日記帳(2013年11月10日)

 

 

ここ3年くらいで一番と思えるくらい,今は仕事のペースが落ち着いている。

毎日仕事はしているが急ぎの原稿書きがないので,旅行にも行けたし週末も休める

(12月中旬ごろからまた忙しくなる予定)。ただし今日は天気が悪いので釣りはパス。

 

ということで,最近の話題からいくつか拾って日記を書く。

 

食品偽装問題について。前にも書いたような気がするが,こんなもん大騒ぎする

ほどのことじゃない。実害がないんだから。「車エビのテリーヌ」という名前の料理に

ブラックタイガーを使っていたのがけしからん?まあウソをついたのは悪いと思うが,

テリーヌみたいな練り物にしたら車エビとブラックタイガーの見分けはつくまい。

ブラックタイガーを車エビのつもりで食べたらいいじゃないか。同じ種類のエビだし。

回転寿司の魚もしかり。100円でまともな魚が食えると思う方がどうかしている。

体に害のあるものを出したのなら大問題だが,表示と違う魚でもおいしいと思って

食べている分には何の問題もない。こういうことが起きるのは,もとは言えば消費者が

産地や栽培方法に必要以上のこだわりを持っているからだ。要は,ぜいたく過ぎるのだ。

安全でうまいもんが食いたいなら,自分で畑を耕して,新鮮な魚を自分で調達しろ!

釣り師を見習え!みたいな。

 

●「特定秘密保護法案」について。マスコミは大騒ぎしているが,これも大した問題では

ないと思う。論点は3つある。第1に,秘密を漏らした公務員への罰則を強化すること。

第2に,マスコミの取材が違法と判断される可能性。第3に,特定秘密の定義が不明確で

結果的に国民の「知る権利」が侵害されること。これらは冷静な議論によって合意点を

見いだしうる問題だと思うが,批判する側は多分に感情的になっているように思われる。

たとえば「週刊現代」の最新号に,大橋巨泉がコラムでこんなことを書いている。

「ボクが子供の頃,九十九里の海岸で写真を撮った人が,スパイ容疑で逮捕された。

そんな時代がまた来ても良いのか。国民よ,目を覚ませ。」

一方,2日前のテレビのニュースに,この法案の旗振り役の1人である自民党の町村議員が

国会の質問者として登場し,「たとえば原発の警備体制を全部公表したらテロリストは喜ぶ

だろう。このような国の安全保障に関わる秘密が特定秘密であり,それを守ることよりも

『知る権利』の方が大切だと考えるのは間違っている」という趣旨のことを語った。

町村氏の言うことは正しいと思う。マスコミは情報を社会に提供するのが仕事だから,

「情報を隠す」ということに対してはいわば本能的に拒絶反応を示す。それは一種の

思考停止状態と言ってもいい。町村発言と大橋コラムとの間の落差にもそれは見て取れる。

町村氏=「はだしのゲン」の閲覧を禁じた松江市教委

大橋氏=その決定に反対した反核運動の活動家

こんな関係にたとえることができるだろう。両者の間にまともな議論など成り立つはずがない。

 

●「道徳を正式な教科とする」という文部科学省の方針について。本決まりではないので

実現するかどうか不透明だが,方向性は悪くないと思う。理由はこうだ。日本以外の多くの

国では,国が定めた教科書を使って子どもに道徳を教えるようなことは,たぶんしていない。

する必要がないからだ。なぜなら大半の国の人々は特定の宗教を信じており,どんな宗教で

あれ道徳的な戒律を含んでいる。だから「道徳を教える」という役目は学校教育ではなく

宗教が果たしている。キリスト教もイスラム教もそうだ。ところが今日の日本人の大半は

信仰心というものを持たない。宗教に期待できないのなら,誰が道徳を教えるのか?という

話になる。親が教える?そりゃ無理だろう,と容易に想像できる。戦前なら国家神道という

宗教が学校教育に取り入れられ,道徳心は強制的に子どもに植え付けられていた。戦後の

教育システムは宗教と切り離されたが,それに伴って道徳教育も衰退した。「だから日本人は

だめになったのだ」という右翼の主張は,宗教が今でも道徳の規範を教え込む手段として

機能している諸外国と比べたとき,一理あると言えなくもない。

しかし,たとえ「学校で道徳を教えるのはいいことだ」と認めたとしても,ではどんな道徳を

教えるか?となると非常に難しい。たとえば「家族を大切にしよう」なんてことを教科書に

載せることは決してできない。なぜなら,家族から大切にされていない子どもは今どき

そこらじゅうにいるから,そんな教科書を読んだらそうした不幸な子どもたちの心は

ますます落ち込んでしまう。同様に「ウソをついてはいけません」とかもダメだ。

ウソつきの大人が自分の回りにも政治家の中にもいくらでもいることは,子どもでもわかる。

「大人はウソをついてもいいの?」と問われたら,教師は答えようがない。

同じ理由で「ルールを守ろう」もダメ。政府は「納税は国民の義務だから,大人になったら

税金を払おう」とか教科書に書きたいかもしれないが,ブラックジョークにしかならない。

今の社会で求められているのは,1つの価値観を教え込むのではなく,それぞれの人が

正しいと思っている(しかし互いの意見は食い違っている)ことをできるだけ多く知った上で,

自分の頭で「これが正しい」という道徳観を身につけていくことだと思う。そういうタイプの

「正解のないディスカッション」に子どもを誘導するような道徳教科書なら,あっていいと思う。

 

息子が窃盗容疑で逮捕されて報道番組を降板したみのもんたについて。この件は,

子を持つ親として胸が痛い。あえて感想を言えば,みの氏も息子も気の毒だ。

親の七光りでテレビ局に入り,金の苦労もせずわがままな生活を送り,あげく犯罪に

走った30を過ぎた男のどこが気の毒なんだ?と世間の人は言うだろう。でもね。

彼はある意味,親の犠牲者だと思う。父親(みの氏)は仕事人間で,家のことは女房に

任せっきりだったのだろう。ネグレクトは母親の育児放棄だけの問題じゃない。子育て

には母性と父性の両方が必要であり,片親の家庭の子育てが難しいのはそこに大きな

理由がある。小遣いをやったり就職の世話をしてやるだけで,父親の責任を果たした

とは言えないのだ ―― が,しかし。じゃあみの氏が悪いのか?と言えば,それも酷だろう。

仕事にのめりこむ男にとって仕事は人生のすべてであって,わが子であってもその足枷に

なってほしくない,と思っている人は世の中に大勢いそうだ。本人は「だから自分にできる

だけのことは息子に対してしてやったつもりだ」と思っているかもしれない。もっと切実な

例で言えば,たとえば生活のために長時間働き,子どもの世話を十分してやれなかった

(そしてその子が非行に走った)というケースでは,一概にその親を責められないだろう。

週刊誌などは「成功者の挫折」という読者が喜びそうな図式で面白おかしく報じているが,

みの氏と彼の次男をそれぞれ1人の人間として見たとき,どちらも悪くないのにお互いが

つまづいた不幸な親子のケースを見るようで,「気の毒だ」という感情が先に立ってしまう。

 

天皇陛下に「直訴」した山本太郎参院議員について。これはもう簡単。あんたが悪い。

社会常識をわきまえないにもほどがある。相手が天皇だから,という理由ではない。

手紙を渡した相手がスマップやAKB48でも同じだよ。「これを読んで,原発の問題を

よく知ってくれ」と,山本議員がAKB48に手紙を渡したとしよう。彼女らはどう思うか。

まあ,困惑するだろう。そして迷惑に思うだろう。自分たちがそれに対してどういう

リアクションを取ったとしても,原発問題に対して何らかのメッセージを発する,あるいは

自分たちの立ち位置を示すことになる。有名人は自分の行動が社会に与える影響に

責任を持たねばならないから,精神的な負担がかかる。それを考えると山本議員が

したことは,相手の立場を考えない軽率で自分勝手な行為と言われても仕方がない。

「人に迷惑をかけてはいけない」と子どもの頃に教わっただろ?

相手が誰であれ,その人の都合も考えて行動しないとね,山本クン。


 

 

以下は,アニメとマンガの話です。興味のない人にはすいません。

 

今年見た映画の本数を数えてみたら,今までのところ25本だった。

例年より多いのは,釣りに行けない時期は毎週のように見ていたからだ。

実写映画では,前にも書いたが「営業100万回」が一番面白かった。

次点は「ハッシュパピー」と「俺俺」かな。

25本中,アニメが9本だった。その中には,今年話題になったスペインの長編

アニメ「しわ」も含まれる。この作品は老人介護施設の入所者たちの日常を

描いており,主人公の老人は認知症がだんだん悪化して,最後には完全に

ボケた状態になる。切実な内容が胸に迫るが,必ずしもアニメで表現する

必要がある内容とも言えない(実写でもかまわない)のが多少マイナスか。

 

高畑監督の「かぐや姫の物語」をまだ見てないので確定できないが,今のところ

今年見た劇場アニメで一番印象に残ったのは,つい先週見に行ったやつだ。

さすがにこの年で一人で見に行くのは恥ずかしいタイトルなので,上の娘に

頼んで夜の上映に一緒に行ってもらった。もちろんチケットを買う役は娘だ。

話の内容を何も知らない娘は「キモヲタの趣味に付き合ってられっか!」という

態度だったが,「いや,お前の好きなエヴァと似た感じじゃけー」と説得した。

見終わって娘に感想を聞くと「面白かった!」と言う。えかったえかった。

 

そう。その映画のタイトルは「魔法少女まどかマギカ[新編]叛逆の物語」だ。

本でも音楽でもそうだが,「これはお勧めです」みたいなことをいくら言っても,

自分が受けたのと全く同じ感動を人に味わってもらうことはできない。

だから「皆さんもぜひ見てください」みたいなことは言わないが,この作品は

日本のアニメーション史上に名を残すだけの価値があると思う。

 

もちろん,多少アニメに関心のある人なら誰でも,まどマギのことは知っている。

いろんな賞を受賞しており,TVシリーズもそれを編集した劇場版も大ヒットした。

福山のコロナでは3週間前くらいに公開されたと思うが,最初の1週間は1日に

12回も上映されていた。何も知らない人のためにごく簡単に説明しておくと,

このアニメは一種のダークファンタジーで,プリキュアのような子ども向けではない。

今回の映画がシリーズの完結編となるが,ハッピーエンディングではなかった。

詳しくはウィキペディアで調べてくれ。社会現象の域に達していることがわかるから。

 

 

人によって楽しみ方は違うが,マンガの魅力は8割が「絵」,2割が「話」くらいの

割合だと,おじさんは思うわけ。同じようにアニメの魅力の8割は「動く絵」だ。

宮崎アニメだってそうでしょう。話を楽しみたいのなら小説を読んだらいい。

で,この「魔法少女まどかマギカ」ですけどね。背景動画が圧倒的に素晴らしい。

萌えキャラの背景で,岡本太郎(マンガに詳しい人向けに言えば佐々木マキ)が

描いたような,ポップアートとシュールリアリズムを混ぜたような絵が動いている

想像してもらえばいい。ウィキペディアによればこの動画は劇団イヌカレーという

2人のアニメーターが作ったという。音を全部消して,画面を見ているだけでも楽しい。

つまりこのアニメは,ストーリーがなくても成り立つほど画面のクオリティが高い。

ただし一般のアニメファン(もちろん大人)がこの作品に熱中している主な理由は

そこではなく,絵とストーリーとのギャップにある。「メルヘンホラー」とも言うそうだ。

DVDが出たらもう1回見たい。一般人には勧めないが,アニメ好きなら必見だ。

まあアニメ好きなら,たいていもう見ているだろうが。

 

 

今年読んだマンガでは,まず「重版出来(じゅうはんしゅったい)」(松田奈緒子)を推す。

 

主人公はマンガ雑誌の新米女性編集者。編集者・作家・本屋・印刷会社など,出版に

関わる多くの人が協力して本を作り上げるプロセスを描いた話で,テイストとしては

安野モヨコのヒット作「働きマン」に近い。絵は上手ではないが,話にはわかりやすい

感動がある。ドラマ化しても面白いだろう。

 

次は「さよならタマちゃん」(武田一義)。

 

 

これは実録マンガで,作者本人がガンを宣告されて入院した病院での,奥さんや他の

入院患者たちとの交流を描いた作品だ。これがフィクションだったら面白みはないが,

実話であることが強い説得力を生んでいる。作者の職業はマンガ家のアシスタントで

あり,この作品はデビュー作となった。マンガでは無事に退院しているので,今後の

健康と活躍を祈りたい。

 

絵の面では,「ハクメイとミコチ」(樫木祐人)に最も強いインパクトを受けた。

 

 

何よりの驚きは,この絵を男性作家が描いているということだ。マンガをたくさん読んで

いると,男が描いた絵と女が描いた絵の見分けがつくようになってくる。荒川弘のような

「女が描いた男っぽい絵」を見ることはあっても,「男が描いた女っぽい絵」はまずない。

しかしこの作家は巻末のおまけマンガを見る限り男であり,「男がこんな絵を描けるのか」

という驚きを禁じえない。話は,一口で言えば「ムーミン」みたいな感じのファンタジーだ。

 

少年向けでは,去年も書いたが「暗殺教室」(松井優征)が今年一番の話題作だろう。

タイトルと違って殺人シーンは1つも出てこない。ただ「殺せんせー」という名前はどうにか

ならんのか?

 

毎年末に宝島社から「このマンガがすごい」というアンケート集計の本が出るが,そこで

1位を取った作品が本当にそれだけの価値があるかといえば,個人的には疑わしい。

近年では,「進撃の巨人」は確かに面白いと思う。ただ「テラフォーマーズ」なんかは,

「もうその手の(ガンツや進撃の巨人に似た)話は読み飽きた」という感じ。

過去では「ハチワンダイバー」とか「デトロイト・メタル・シティ」とか「花のズボラ飯」とか

なんでこれが1位なんだ?と思うようなものも多数あった。上に挙げた4作品では,

「ハクメイとミコチ」以外の3作はたぶん宝島社の本のランキングに入るだろう。

「ブラックジャック創作秘話」と「グラゼニ」を足したような「チェイサー」(コージィ城倉)とか,

おやすみプンプン」(浅野いにお)も今年中に完結すれば票を集めるかもしれない。

ドリフタ−ズ」(平野耕太)は,出せば確実に売れるんだからもうちょっと早く描けよ,作者。

 

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