最終更新日: 2004/07/10

雑記帳(釣り編-E)


 

● 2004/7/10(土) まきえ釣りに関するアンケートについて 

 

このアンケートは,広島県漁業調整室がネット等を通じて最近行ったものです。

ネットでは,次のように書かれています。

 

広島県では,広島県漁業調整規則によって漁業者及び漁業従事者のみならず,遊漁者等に対しても多くの規制措置を設けています。現在,広島県では,漁業以外でまきえ釣りを行うことは認められていません。まきえ釣りの規制措置については,全国的に議論が行われているところであり,広島県においても,この取扱いについて,検討をしているところです。この検討を進めるにあたり,漁業者,遊漁船業者及び一般の遊漁者を対象にまきえ釣りの実態やまきえ釣りの規制措置に対する意見等を広く求めることとしました。ついては,このインターネットで,一般の遊漁者のみなさんを対象にしたアンケート調査を実施していますので,御協力をお願いします。なお,漁業者及び遊漁船業者に対しても,別にアンケート調査を実施しています。また,調査結果については,調整規則改正の検討のみに利用し,他の用途に利用することはありませんので,ありのままを回答してください。


 

 

まず,このアンケートに私がどう答えたかを,感想を交えてご紹介してみます。
(質問項目は,一部カットしています)


Q2 「どのような釣り方がまきえ釣りに該当すると思いますか?(複数回答可)

1 さびき釣りやかご釣りのようにかごに詰めたアミエビやオキアミ等で魚を寄せる釣り方
2 クロダイのふかせ釣りのように陸からまきえを撒く釣り方
3 クロダイのだんご釣りのようにサシエを集魚効果のあるえさ等で包んで投入する釣り方
4 かぶせ釣りのように砕いたカキやムラサキイガイ等を撒きながら行う釣り方
5 活きエビやイカナゴ等を撒きながらする釣り方
6 飼付漁業のように特定の海域で継続的にえさを与え,魚を蝟集させておいて一本釣りで釣る漁法
7 釣針に付けたえさ以外のもの(土,砂,貝殻等の無機物も含む)で魚を誘引する全ての釣り方
8 その他

⇒ 私は,一応1〜6を選びました(まきえの定義は後で修正します)。7は,何のことかよく

わかりません。「撒き餌」と「擬似餌」を混同しているのでは?と思いました。かぶせ釣りでは

殻つきのカキを使いますが,その殻は7には該当しません。殻はサシエを沈ませるための

ものであって,それによって魚を誘引するわけではないからです。


Q3 まきえ釣りをすることがありますか?する場合は,その方法を回答様式にお書きください。

1 よくする   2 時々する   3 ほとんどしない   4 しない

⇒ 私はを選びましたが,この質問はヘンです。たとえば私が上のQ2で4を選ばなかったら

(つまり「かぶせ釣りはまきえ釣りではない」と考えたとしたら),このQ3では4(しない)を選ぶ

ことになります。つまりQ2の答えに応じてQ3の答えが変わってしまうことになり,データが

不正確になります。Q3の質問文は,「まきえ釣りをしますか?」ではなくて,「Q2の1〜7に

当たるどれかの釣りをしますか?(する場合はその番号)」にする方がベターだと思います。


Q4 遊漁者がまきえ釣りをすることについてどう思いますか?

1 非常に問題がある
2 少し問題がある
3 あまり問題はない
4 全く問題はない


⇒ 私は,を選びました。ただ,「職漁者がまきえ釣りをすることについてどう思いますか?」

という質問も加えてはどうか,という気がします。プロの漁師さんは普通は経費のかかる

まきえ釣りなどやらないと思いますが,Q2の6をまきえとみなすのなら,「プロであろうと

一切のまきえをするべきではない」と考える釣り人がいても不思議ではありません。


Q5 Q4で「1」又は「2」と回答された方に伺います。問題があると答えた理由は何ですか?(複数回答可)

1 大量にまきえを行うため,水質や底質等,環境に悪影響がある
2 効率的に大量に魚を釣るので資源に悪影響がある
3 オキアミ等を食べた魚は価値が下がる
4 漁業活動の支障になる
5 その他


⇒ 私は,を選びました。2については,(まきえの定義にもよりますが)広島県内で

遊漁者のまきえ釣りの対象となる多くの魚種(チヌ・グレ・アジ・サバ・イワシ・サヨリなど)

について,まきえ釣りをするから資源が減るとは思えません。3は,たとえそういう事実

があるとしても,他の問題に比べればマイナーなことがらだと思います。

4は「漁業活動の支障」という言葉の意味がよくわかりません。要するに「職漁者の網に

入る魚が減るから」ということでしょうか?しかしこれも,磯や波止で釣るチヌやグレは

職漁者の利益とはあまり競合しない魚ではないか?という素朴な疑問が沸きます。

あるいは小アジやサヨリを釣ることが「漁業者の権利の侵害だ」と言われたら,「海は

誰のものなのか?」という疑問を持たざるを得ません。ただ,船で釣るタイなどの高級

魚に関しては,まきえをする遊漁者がプロより有利だ,という面があるかもしれません。

もしそうであれば,特定の魚種・海域・釣法に関してのみまきえ規制を行うことは漁業

者の利益を守るために必要かもしれない,とは思います。


Q7 まきえ釣りの禁止措置を解除(自由化)するという考え方について,どう思いますか?

1 禁止措置の解除に賛成
2 条件付きで禁止措置の解除に賛成
3 禁止措置の解除に反対


⇒ 私は,を選びました。全面自由化には,基本的に反対です。

 Q9 Q7で「条件付きで禁止措置の解除に賛成」と回答された方に伺います。どのような条件なら禁止措置を解除してよいと思いますか?(複数回答可)

1 海域を限定する
2 釣り方,対象魚を限定する
3 船からのまきえ釣りを限定する
4 まきえの種類や量を限定する
5 その他

⇒ 私は,1・4を選びました。2については,1・4の規制によりカバーできます。

3の「船からのまきえ釣り」については,これを全面禁止してしまうとアジなどまきえの

使用を前提とする釣りができなくなってしまいます。制約を設けるのはよいとしても,

特定の釣法(バス釣りも含め)そのものを否定するような全面規制には反対です。
具体的な条件付けの案は,後述します。

 

Q11 遊漁者が行うまきえ釣りについて,いったんは全面的な禁止措置を解除した後,資源管理や漁業操業上重要な海域を限定して,あらためてまきえ釣りの禁止海域を設定し,効率的な管理を行うという考え方がありますが,この考え方についてどう思いますか。御意見を回答様式にお書きください

 

私は,次のように書きました。--- 
まきえ釣りを条件付きで解禁することには賛成だが,この案自体には賛成しない。

この案は遊漁者側に有利な案であり,漁業者側から「おいしいところだけを食い逃げ
されるおそれがある」という反発を招きかねない(三位一体改革で藤田県知事が地方
への権限委譲に関して「詐欺的だ」と言ったのと同じ構図を感じる)。「まきえ釣りの
解禁」と「禁止海域の設定」とを同時に行うのが,手順としては一番すっきりすると思う。 

 

Q12 Q1〜Q11の設問以外に,まきえ釣りについての御意見・御提案があれば,回答様式に自由にお書きください。

 私は,次のように書きました。---

まきえ規制の本来の立法趣旨はどうであれ,今日的な意味でのまきえ釣りの問題点は,

大きく2つに大別される。

第1は「漁業者・遊漁者間での魚資源の適正な配分(あるいは奪い合い)」の問題であり,

第2は「まきえが環境に与える負荷」の問題である。
第1の点については,まきえ釣りが漁業者と遊漁者との感情的対立の一因となっている

面がある。両者が今後共存共栄を図ろうとするなら,お互いが歩み寄って利害の対立を

乗り越える努力をする必要がある。そのためには「両者の共通の利益」という大義名分

を設定するのが最もわかりやすい。それが,第2点(海の環境への配慮)の視点である。

環境面だけから考えれば,すべてのまきえ釣りのみならず,海面での養殖業も規制す

べきかもしれない。釣り人(あるいは一般市民)の立場から言えば,「海の環境保護」と

いう観点から漁業者にも考えてほしいことがある。要は多様な利害をどう調整するかの

問題であって,「まきえ釣りを一定の条件下で規制することにより海の自然環境が今より

も改善されれば,それは結果的に魚資源の増加につながり,漁業者・遊漁者双方の

利益にもなる」という路線で話を進めるのが,最も多数の賛同を得やすいと思う。

第1点を中心に議論するのでは,対立の構図は解消しない。
なお補足して言えば,漁業者と遊漁者との感情的対立は,放置ゴミ,漁具(漁業者・

遊漁者双方の)の破損,波止への「立入禁止」の看板の設置など,さまざまな局面で

発生している。それらの中には,一方的に遊漁者の責任に帰すべきではないものも

含まれる。県の関係部署を交えて両者の代表が話し合う,共存共栄に向けた率直な

意見交換の機会を定期的に持つのが望ましいと思う。まきえ問題は,そうした多様な

課題の中の一つにすぎない。


 

ここで,この問題についての根源的な疑問について考えてみます。

「一切のまきえ釣りを禁止する」という現在の規制は,今日の遊漁者の実態に合わなく

なっています。だからこの規制を見直そう,という動きが出てきているわけですが,これ

に対して「本末転倒ではないか?」という反論が出てきても不思議ではありません。

たとえば,「実態として誰も速度制限を守らないからと言って,40km制限の道路を50km

制限に変えよう,というのと同じ発想じゃないか。もともとの規制にはそれなりの意味が

あるのだから,実態を優先して規制の方を変えようとするのは間違っている」みたいな。

これに対しては,次のような反論が可能です。「じゃあ,憲法はどうなんだ。憲法だって,

制定当時はそれなりの理由があった。しかし現代社会の実態に合わなくなったから,

変えようという動きが活発になっているではないか」。

 

まきえ規制に関して言うなら,そもそもの立法趣旨は「素人がプロ並みの道具や方法を

使って漁をし,プロ並みの漁果を得るのを禁じる」という点にあったと思います。それは,

納得できます。たとえば川漁師はハリを何百本もつけたはえ縄や竹筒でウナギを獲り

ますが,同じ仕掛けを素人が使って漁場を荒らされたら,怒るに決まっています。

逆に,子供らが石垣の間に竹竿を突っ込んでウナギ獲りをするようなことまでをも規制

すべきだと主張する人は,まずいないでしょう。要するに,「程度の問題」です。

人間社会のあらゆるルールの背景には,その発想があります。そして,「どこで線を

引くか」という判断基準が人によって違うことが,意見の対立を生みます。その対立は,

話し合いによって解決されます。そのようにして,いろんなルールが決められたり変え

られたりします。だから,「まきえ規制を見直そう」という今回の動きについて,それ自体

をとがめる必要はない,と私は思います。


 

 

では,まきえ規制は全廃して,完全自由化すればよいのでしょうか?

私は,そうは思いません。まきえの「環境への負荷」を目の当たりにしているからです。

たとえば,向島の干汐漁港です。私はかぶせ釣りを本格的に始める前は,この波止へ

ダンゴのチヌ釣りに通っていました。当時はまだ造成中だった左手の波止で,腕の差も

あまり関係ないほど誰にでもたくさんのチヌが釣れていました。ところが,この波止の

評判が知れ渡り遠方からも大勢の釣り人が連日来るようになると,数年後にはチヌの

釣果は激減し,今では当時の面影もないほど釣れなくなってしまいました(それでも

釣り人はかなり入っており,連日ダンゴを投入しています)。チヌが釣れなくなったのは,

(私も含めて)ダンゴやふかせの釣り師たちが過度のマキエをしたために海の浄化

能力が追いつかなくなり,海底の生物が少なくなったからだと思われます。

 

このような現実を見るとき,「まきえが環境に与える影響の大きさ」によってケースバイ

ケースで判断し,ちょうど家庭ゴミの分別収集のように,きめ細かい規制を作っては

どうか,と私は考えています。以下は,私なりの私案です。

 

<まきえ規制の目的>

まきえ規制は,「海の環境を守ることによって,魚資源の

量的維持を図る」ことを目的とする。

 

<「まきえ」の定義>

@ この規制における「まきえ」とは,次のものとする。

「集魚効果を期待してハリをつけずに海に撒くもののうち,海の環境

に一定以上の悪影響を与えるおそれがあるもの。なお,サシエを包む

ダンゴは,まきえの一種とみなす。」

A 具体的には,次のようなものを海に撒けば,それは「まきえ」に当たる。

・オキアミおよび冷凍アミエビ

・粉末またはペースト状の配合エサ(イワシミンチなどを含む)

・上記以外で,次の2条件を満たすもの。(例:米ヌカ)

(a) 海に存在しないもの

(b) 通常サシエとして使わないもの

B 次のようなものは,海に撒いても「まきえ」には当たらない。

・海砂,カキ,貝類など,もともと海に存在するもの。

・川エビ・生ミックなど,通常サシエとして使うもの

※「サシエのオキアミの一部を撒いているのだ」というのは認めない。

   オキアミは環境への負荷が大きいので。

 

<規制海域について>

@ 海域は,次の3種類に分ける。(遊漁禁止海域を除く)

(a) まきえの使用を全面禁止とする海域

(b) まきえの使用量・種類に制限を設けて使用を認める海域

(c) まきえに関して特に規制を設けない海域

A 上記の各海域は,地区ごとに所定の機関で毎年指定する。(年に1回更新)

B 「所定の機関」には,県の関係部署・漁業者代表・遊漁船業者代表・遊漁者

    代表を加え,合議により決定する。

C その海域の汚染度・漁獲高の変化・遊漁者による釣果の変化(遊漁者側が

    データを集める)などの数値的根拠を参考として検討する。

※ たとえばある区域内での釣り人の釣果が著しく減少した場合,(b)指定

    から(a)指定に切り替えるなどを検討する。

 

<まきえの種類・量>

@ 上記(b)の各海域において,船釣り・陸釣りのそれぞれに関して,使用できる

    まきえの種類とその総量(1人が1日に使う量の上限)を,次の例のように

    規定する。

・オキアミ類=○○kgまで

・配合エサ=○○リットルまで <使う状態で>

・その他=規制なし。ただし赤土・イカ油などは使用禁止。

A 上記の規制には,当面罰則は設けない。

※ 罰則を設けても実態をチェックすることが現実に難しいため。

※ まきえを続ければ結局自分で自分の首を締めることになると思えば,

    長い目で見れば規制に従う方向に向かうはず。

B 釣具店(団体)には,上記の量を守って販売するよう指導する。

C まきえメーカーには,より環境への負荷の少ないまきえの開発を促す。

※ 自動車の排ガス規制のような数値目標を定めるのも一案。

 

以上のような案を読んで,「楽観的すぎる」と思われる方もおられることでしょう。

「いくら規制を設けても,守らない連中にとっては意味がない」--- しかし,だからといって

規制を設けることに意味がない,とは言えません。家庭ゴミの分別収集だって,守らない

人も中にはいますが,分別そのものには大きな意味があります。要は,「現状を少しでも

よくするために何ができるか?」を,知恵を絞って考えることだと思います。

 

まきえだけの問題ではありません。たとえば,「○○地区・海の環境会議」みたいな

集まりをそれぞれの地区で定期的に開いてはどうでしょうか?会議の構成は,地元の

漁協・町内会・釣具店(団体)・釣り人団体・釣り関係メディア・役所の担当部署などです。

そこでは,海の環境保護や釣り人の迷惑行為の防止などについて,お互いの立場から

意見を出し合います。その中から具体的なアイディアが出るかもしれません。この種の

ことは一朝一夕にはできませんが,関係者全員が「対立」でなく「共生」の意識を持つ

ことができれば,長期的にはよい方向へ向かうはずです。そのためにも,お互いの

コミュニケーションを可能にする場を設けることが大切だと思います。


 

 

以上でこの問題に関する私の言いたいことはほぼ言い尽くしましたが,最後にひとつ,

余談めいた補足をしておきます。

 

このアンケートには,調査手法の点で大きな欠陥があると思います。

 

これを実施した当局がこのアンケートをどのように利用するのかは知りませんが,

このアンケート調査には,いわゆる「バイアス」がかかっています。難しく言えば

「サンプル抽出に偏りがある」ということです。

たとえば,「Q3  まきえ釣りをすることがありますか?」という項目があります。

この質問に対して,「よくする」「時々する」と答えた人の数が9割に達したとしましょう。

当局は,そのデータをどう使うでしょうか。もしも「調査対象者の9割がイエスと答えて

いるように,今日では釣り人がまきえを使うことは極めて一般的になっている」という

結論を引き出したとしたら,それは誤りです。

 

理由は,説明するまでもないでしょう。このアンケートは「まきえ釣り」に関するもの

ですが,釣り人のうちで「まきえ釣りをする人」は必ずしも多数派ではありません。

投げ釣り師やルアー釣り師は,一般的な意味での「まきえ釣り」はしません。

では,その人たちは果たしてこのアンケートに反応するでしょうか?

私自身はまきえ釣りとの境界線が微妙なかぶせ釣りをやっているので,この

アンケートには関心を持ちます。しかし私がたとえば投げ釣り専門の釣り師なら,

「自分はまきえ釣りをやらないから関心がない(あるいは,回答する資格がない)」と

考えるかもしれません。つまりこのアンケートに回答する人の大半は「まきえ釣りを

する遊漁者」であり,その人たちの多くは(自分の利益のために)「まきえ釣りの禁止

措置は解除すべきだ」と回答するに決まっています。しかし,それが釣り人全体の

多数意見であるとは必ずしも言えません。まして,釣りをやらない世間一般の人が

この問題をどう考えているかも,議論においては全く無視することはできません。

 

ひとりの釣り人としては,現在のような「まきえは一切禁止」という規制はなくして

ほしいと思います。しかし,釣りにまつわる解決しなければならない問題は,まだ

たくさん残っています。感情やイメージに左右されず,できるだけ多くの関係者を

巻き込んだ冷静で協調的な議論の場が設けられることを願っています。

 

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