びて,録画の「たまゆら」を見ながら酒を飲むか。(笑)

 

 

日記帳の目次へ戻る