最終更新日: 2014/6/28

雑記帳 (その他編-19)

 


 

 

● 2014/6/28(土) 現実逃避者たちへ

 

 

今さらですが,私はマンガマニアです。

好きで読んでいたマンガから,学校では教えてくれないたくさんのことも学びました。

今日はその中から,最も強く印象に残っているエピソードの1つをご紹介します。

 

 

それは,「ラーメン発見伝」(単行本では第17巻)に出てくるこんな話だ。

ラーメンマニアの主人公・藤本クンは,上司からこんな相談を受ける。

上司の知人の女性・清水さんの夫が急死した。夫の実家は,老舗のラーメン屋だった。

女性は夫の亡父の後を継いでその店『雪々軒』の経営者となったが,近年店が赤字に

なっていることを知った。そこで,藤本クンにその原因と対策を考えてほしい,という。

 

藤本クンは,その店のラーメンは昔は珍しい味だったが今では時代遅れになって

いると考え,味を変えるよう提案する。これに,古くから働いていた従業員たちは

大反対する。彼らは店の味やサービスの方法などを一切変えたくない,それが

常連客に対する礼儀だ,というようなことを言う。

マンガに出てくる古参従業員たちのセリフは,こうだ。

 

「先代が残したものを変えずになんとかするのが,オカミサンの務めじゃねえんですか!?

あんたのやり方じゃあ,オヤジサンは草葉の陰で泣いてるよ!!」

「これだから大学出のお嬢さんは困るのさ!!人生,教科書通りじゃないんだよ!!」

 

困り果てた藤本クンの前に,ライバルであり業界の先輩でもあるハゲの芹沢さんが現れる。

芹沢さんと藤本くんの会話はこうだ。

 

芹 「いいか,藤本クン。店員達の先代への思い…それを真に理解していないことには

     何も始まらないんだぜ」

藤 「理解してますよ。下町人情かたぎの店員さん達は,先代を慕う気持ちが強すぎる余り

    絶対化してしまい,他のやり方を受け入れる柔軟性を失ってしまってるってことでしょう」

芹   (無言)

藤 「ち,違うっていうんですか…?」

芹 「ま,これからオレのやることを見ているといい…この下町人情ドラマの舞台裏は,

     実はホラーだってことを教えてやるよ」

 

 

そして芹沢さんは,経営者である清水さんと相談し,自分が経営するラーメン店の若い

スタッフ2人をその店に送り込んで,従業員達に仕事の正確さや接客マナーの指導をさせる。

閉店後の反省会で厳しく糾弾された4人の古参従業員達は,店を辞めたいと願い出る。

芹沢さんの狙いは,最初からこの4人を辞めさせることだった(やる気のある若いスタッフ

たちは残すことに決めていた)。そして…

 

藤 「あ,あの…確かにこのお店は,客入りのわりには店員さんが多すぎると思いますし,

    ある程度のリストラはやむを得ないかもしれません。でも,あれほど先代のオヤジサンを

    慕っていた人達を,そんな乱暴なやり方で……」

芹 「藤本クン,別に人が多すぎるからリストラしたわけじゃないんだよ。かなり無能だが,

    今回はそのせいでもない」

藤 「じゃあ,なんで…?」

芹 「そりゃあ,人間が粗悪だからさ。多少強引でも,ああいう腐ったリンゴのリストラは

    早急を要する」

藤 「人間が粗悪?」

芹 「オレもあいつらとは話したがな,藤本クンの時と同じことを言われたよ。(中略)

    しかしキミも言ってたように,先代が生きてたら,客足が減る一方なのに,古いやり方に

    しかみついていただろうか?」

藤 「まあ,ありえないと思います」

芹 「なのに,我々より遥かに先代を知っているはずのあの店員達に,そういう発想は

    なぜか微塵もない」

藤 「だから,それは…この前も言ったように,先代を慕う気持ちが強すぎるあまり絶対化

     してしまっていて…」

芹 「違う。ヤツらはとにかくレジ打ちだけだとか,同じメニューを作るだけとかしていれば

    いい,このラクな職場を1ミリたりとも変えたくないんだ。たぶん客も少ない方がいいと

    さえ思っている。先代がどうこうなんて,怠けてる自分達を正当化するための方便に

    しか過ぎない」

 

 

さて,ここからが本題だ。

 

藤 「えーっと…つまり……彼らは単なる怠け者で,ラクをするために先代への思いを都合よく

     使っているだけっていうわけですよね。でも,そんなことしたら確実に『雪々軒』は潰れ

     ますよ。失業してもいいから怠けていたいってことですか?

葉月サン(藤本クンの上司) 「失業してもよくはないだろうけど…ああいうタイプの人達って,

    どんな危険な状況でも,自分だけは何もしたくないし,楽をしていたいの。何の根拠も

    なく,誰かが何とかしてくれるものだって思ってるのよ

芹 「その通り。で,もし『雪々軒』が潰れたら,清水サンを無能な経営者だと責めるし,

    路頭に迷ったら,自分はマジメに働いてきたのに,ひどい世の中だとか,善良な

    市民面して,政治家あたりを責めるわけさ。怠惰と詭弁と責任転嫁だけで生きている

    腐りきった俗物…ああいう口をパクパクあけてエサを求めるしか能のない輩は,人間と

    いうより養殖魚に近い。だから,下町人情ドラマの舞台裏はホラーだと言ったんだよ。

   登場人物達は,まるで半魚人のようなバケモノだったわけだからな」


 

 

うちは地元のニュースが多いという理由で中国新聞を取っているが,中国新聞は朝日や毎日と

同じく,どちらかと言えば左寄りの思想を持っている。3.11以降,新聞紙上にはいわゆる

「識者の意見」が数多く載ったが,その大半は「原発事故や高齢化,人口減などを考えると,

われわれは今までの経済成長至上主義を捨て,身の丈に合った暮らしと社会を志向すべきだ」

というような,一種のユートピア思想を語るものだった。言わせてもらえば,このような考え方を

する人のほとんどは,上の話に出てくる古参従業員たちに近い。

 

彼らの共通点は,葉月サンが言ったように,「何の根拠もなく,誰かが何とかしてくれるものだって

思ってる」ことだ。「昭和30年代の暮らしに戻ってもいいじゃないか」というユートピア思想家たちの

意見が説得力を持つためには,何よりもまず定職と一定の収入が必要だ。

うちの下の娘はこの4月に大学を卒業して正社員として就職したが,給料は約16万円だそうだ。

自宅通勤なので生活はできるが,貯金は難しいだろう。まして非常勤だと結婚資金も溜まらない。

給料の平均額が安い大きな理由の1つは,外国人労働者との間で労働力のダンピング競争が

起きていることだと思う。最近コンビニの従業員には中国人が多いが,たぶん彼ら彼女らは

法律で決まっている日本人の最低時給を下回る額しかもらっていないだろう。

だから,「専門職以外への外国人労働者の雇用は一切禁止」という法的な縛りをかければ,

日本人の若者の平均賃金が上がる可能性は高い(別にそうしろと言っているわけではない)。

 

 

ここで言いたいのは,こういうことだ。

「欲張らずに小さな幸せに満足できる社会を作ろう」的なユートピアを語る人は,その社会を

実現させるための具体的な筋道や方法を(思いつきでもいいから)示してもらいたい。

たとえば「外国人労働者を締め出そう。そうすれば平均賃金が上がり,生活が楽になる

かもしれない」と主張するなら,(妥当かどうかは別にして)言いたいことはわかる。

あるいは脱原発論を語る人は,一時的にであれ高い電気料金を支払うことになりそうな

中小企業にどう配慮するのかを語る必要がある(潰れればいいというのも1つの思想だし,

税金から補助金を出そうという案でもいいだろう。そういう過程の中で,おのずと考えは

深まっていく)。しかしそういう筋道を一切示さず,単に「私たちは今までの考え方を改める

ときが来ているのでは?」的な甘いイメージを垂れ流すのは,ただの現実逃避でしかない。

自分が現実逃避者であることを自覚した上で「こうだったらいいのにね」という妄想を語る

だけなら,誰も文句は言わないだろう。しかし,物知り顔で「物欲より心を大切に」などと

偉そうなことを言うだけの人には,「あなたは気楽でいいですね」という感想しか沸かない。

たとえば「弱者に対してもっと税金から補助を」という意見を吐く人には,もとになる税収は

どうやって確保するのか?と問いたい。それを突き詰めて考えれば,自民党と共産党の

どっちの思想を選ぶのか?という話に行き着く。そこまで物を考えないで単に「弱者の見方を」

と言うだけの人は,「(難しい話は)誰かが何とかしてくれる」と思っているタイプだ。

憲法論議もしかり。今年公開された映画「相棒・劇場版V」では,最後に水谷豊とテロリストの

敵役との長い対話が出てくる。見た人は知っているだろうが,敵役は「世の中のほとんどの人は,

日本の安全保障について『誰か(たとえばアメリカ)が何とかしてくれるだろう』という甘い考えしか

持っていない」という趣旨の,大いに考えさせられることを語っていた。

 

 

ワールドカップで日本が予選敗退したことについて,新聞記事のかなりの部分は「日本はなぜ

負けたのか」の分析に割かれていた。それはいい。しかしその分析の中身の多くは,「誰が

悪かったのか」という犯人探しをしようとするものだった。いわく,監督が優柔不断だった。

あるいは,中心選手と周りのコミュニケーションが取れていなかった。はたまた,某選手は

「何が日本のサッカーかこちらが知りたい」(野球選手がこんな発言をしたら一発でチームを

追放されるだろう)とまで言った。それらのすべては,ただの現実逃避にすぎない。

世界ランキングが上の相手に負けるのは当たり前であって,単に実力がないだけだ。

しかし日本人には現実逃避者が多いらしく,「弱いから負けた」では納得しない。

実力がないというシビアな現実から逃げたいがために,ハートの問題を異常に重視する。

心でっかち」という言葉があるそうだが,まさにそれだ。何でもかんでも心の問題に帰着させて,

「心がしっかりしていれば実力以上の力が出せる(かもしれない)」と信じたがる。

太平洋戦争中の大本営と何も変わらない。サッカーが好きなら日本チームを,野球が好きなら

カープを一生懸命に応援して,負けたら「残念だったが,選手はご苦労様」とねぎらってやれば

いいじゃないか。プロだから勝つのが義務だ?そんなことはない。相手もプロだからね。

 

 

 

現実逃避者たちへ

 

夢やこだわりを持ったり語ったりするのは,それ自体は悪いことじゃない。

ただし,まじめな意見として語りたいなら,反対者でも理解できそうな理由を添えるべきだ。

単なる願望として語りたいなら,「実現の可能性は考慮していない」の一言を添えよう。

 

いずれにせよ,自分の意見を正当化しようとして他人の悪口を言うのは,やめた方がいい

 

ラーメン発見伝の中に出てくる,自分は何もしないで「誰かが何とかしてくれる」と他人に責任転嫁

してばかりの古参従業員になっちゃったら,まともな社会人からは相手にしてもらえないからね。

 

 

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