日記帳(11年11月20日〜12月18日)

 

 

今日の日曜日(18日)は夕方から福山市内で忘年会。数日後にもう1本,広島で忘年会がある。

今日は年賀状作り。ヨメと上の娘はきのうから大阪へ行っている。夏からアメリカへ留学していた

上の娘が今日帰国するので,関空へ出迎えに行った。最近はスカイプという便利なツールがある

ので時々アメリカの娘とパソコンで(無料で)会話したが,向こうで生活を初めて2か月ほどで

10キロ以上太ったそうだ。無理もない。家族でハワイ旅行したときにホテルのバイキングで

食べた食事は,普通のパンでも砂糖がまぶしてあるほど甘かった。「もう肉はいらん」と言って

いるので,帰ったら当分は和食でダイエットすることになるだろう。実家の方では両親ともに

障害者手帳を持っていて,5歳年上の父が要介護3の母の面倒を見ている。病院通いは家族

のうちで手の空いている者が付き添う。上の娘は現在はフリーターで,時々仕事を手伝わせている。

職探しは春が来てからみたいな話をしているが,どのみちうちの会社からの派遣になるので

正社員としては就職できない。近所の回転寿司店のアルバイトの広告を見て,医療事務より

時給が高いと悔しがっていた。それやこれやで家族にはいろいろあったが,自分の生活は

例年と変わらない。ただし仕事量は段違いに増えて,今までの仕事人生で一番多忙な年だった。

常時10本くらいの仕事が入っていて,今も12月の頭〜2月10日の約70日間で市販本の原稿を

4本書くスケジュールを抱えている。だいたい平日の昼間は本の原稿書き,平日の夜は自分の

ゲラのチェックや他人の原稿の校閲(これも単発の仕事で,ほとんど年中やっている),週末は

雑誌の連載原稿など。真冬は魚も釣れんし,3月ごろまではまた引きこもり生活になりそうだ。

 

今年1年を振り返ると,下の本を出した。最後から3つ目のシリーズものでもう1冊あるので,

全部で12冊。ちょうど1か月に1冊のペースになる。もっとも最後の2つはほぼ完全に編集に

丸投げしたもので,昔出した本のレイアウトなどを変えて再販したものだ。こっちは何もせずに

本が完成して,それでも印税は入る。ただ,こういうあぶく銭が入ってもあまり嬉しくない。

地道に原稿を書いた見返りとしてお金をもらうのが,まっとうな仕事の形だと思うので。

 

  

 

まあそういうことが言えるのも,安定して仕事が入るようになったからではある。うちの会社は

来年の春に創業20年を迎えるが,2011年の売り上げは過去最高だった。あれだけ休みも

取らずに仕事をすりゃ当然だろうとも思うが,社員を雇っているわけではないので会社を

大きくする必要はない。これからも家族が食えるくらいの金が入れば多くは望まない。

しかし世の中は思い通りにはいかないもので,これだけ忙しいと今まで思ってもみなかった

問題が出てきた。1つは,打診された仕事を断らざるを得ないケースがあることが。今までは

「頼まれた仕事は全部受ける」というポリシーでやってきたが,今年は何本か断った。断る

仕事はたいていスケジュールが切迫したもので,そういう仕事は出版社の下請けの編プロ

(編集プロダクション)を経由した孫請けであることが多い。したがって,原稿料も割がいい

とは言えない(編プロの儲けを差し引いた額しかもらえないので)。一方で,経験則から言うと

編プロの編集者には良心的な人が多い。出版社の人が悪いとは言わないが,対比して

言えば編プロの編集者は(会社自体がいつ傾くかわからないという危機感があるので)

総じて仕事熱心であり,出版社の編集者の中には(社風に沿っているだけだろうが)

悪い意味で公務員的な印象を受ける人もいる。ざっくり言えば,普通の会社の非常勤社員と

正社員の違いに似ていないこともない。できれば頼まれた仕事は全部受けてあげたいのだが

・・・この場を借りておわびします。

 

そして,問題がもう1つ。こっちの方が自分の生き方にかかわる深刻なことだ。今まで自分は

原稿料や印税が高いとか安いとかは一切関係なく,また仕事の中身がどんなものであっても,

高い質の仕事をするのが職人としての自分の責任だ,というスタンスでやってきたわけだが,

「選ぼうと思えば選んで仕事ができる」という立場になってみると,仕事の中身に応じて

モチベーションの違いをかなり強く意識するようになった。つまり,「積極的にやりたい仕事」

と「(頼まれたので)仕方なくやる仕事」とが出てきた。前者は「自分でなければできない(と

自分で思う)仕事」であって,後者は「自分じゃなくても誰にでもできるでしょ」という仕事だ。

比率から言うと,前者が3で後者が7くらい。今年は特に,中学が来年新課程になる関係で

夏ごろを中心に中学の教科書ガイドの原稿作成がいろんな出版社や編プロから入った。

それらは全部一種の単純作業のようなもので,1本2本ならいいが大量にやるのは・・・

出版社が企画した本の原稿書きの場合も,世間にたくさんある本とほとんど変わらない

内容の原稿を書くのは乗り気がしない。もちろんモチベーションが低いからといって完成

した原稿の質に影響するようなことはないと自分で思ってはいるが,そういう気持ちを持つ

こと自体が「職業人としてのモラルの低下」であるわけで,そこのところが辛い。

「初心忘るるべからず」とはよく言ったものだ。

 

仕事の話は以上。プライベートでは,今年はほとんど外出しなかった。家族で1泊と

日帰りの旅行に3回ほど行ったきり。釣りも全く行かなかった時期が長かった。

本は全く読まず(読む時間がなく),映画も数本見た程度。「マネーボール」はまあまあ

だったが,日本ではあのGMのようなやり方は絶対無理だろう。映画ではGM本人が

選手たちに戦術を指導していたが,日本であんなことをしたら監督やコーチから

「それは自分らの仕事だ」と言われるに違いない。野球関係で言うと,今年は夜も仕事を

していたのでほとんどテレビを見れず,スカパーのプロ野球セットも途中で解約した。

試合結果などはネットの速報やスポーツ新聞でチェックしていたが,カープは今年は

それなりに頑張ったと思う。去年と一番変わったのは,野村監督だろう。去年は評論家

みたいなコメントがよく聞かれたが,今年はまともな監督らしくなってきた。しいて言えば

投手はもうちょっと大事に使ってほしい。今年の秋のキャンプでは数人の左投手に

横手投げの練習をさせたそうだが,それを強制するのは賛成しない。1つの選択肢と

してアドバイスするのはいいが,どんな投げ方をするかは本人の判断に任せるべきだ。

「グラゼニ」じゃないがプロ野球選手は個人事業主であり,選手寿命もたかだか10年か

15年くらいだ。自分のやりたいようにやって結果が出なければ納得できるだろうが,

他人に強制されたとおりにやって失敗したら本人も悔いが残るし,強制した他人が

責任を取るわけでもないのだから。

 

きのうの土曜日に「このマンガがすごい」(宝島社)の2012年度版を買って来た。

オトコ編のトップ5は,「@ブラック・ジャック創作秘話」「Aグラゼニ」「Bましろのおと」

「CHUNTER×HUNTER」「D3月のライオン」だった。@は全く知らなかった。一応買って

みようとは思うが,あの絵がどうも・・・「自伝マンガ」は「ゲゲゲの女房」の影響もあって

今一種のブームになっていて,多くのベテラン作家が修行時代を描いたマンガを発表

している。@はそれとは違うが,「業界人が喜びそうな」作品ではある。一読者としては

この種のマンガで今一番面白いのは,前回の日記に書いた「七月の骨」(吉田聡)だと

思う。Aは知ってはいたが,それほど面白いとは思わない。絵も話も「おれはキャプテン」

そのもので(原作者が同じ人だから当然だが),「斜に構えた野球マンガ」という昔から

ありがちな設定の枠を超えていない。「グラゼニ」がそれほど高く評価されるのなら,

「球場ラヴァーズ」(石田敦子)ももっと票を集めていいはずだ。Bは月刊マガジンをよく

見ていたにもかかわらず全く読み飛ばしていた。絵があまりに類型的で,話が少々

面白くても読む気がしない。Cは,今さら・・・という感じ。どうして過去のアンケートでは

ランキングに入らなかったのか。個人的には,今連載されているマンガで好きな作品を

3本挙げるとしたら,「HUNTER×HUNTER」「ピアノの森」「風雲児たち」だ。Dも当然の

結果だろう。「このマンガがすごい」は年を追うごとにステータスが上がっているようで,

今では業界の大きなイベントのようになっている。ただアンケートの対象者が業界人で

あることが致命的な欠陥であり,投票の動機がある意味で不純だと思う。そのことは,

「書店員が選ぶランキング」で荒川弘の「銀の匙」がトップだったことが証明している。

この作品は現段階では評価に値するほど話が進展しておらず,明らかにハガレンの

作者のネームバリューを利用した「売れるはずだ」という期待に支えられている。

また,マンガ評論家などのコメントでは,「自分が好きだ」というよりも「他人に勧める

としたら」という視点で答えている人が少なくない。これでは本当の意味のアンケート

とは言えないだろう。オンナ編の1位の「花のズボラ飯」の作画者は新人の水沢悦子

となっているが,女性読者の間では確かに「新人」だろう。しかし一部の男性読者には

前から有名な人だ。「うさくん」という別名で。今年の夏ごろに本屋に平積みになって

いたが,うさくんの絵だと思って買わなかった。嫌いじゃないが,買って読むほど好き

でもないので。

 

また関係ないが,今週だか先週だかの週刊文春に,「今年のビジネス書ベスト10・

ワースト10」という記事が載っていた。このワースト10の上位の本がすごかった。

タイトルと概要しか書かれていないので実際に読んだわけではないが,要するに

「自分の個人的な成功体験を,あたかも一般的な成功の法則のように書いた」と

いうタイプの本がたくさん出ているのだそうだ。しかもそういう本が何十万部も売れて

いるのだそうだ(その宣伝自体がどこまで本当か怪しいが)。要するに「確信犯」だ。

最初から読者を「騙して」本が売れればいいというスタンスで書かれている。多くの

読者がそれに騙されて本を買うこと自体は何とも思わないが(騙されたいと自覚して

買う人もたぶんいるだろう),同じ業界の人間としては,そういう道に染まらないで

よかったという安堵感もある。普通のセールスマンが布団や住宅リフォームの

セールスマンを見るようなもの,と言ったらその人たちに失礼だろうか。

 

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