日記帳(2016年7月18日)

 

この連休は,あいにく風邪をひいてずっと寝込んでいた。

だいたい例年夏の終わりごろに(体温調節がうまくいかず)風邪をひくが,今年はちょっと早かった。

締め切りの迫った仕事があるのでもともと出歩く予定はなかったが,仕事の予定はだいぶ狂った。

一日中寝ているのもヒマなので,本を1冊購入。『ゴーマニズム戦歴』(小林よしりのり・ベスト新書)

まだ途中までしか読んでいないが,なかなか面白い。

作者のデビューから今日までの思想的遍歴がまとめてある。

同書の中から1つだけエピソードを紹介しよう。

小林氏は,オウム神理教事件の起きた1995年当時,扶桑社の「SPA!」という雑誌で

「ゴーマニズム宣言」を連載していた。坂本弁護士失踪事件で実質的にオウムを名指しで

犯人だとしたために,彼はオウムから命を狙われることになる。そのさなか,「SPA!」は

両論併記という建前でオウムを擁護する記事を出そうとした。特に小林氏を批判していた

宅八郎氏にオウムの上祐広報部長へのインタビューをさせると聞いて,小林氏は激怒して

編集長にこう迫った。

「あんたは自分の家族がサリンで殺されても上祐を出せるのか?」

それに対して当時の編集長は,「出せる」と答えたという。

このやりとりの後,小林氏は「SPA!」での連載を中止し,「SAPIO」(小学館)で再開した。

いい話だ。小林氏の考えも,編集長の考えも,どちらにも共感できる。

以上が,次の話の前置きになる。

 

前回の日記で「若者が今回の選挙でどの政党に投票するかに興味がある」と書いた。

結果を見ると,オジサンの予想は見事に外れましたね。

やっぱり選挙のプロ(自民党の皆さん)はすごいですわ。脱帽です。

マスコミの集計によれば自民党の支持率は20代が一番高く,18〜19歳と30代でも

平均より多くの人が自民党を支持していた。40代以降の自民党支持率は,きれいに

年齢と反比例していた(年齢が高いほど自民党支持率は低かった)。

報道などから判断すると,多くの若者が自民党を支持した理由は,どうもこんな感じらしい

(明確に「これが理由だ」と言い切った報道はなかったので,あくまで推測だ)。

 

20代を中心とする若者たちにとって,選挙とは一種のイベント(お祭り)であるらしい。

祭りに参加するのに「思想」はいらない。

彼らが選挙に行く主な目的は,SNSで「選挙なう」という情報を発信することかもしれない。

みんなも行ってるみたいだし,面白そうだからちょっと行ってみっか。一緒にどう?みたいな。

その背景には,今の時代は「みんなで同じことをする」という共同体参加体験のようなものを

持つ機会が少ないという事情もあるかもしれない。

ともあれ,選挙に行くからには候補者や政党を選んで投票しなければならない。

しかし,政策や公約をいちいち聞いたり読んだりしてまじめに判断するのは面倒だ。

そこで,「夜店に来たら,やっぱ金魚すくいっしょ」みたいなノリで,

「せっかく選挙に来たんだから,一番有名な人(政党)に入れとくか」

という感じで自民党(の候補者)に投票した若者が多かったんじゃないかと思う。

 

オジサンは「わざわざ選挙に出かけて投票するからには,それなりにまじめに考えるだろう」と

予想した。しかしそれは見込み違いで,今の若者はそこまで「まじめ」じゃなかったようだ。

もっとも,自分が18歳や19歳の頃に選挙権を与えられたとしても,政治については今の若者と

同じくらいの関心と知識しか持っていなかっただろうから,今の若者たちを責める気は全くない。

しかし,それにしても。そうした若者の投票行動を正しく予測し,

「18〜19歳に選挙権を与えれば,オレらに有利になるはずだ」と考えて選挙年齢の

引き下げを推し進めた自民党の選挙対策本部(?)の読みは,さすがとしか言いようがない。

プロの「読み」を見せてもらったという意味では,清清しくさえある。

同時に,頭でっかちだった自分を反省したい。

ちなみに,今回の選挙は「経済か憲法か」の二者択一という性格が強かったが,

「衆参両院で与党が3分の2の議席を獲得して憲法改正の発議を行ったとしても,

国民投票で過半数が取れなければ憲法改正はできないのだから,憲法については

そのとき考えればいい。今はとにかく景気対策が優先だ」と考えた人も多かっただろう。

それはまっとうな感覚だと思う。

 

話のついでにもう1つ。16日(土)の新聞に,こんな内容の記事が載っていた。

アメリカは『核兵器の先制不使用』(=他国に先立ってアメリカが核兵器を使うことはない)

を宣言することを検討している。これに対して日本政府は,それでは日本の安全保障に

とってマイナスだ(核抑止力が弱まる)という理由で,アメリカ政府に対して先制不使用の

方針を見直すよう働きかける動きがある。

これに対しては,左翼じゃなくても「どうなの?」と思う人が多いんじゃないだろうか。

オバマさんが広島まで来て核軍縮の流れを作ろうとしたのに,被爆国である日本が

「アメリカには積極的に核兵器を使ってほしい。そうしないと抑止力にならない」と

言っているわけだ。それはどうなの?と,オジサンは思うけどね。

ただし断っておくが,「現実に中国や北朝鮮の脅威があるのだから,核抑止力は必要だ」

という考えを非難しているわけではない。それはそれで「あり」だと思う。

オジサンが問題視しているのは,上の(青字の)日本政府の姿勢の背景には,

「自分さえよければそれでいい(=日本の安全を守るためには世界全体の核軍縮の

機運に逆らってもかまわない)」という思想,言い換えれば

全体の利益よりも個の利益を優先してよい

という思想がある。それは,保守主義者本来の思想とは正反対だ

つまり彼らは,自分の思想の根幹を捨ててまで,現実の利益を優先しようとしている。

そこが,美しくない。筋を通せ。な〜にが「美しい国」だ。ふざけるな。

(風邪で体調が悪いので,気持ちがすさんで言葉も荒っぽくなっています)

 

保守主義者が今の憲法を批判するときに使う,次のような常套句がある。

「今の憲法が個人の自由を過度に認めすぎたから,多くの日本人は自由と『わがまま』を

混同して,規律を守れない人間になってしまった」

まっとうな(?)保守主義者は,「個の利益よりも全体の利益を優先すべきだ」という

価値観を持っているはずだ。「日本の安全を守るためなら世界全体の利益(核軍縮)

なんかどうでもいい」という考え方は,その価値観に真っ向から反するんじゃないのか?

この点を,保守主義者の諸君はどう考えるのか答えてもらいたい。

同じことは,選挙前の安倍政権の一連の行動についても言える。

彼らは選挙に勝つという自分らの利益を優先して,財政赤字が増えることを承知の上で

(つまり全体よりも個を優先して)消費税の引き上げを延期した。

似たような例はいくらでも挙げられる。

つまり何が言いたいかというと,こういうことだ。

全体より個の利益を優先するような奴には,

「日本人はわがままになった」などと言う資格はない。

わがままなのはお前ら(今の保守主義者)の方だ。

 

折りしも先日,中国が主張する「九段線」には国際法上の根拠がないという裁定が下った。

中国が主張する「島」の多くは,ただの「岩」だという。

そうなると,日本最南端の「島」である沖ノ鳥島も「岩」だと判断される可能性が高い

けっこうなことだ。そういう裁定が早く出てほしい。

そのとき,今の「エセ保守主義者」たちの化けの皮がはがれるだろう。

日本は今,「南シナ海の領海問題について,中国は国際法を守るべきだ」と主張している。

もし沖ノ鳥島が「岩」だと判断されたら,当然日本もその決定には従わねばならない。

それは,日本が大きな領土(領海)を失うことを意味する。

日本一国の利益よりも国際的な法秩序を優先するのは,保守主義者でなくても当然のことだ。

そういう事態が起きたとき,果たして今の保守主義の論客たち(たとえば櫻井よしこ氏)は,

どんな主張をするだろうか。そのとき彼らが「それでも沖ノ鳥島は日本の領土だ(国際法よりも

日本の領土を守ることが優先だ)」と言ったなら,そいつらは自分がエセ保守主義者だと告白して

いるようなものだ。その主張自体のよしあしの問題じゃない。本人のプライドの問題だよ。

「向こうが法を無視するならこっちも無視すればいい」じゃ,ヤクザと一緒だからね。

そもそも,世界のルールを守らないような連中には,日本のルールを作る資格なんかないだろう。

 

※蛇足だが,「SPA!」の編集長は,小林氏の人気連載を失うリスクよりも,(両論併記という)

メディアの大義を優先した。こういうのを「美しい行為」と言うのだ。

 

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