前回までで「時制」の話を終え,次は「態」を取り上げますが,その前に重要な文法概念の
1つである「無標」「有標」の説明をしておきます。(大学レベルの文法知識です)
ざっくり言えば,次のようになります。
・無標 =
メジャーな方,一般的なもの
・有標 =
マイナーな方,例外的なもの
日常的なたとえをするなら,広島生まれならカープファンが「無標」であり,広島で生まれ
育っていながら巨人ファンの人は「有標」だということになります。
このように「無標」と「有標」とは対立関係にあります。一般に,単純な(予測がつく)ものは
無標,複雑な(予測がつきにくい)ものは有標です。たとえば現在形と過去形で言えば,
現在形が無標,過去形は(不規則変化があるので)有標です。
このあとの説明の中で,無標・有標という言葉はしばしば出てきます。
先に予告をしておくと,たとえば次のようなものです。
(1) 無標の強勢と有標の強勢
(a) Jack loves Bétty.
〈無標の強勢〉
(ジャックが愛しているのはベティだ)
(b) Jáck loves
Betty.〈有標の強勢〉
(ベティを愛しているのはジャックだ)
英語の情報構造は「旧−新」の並びが普通であり,Jack
loves Betty. という文は
「ジャックが誰を愛しているかと言えばそれはベティだ」,つまり(a)の意味に解釈
するのが普通です。このとき新情報はBettyなので,文末のBettyを強く読みます。
この(a)の強勢が無標の強勢です。一方(b)のようにJackを強く読んでそれを
新情報にすることもできます。(b)は特殊な読み方であり,有標の強勢です。
(2) 副詞の無標の位置と有標の位置
(a) I stayed at home yesterday.
(きのうは家にいた) 〈無標〉
(b) Yesterday I stayed at home.
(きのうは家にいた) 〈有標〉
時を表す副詞は,文末に置くのが普通です。つまり(a)のyesterdayは「無標の位置」
に置かれています。一方(b)のyesterdayは有標の(=例外的な)位置にあります。
このように文中の要素が有標の位置に置かれるのは,何らかの理由があります。
(b)はたとえば「毎週日曜日には外出するのだが,きのう(の日曜日)だけは家に
いた」のような状況が考えられます。(きのうが例外であることを示すために,
yesterday には強勢を置きます)
(3) 無標の形容詞と有標の形容詞
(a) How big is his house?
(彼の家はどのくらいの大きさですか) 〈無標〉
(b) How small is his house?
(彼の家はどのくらい小さいのですか) 〈有標〉
(a)のbigは「大きい」ではなく「〜の大きさだ」という〈尺度〉の意味を表します。
つまり(a)の質問をする人は,彼の家が「大きい」とも「小さい」とも考えておらず,
単に大きさを尋ねているだけです。一方(b)の質問をする人は,「彼の家は
小さい」という前提で話しています。この対比から,big
は「大きい」の意味に
加えて「〜の大きさだ」というより一般的な意味を表せることがわかります。
よって big と small との対立においては,big が無標,small
が有標です。
(この説明は「比較」の項目とも深くかかわっています)
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