日記帳(2017年1月29日)

 

1月4日から仕事モードに入り,公私ともども忙しい。

しかし日曜日くらいはゆっくりしたいので,仕事はオフにして日記でも書く。

「週刊朝日」の連載エッセイ「暖簾にひじ鉄」に,脚本家の内館牧子氏がこんなことを書いていた。

※以下の文面は連載記事を抜粋したもの。

昨年,12月6日の読売新聞にとても切実な人生相談が出ていた。・・・(中略)・・・

私の地元を『田舎』と嫌う彼」と見出しがついていた。

「20代の会社員女性。来年結婚する予定の彼が,私の住む県を嫌っています。

理由は,全都道府県の中で一番田舎だと思うからだそうです。

私の家族や友人が嫌いなのではなく,地域として嫌いなようです。

彼は都会の出身です。こちらには転勤で5年ほど住んでいました。

今は別の県にいて,そこもすぐに都会に出られるため,満足しているようです。

私の地元にはなるべく来たくないとまで言います。

彼とは,この話になるたびにけんかになります。私としては,生まれ育った環境や,

そこで暮らす人をおとしめられているような気がして,とても悲しくなります。

涙が出るほどです。その気持ちを伝えると,彼はその場では謝ります。

しかし,心から悪いと思っていないのが伝わってきます。

二度と嫌いとは言わないでほしいと頼んでも,彼は無理だと答えます。

彼のことは本当に好きですが,この点だけはどうしても許せません。

結婚に当たり,どういう心持ちで接すればいいのでしょうか」

私は読みながら,彼女の怒りと悲しみは実にまっとうだと思った。

そして,ここまで言う男と,そう言わないでほしいと涙ながらに頼む女の図式を考えると,

これは「モラルハラスメント」である。・・・(中略)・・・

私の結論は「別れなさい。相手の地元を,面と向かってここまで悪しざまに言う大人と

いうのは,モラハラに加え,最低限の品性が欠如しています」である。

新聞での回答者は弁護士だったので,モラハラに触れているだろうと思って読み,声を失った。

「彼を許せないという気持ちが理解できない」

「地元民が嫌いなのではなく,地域として嫌いという感情は,プロ野球のある球団が嫌い,

田舎より都会が好きという類いの軽い気持ちと考えればよい。あなたの育った環境を

おとしめるものではないと思う」

「それとも,彼があなたの地元を嫌うことで何か不都合があるのか」

「地元の話になるたびに起こるけんかは,具体的にはどういう争いになるのか。

地元が好きか嫌いかで争ったところで,何のメリットもないだろう」

「好き・嫌いの感情は,理屈ではないため,彼の地元嫌いを好きにするのは難しい。

地元が嫌いなら仕方ないと,広い心で彼と接したらいかがか」

こういう考え方もあるのだと,目が覚めた。まさか,弁護士がこう回答するとは思わなかった。

おそらく,弁護士としてモラハラ離婚などの相談も多かろうし,この程度はモラハラのうちに

入らないのかもしれない。一方,モラハラを感じ,結婚後のことまで想像を飛ばすというのは,

まさに脚本家の性(さが)ということになるのか。

彼が心の中でどれほど彼女の地元をののしろうと,嫌おうといい。

だがそれを口にしないことは最低限の礼儀であり,品性だろう。

脚本家的想像ではあるが,その品性の欠如は,結婚後に他の部分にも出て来うる。

それらを広い心で許せるだろうか。

 

以上のエッセイを読んで,感じたことを書いてみたい。

まず,自分がこの人生相談の回答者なら,次のように答えるだろう。

「結婚に当たり,どういう心持ちで接すればいいのでしょうか」とあなたは書いておられます。

つまりあなたは,その彼と結婚する意志を既に固めているのですね?

そうであるなら,答えはただ1つです。

彼の欠点を承知の上でそれでも結婚したいのなら,あなたの方が我慢するしかありません。

一方,あなたが「彼と結婚すべきかどうか迷っている」というのであれば,こう答えましょう。

彼の欠点と長所を比べてごらんなさい。彼との結婚が自分にとって損か得か,と考えてもかまいません。

その結果「欠点より長所の方が大きい」「彼との結婚は自分にとって損より得の方が大きい」という

結論に達すれば,結婚を決断すればよいでしょう。逆なら別れる。それだけのことです。

いずれにせよ,あなたは自分の決断に対して責任を持たねばなりません

彼の欠点を承知の上で結婚し,結婚後に「失敗した」と思ったら,あなたはどうしますか?

離婚ももちろん1つの方法です。しかし離婚によってまわりの誰かに迷惑がかかるとしたら,

その離婚は道義的に許されません。たとえば子どもがいれば離婚は避けるべきです。

結婚後に相手の欠点が見つかったのなら,離婚は法的にも道義的にも許されるかもしれません。

たとえば「ダンナが浮気した」というような場合です。

しかしあなたは彼の(おそらく)最大の欠点を既に知っているのだから,彼と結婚するのなら

その欠点を認め,結婚に伴う責任を取らねばなりません。

要するに,今の彼と結婚するなら,離婚してはいけません

離婚はあなたの側の責任放棄です。彼に罪はありません。

以上の助言を参考にして,彼と結婚するかどうかを決断してください。

 

まず内館氏の意見には,おおむね賛成する。とくに,最後の方に書いてある

彼が心の中でどれほど彼女の地元をののしろうと,嫌おうといい。

だがそれを口にしないことは最低限の礼儀であり,品性だろう。

このくだりには全く同感だ。

ただし,相談者と彼氏との男女関係については,ちょっと違う印象を持った。

内館氏の頭にあるのは,おそらく「相談者=普通の人」「彼氏=変わった人」という図式だろう。

しかしオジサンは,「相談者も彼氏と同じくらいの変わった人」である可能性を否定できない。

類は友を呼ぶと言うではないか。割れ鍋にとじぶたとも言うね。

彼はものすごく口が悪いけど,私はイケメンが好きなの!とか。

ダンナが浮気しようが何をしようが,金さえ持ってりゃいいの!とか。

そう考えると,そのそも男女関係をテーマにした人生相談の答えは1つしかない。

「好きならくっつきなさい」「嫌いになったら(そして子どもがいなければ)別れなさい」

これ以外の答えは,恋愛の当事者にとっては無意味だろう。

 

次に回答者の弁護士については,回答の一部しかわからないので断定的なことは言えない。

しかし少なくとも内館氏が抜粋した部分については,賛同できるところは1つもない。

「彼を許せないという気持ちが理解できない」

→「理解はできるが共感はできない」と言うべきだろう。理解ができないのはただのコミュ障だ。

「地元民が嫌いなのではなく,地域として嫌いという感情は,プロ野球のある球団が嫌い,

田舎より都会が好きという類いの軽い気持ちと考えればよい。あなたの育った環境を

おとしめるものではないと思う」

→「プロ野球のある球団が嫌い」は比喩として適切ではない。相談者と無関係だからだ。

また「田舎より都会が好き」と「田舎が嫌い」とはまるで違う。国語力の問題だ。

「それとも,彼があなたの地元を嫌うことで何か不都合があるのか」

→あるに決まっている。そんな想像もできないで,よく弁護士が務まるものだ。

真っ先に考えられるのは,相談者の親と彼氏が不仲になることだろう。

「地元の話になるたびに起こるけんかは,具体的にはどういう争いになるのか。

地元が好きか嫌いかで争ったところで,何のメリットもないだろう」

→答えになっていない。相談者は彼氏と争いたくて争っているわけではないのだ。

「好き・嫌いの感情は,理屈ではないため,彼の地元嫌いを好きにするのは難しい。

地元が嫌いなら仕方ないと,広い心で彼と接したらいかがか」

→ 論外。この理屈が通るなら,ヘイトスピーチも正当化されるだろう。

 

相談者自身が書いているとおり,この人が知りたいのは,

「こういう彼氏と結婚するに当たって,自分はどういう心構えを持つべきか」ということだ。

その答えは1つしかないのだ。

自分の人生でしょう。自分で決めなさい。

そして,決めたことに対して責任を持ちなさい。

 

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