冠詞と新情報・旧情報の基本的な関係は次のようになります。
〈the+名詞〉は旧情報を表す。
〈a/an+名詞〉は新情報を表す。
このことを念頭に置いて,以下の例を考えてみましょう。
○The bank is near the station. (その銀行は駅のそばにある)
旧情報
新情報
the bankは旧情報であり,この文は「(君も知っている)その銀行がどこにあるかと言えば,
それは駅のそばだ」という意味を伝えようとしています。このように英文の基本構造は
「旧情報→新情報」であり,その並びになっている文は自然に響きます。
△A bank is near the station. (ある銀行が駅のそばにある)
新情報
a/an(不定冠詞)のついた名詞は,原則として新情報を表します。
上の文は完全な誤りではありませんが,新情報が最初にあるので不自然に響きます。
次のように言えば自然になります。
○There is a bank near the station. (駅のそばに銀行がある)
新情報
この文のThere isは,「次に新情報がありますよ」というマーカー(指標)の働きをしています。
特別な意味を持たないThere isをわざわざ文の最初に置くのは,文頭に新情報を置くのを
避けるためだと説明できるわけです。次の例も同様です。(下線部が新情報)
△Some boys are swimming in the river.
○There are some boys swimming in the river.
(何人かの男の子たちが川で泳いでいる)
次の文の情報構造を考えてみましょう。
My father is a lawyer. (私の父は弁護士です)
この文で話し手が伝えようとする情報には,次の2つの可能性があります。
@My fatherが既に話題に出ている場合。たとえばWhat does your father do?
という問いに
対する答えとして上の文が使われた場合です。このときは,My fatherは旧情報,a lawyerが
新情報になります。
A文全体が新情報を提示する場合。たとえば会話の切り出しとして「親父は弁護士をして
いるんだけど…」と言うような場合です。この場合の情報構造は次のように説明できます。
(1) My father is ...
という形から,聞き手は「この人は自分の父親について語ろうとしている
のだな」と想像します。主語(My father)が「話題」を提供する働きをしているわけです。
(2) My father isまでを聞いた時点で,My fatherは聞き手にとって旧情報になります。
「うん,君はお父さんのことを話したいんだね。それで,お父さんはどんな人なの?」と,
次に出てくるはずの新情報をキャッチしようとする姿勢になります。
つまり(2)の場合も,結果的には「旧情報→新情報」という流れが生じているわけです。
「だから何なんだ?」と思われるかもしれませんが,情報構造という概念が英文法を理解する
上でいかに大切であるかは,このコーナーの記事を読むうちにわかってくるはずです。