日記帳(2015年7月12日)

 

5月の連休明けからほとんど休みなしで仕事をしているが,ようやく先が見えてきた。

来月くらいから週末には休めるようになるだろう。暑いので日中には出歩かないが。

仕事の手を休めて休憩するとき,いつもマンガばっかり読んでいるのもアレなので,

最近は週刊誌を買い込んでいる。文春・新潮・朝日・現代の4誌だ。

安保関連法案に関しては,どの週刊誌も批判一辺倒と言っていい。

ただしそれは,編集部の主張がそうさせているというよりも,どんな問題であれ批判記事の

方が営業的にプラスだからという理由の方が大きいだろう。だから雑誌の記事の全部が

彼らの本音ではないだろうが,この問題に対する批判は次の3種類に大別できそうだ。

 

(1)安保関連法案は前回選挙の争点ではなかったのだから,この問題に関して国民は

     政府に信任を与えたわけではない。(信を問いたければ解散総選挙をすべきだ)

(2)憲法改正が難しそうだからという理由で解釈変更で運用を変更しようとするのは,

     立憲主義の否定だ。

(3)自衛隊を海外へ派遣する際の「歯止め」があいまいである。(だから自衛隊が他国の

    戦争に巻き込まれるおそれが大きい)

 

これらについて,順次私見を述べてみたい。

まず(1)の批判は,要するに「後出しジャンケンだ」というわけだ。実際,前回選挙で自民党は

「アベノミクスの信を問う」という1点を争点にして,結果的に大勝した。だから「安保関連法案の

ような大きな変更を行いたいなら,これを争点にして再度選挙を行うべきだ」という主張には

筋は通っている。ただし,その主張には現実的な意味はあまりない。なぜなら,仮に前回選挙で

自民党が「アベノミクス+安保関連法案」という2つの争点を設定していたとしても,選挙結果に

大差はなかっただろうと思うからだ。要するに多くの国民は,安保問題に対してあまり関心がない

程度の差はあれ同じことが,原発や沖縄の基地,あるいは反核運動についても言えるだろう。

先日のギリシャの国民投票の結果もそれを物語っている。たぶん多くのギリシャ国民は,

「国の財政赤字が膨らむとどういう結果になるかは,自分にはよくわからない。しかし,自分の

年金が削られたり給料が減ったりするのはいやだ」と考えたはずだ。

大阪市で橋下市長が負けた構図もしかり。人は誰でも,自分にわかる範囲で物を考えようとする

だから,「政治のことは自分には何もわからないから選挙には行かない」あるいは「政治のことで

自分にわかるのは,候補者の顔写真だけだ。だから自分はなるべく若くてイケメンの候補者に

投票する」というような行動は,基本的には責められないと思う。お互い大人同士なのだから,

「あなたはもっと政治に(あるいは原発に,あるいは自分の健康に)関心を持つべきだ」なんていう

説教を相手に向けるのは間違っている。

 

ちなみに,もし今安保関連法案を争点にして選挙をやったら,自民党は大敗する可能性もある。

その場合,反対票を入れる人は,(自分にわかる範囲で)物を考えた(と思っている)だろうが,

それは「憲法学者が違憲だと言ったから」というような,ある意味で短絡的な理由にすぎないかも

しれない。ことほど左様に民意というものは移ろいやすく,言い換えれば「操作」されやすい。

政治家やその周辺の人々にはそれがわかっているから,「沖縄県民は2つの新聞に洗脳されている」

という暴論も出てくるのだろう。この発言の背景には「一般市民は洗脳されうる」という発想がある。

市民にとっては甚だ失礼な話だが,残念ながらそれはある程度真実だろう。

 

ついでに言うと,山口県のある高校の社会科の授業で,安保関連法案をテーマにしたディスカッションを

やらせたら,自民党県議からクレームがついて教育委員長が謝罪したというニュースがあった。

この問題については,次のように思う。

(1)政治的に議論の分かれる問題を高校生に考えさせることの是非については,建前としては

「積極的にそうさせるべきだ」と言える。選挙権が18歳から与えられるのだから,その直前の年齢の

若者にはできるだけ多くの判断材料を与えておくべきだろう(18歳を越えたら一人前なのだから

各自の判断に任せればよい)。

(2)しかし一方で,今回のテーマは高校生に議論させるには適切ではないだろうとも思う。

理由は次の2つだ。

@賛否両論の背景となる情報を適切に提示することが,技術的に非常に難しい。論点が多すぎて

判断材料となる情報量が膨大になるからだ。

A仮にそれができたとすれば,結論が1つに決まってしまって議論が成り立たない。その結論とは

もちろん,「安保関連法案は手続き的にも法律的にも間違っている」という結論だ。理由はここでは

詳述しないが,この問題をまともに考えている人なら誰でもわかる。比ゆ的に言えば「法律に違反して

麻薬を吸うのはいいことだと思いますか」と問うようなもので,賛成論の成り立つ余地がない。

後述するとおり安保関連法案に対する賛成派のよりどころは合理的判断ではなく思想(宗教)的信条

であり,それを持ち出すのは議論を放棄するに等しい。だから,高校生に社会問題を考えさせるなら,

たとえば原発や核兵器をテーマにする方がいい。これらの問題は賛否の双方に「理」があり,それを

深く考える過程でこれらに反対する人々のロジックの限界も見えてくるだろう。

そして最後に,重要なことを1つ。クレームをつけた自民党県議は,もしかしたらこう考えたの

かもしれない。

「自分を含めて,政治家は政治のプロだ。安全保障問題は高度な政治的判断を要する問題であり,

素人がまともに議論することは難しい。この種のプロが対処すべき問題については,プロである我々に

任せてもらいたい(素人には口を出してほしくない)」

この発想は,職業意識として基本的に間違ってはいないと思う。たとえば医者にかかった患者が,

「先生の見立てはそうかもしれんけど,ワシはそうは思わん。自分の体のことは自分でわかる」と

言ったとしたら,お医者さんは「プロである自分の診断を信じてくれよ」と怒るだろう。それと同じだ。

 

話があちこちに飛んだが,(1)の「後出しジャンケン」批判についての結論はこうだ。

この批判は,筋は通っている。しかし実質的にはあまり意味がない。安倍総理はそれこそ命がけで

安保関連法案を通すだろうし,いったん通ってしまえば批判の熱も一気に冷めるだろう。自衛隊員が

ホルムズ海峡で「戦死」しようが一般国民の生活には影響はないし,少なくとも(安保条約のおかげで)

外国の軍隊が日本に攻めてくる可能性も実質的にゼロなのだから。(ただしテロ被害のリスクは高まる)

 

次に(2)の「解釈改憲」批判について。これも,もちろん筋が通っている。

見方を変えて庶民感覚で感想を言うなら,「そこまでやるか?」という思いを禁じえない。

たとえば砂川事件が集団的自衛権の論拠だとか。松岡修造とか,一時ブレークした小島よしおを

見ているようだ(自分だったら恥ずかしくてあんな真似はとてもできない,という意味で)。

安保関連法案関係の週刊誌記事で一番面白かったのは,「週刊現代」の魚住昭氏のコラムだ。

この記事によれば,安倍政権のバックには日本最大規模の右派団体である「日本会議」の存在がある。

憲法審査会で安保法制を違憲だと言った3人の憲法学者の一人である小林教授は,外国人記者の

インタビューに答えて次のように述べたという。

「私は日本会議にはたくさん知人がいる。彼らに共通する思いは,第二次世界大戦での敗戦を

受け入れがたい,だからその前の日本に戻したいということ。日本が明治憲法下で軍事5大国

だったときのように,米国とともに世界に進軍したいという思いの人が集まっている。よく見ると,

明治憲法下でエスタブリッシュメントだった人の子孫が多い。そう考えるとメイク・センス(理解

できる)でしょ」

さらにコラムの記事は続く。

「驚くべきは日本会議の構成員が閣僚に占める割合である。第一次安倍内閣では首相をはじめ

12人,… 現内閣では19人中15人に増えた。」

要するに現在の日本政府は,安倍総理(と取り巻きの人々)を中心とする一種の宗教団体に

乗っ取られていると言ってもいいのかもしれない。宗教団体が最高権力を握れば,千載一遇の

チャンスとして,自分らの思想を実現するために何でもやるだろうし,憲法だって無視するだろう。

わかりやすいっちゃ,わかりやすい。ただし,反対する側にも対抗手段はある。

国民世論がもっと反対の方向に傾けば,安保関連法案は廃案になる可能性もある。

しかし,秘密保護法のときもそうだったように,たぶん国民的反対運動は盛り上がらないだろう。

何しろ,みんなこの問題にそこまでの関心はないのだから。

早い話,うちは4人家族だが,そのうち3人の有権者たちは「安保?それ,何?」というレベルだし。

 

最後に,(3)の「自衛隊の海外派遣の歯止め規定があいまいだ」という点について。

これも,今の法案だと実質的に歯止めがないことは子どもでもわかる(だから維新の対案の方が

筋が通っている)。つまり今のままだと,日本の国益を守るためという理由で,自衛隊が世界

中の戦争に参加することになる。 総理や政府がどう言い繕おうが,ここまでは間違いない。

だから,そのことをあなたはどう考えるか?というのが実質的な論点になる。

反対する人は「政府の判断は信用できない(だから自由裁量権を与えるべきではない)」と考える。

では,賛成する人はどうだろうか?これには次の2つの理由が考えられる。

@ 政府の判断を信用したい(あまり無茶苦茶な判断はしないだろうと自分は思う)。

A 自衛隊はどんな戦争(名目上は平和維持活動)にも参加すべきだ。それが日本の国益につながる。

Aは上記の日本会議の人々と同じ思想だが,それ自体が悪いわけではない。そういう思想を持つ

人だって,そりゃあいるだろう。しかし@の人々に対しては,ただのバカだという感想しか持てない。

こういう人がオレオレ詐欺や催眠商法に引っかかるんだろうなあ。

「自分は何もしないが,誰かがうまくやってくれるだろう」で渡っていけるほど,今の世の中は甘くない。

 

まあ要するに,安保法案に文句があるなら,次の選挙で自民党に投票しなければいいだけの話だ。

そのときには法律自体は既に成立しているかもしれないが,「騙された」ことへの報復はできる。

当然その選挙でも,自民党は「私たちでなければ日本(経済)を発展させることはできません」と

主張するだろう。そっちを優先して多くの国民が自民党を選ぶのだったら,その結果は重い。

イケメン候補者に投票するような「愚かな」市民だって,立派な有権者なんだから。

それが民主主義というものでしょう。

 

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