第4文型(SVOO)の文からは,受動態を使った文が2種類作れます。
ここで問題となるのは,「能動態と受動態のどちらを使うのが自然か」ということです。
(a) My uncle gave me a bike.
(おじは私に自転車をくれた)
この文では(a
のついている)下線部が新情報です。文末に新情報があるので,
この文を受動態を使って表現し直すことには必然性がありません。
理屈の上では次の2つの文が可能ではあります。
(b) I was given a bike by my uncle.
(私はおじから自転車をもらった)
(c) A bike was given (to) me by my
uncle.
(自転車がおじから私に与えられた)
この2つを比べると,(c)は新情報が文頭と文末にあるので非常に不自然に響きます。
(b)は問題ありません。新情報が2つありますが,聞き手の頭の中にはこれらが順に
入ってくるので違和感はありません。
(a)と(b)は自然さの点ではどちらもOKですが,伝えたい意味は違います。(a)は「私の
おじが何をしたか」を,(b)は「私に何が起きたか」を伝える文です。
文法参考書にはしばしば「第4文型の受動態では,人を主語にする文の方が普通だ」
と書かれていますが,その記述はミスリーディングです。
たとえば,英語教師なら誰でも知っている,マイケル・スワンという英文法学者がいます。
その代表作である Practical English Usage
に,次の説明があります。
(1) Her sister was given the car.
(彼女の姉はその車を与えられた)
(2) The car was given to her sister.
(その車は彼女の姉に与えられた)
Most often in such cases the person becomes the subject of the passive verb.
(このような場合,人が受動態の主語となる場合が最も多い)
【参考】第4文型の受動態で〈物〉が主語のときは,(2)のto
her sister のように,文末の〈人〉の
前に前置詞を置きます。
この説明を読んだ人は,「(1)の方が(2)よりもよく使われる」と誤解しかねません。
スワンがこの本を書いた当時の英文法には,情報構造という視点が欠けていました。
今日では,情報構造の観点からのより明確な説明が可能です。
上の例では,「her sister が新情報,the
car が旧情報」なら(2)の方が自然です。
(1)は the car が新情報なら自然ですが,一般に〈the+名詞〉は旧情報を表すので,
少し特殊な状況を想定する必要があります。たとえば父親が死んで,兄弟姉妹が
遺産相続の協議をしているような場面で,「リンダは土地の一部を与えられた。
そして彼女の姉は車を与えられた」というような。この場合は「車」と言えばどの車を
指すかはお互いにわかっているので,the car
で問題ありません。
同時に「他のものではなく車を」という文脈なので the
car が新情報になります。
より普通の状況で使われる文を並べて見ておきます。下線部が新情報です。
・ Linda was given a car [△the
car]. (リンダは車をもらった)
*文末には新情報を置くので,a car の方が自然。the
car だと普通は Linda を
強く読み(有標の強勢),Linda
の方が新情報になるので不自然です。
・The car [△A
car] was given to Linda.
((その)車はリンダに与えられた)
*主語が The car なら Linda
が新情報で自然。主語が A car だとこれが新情報
になってしまうので,上の文(Linda was given a car.)の方が自然です。
さらに,次の例も見ておきましょう。無標の強勢では下線部が新情報です。
○(1) John gave the bag to
Mary. (ジョンはメアリにそのバッグをあげた)
△(2) John
gave Mary the bag.
(ジョンはメアリにそのバッグをあげた)
△(3) John
gave a bag to Mary.
(ジョンはメアリにバッグをあげた)
○(4) John
gave Mary a bag.
(ジョンはメアリにバッグをあげた)
(1)と(2),および(3)と(4)の対比から,新情報を文末に置く文の方が自然だと言えます。
これらの文を受動態にしてみましょう。(能動態の前置詞の後ろの語を受動態の主語に
することはできません。たとえば(1)からは,the bag
を主語にした受動態しか作れません)
(1) → △
The bag was given to Mary by John.
*Mary と John
の両方が新情報に響くので不自然。
(2) → ○ Mary
was given the bag by John.
△
The bag was given to Mary by John. *(1)と同じ。
(3) → △ A
bag was gave to Mary by John.
*新情報が文の最初と最後にあるので不自然。
(4) → ○ Mary
was given a bag by John.
△ A
bag was given to Mary by John.
*新情報が文の最初と最後にあるので不自然。
上の能動態と受動態を比べてみると,両方が○の組み合わせは(4)(の片方)だけである
ことがわかります。それは次の文です。
○(4) John
gave Mary a bag.
(ジョンはメアリにバッグをあげた)
→ Mary was
given a bag by John. (メアリはジョンからバッグをもらった)
このように,第4文型の能動態を「by+動作主」を含む受動態で言い換えようとすると,
冠詞の扱いに相当の注意が必要です。文法問題集などで機械的なドリル問題を解く際にも,
このような視点で考えると英語感覚を磨くのに役立ちます。
第5文型(SVOC)からは,Oを主語にして受動態を続ける文が作れます。
・We call this dog Shiro.
(私たちはこの犬をシロと呼ぶ)
S
V O
C
→ This dog is called Shiro.
(この犬はシロと呼ばれる)
S
一般形としては,次のように覚えておくといいでしょう。
〈能動態〉 S+V+O+α
〈受動態〉 能動態のO+be動詞+過去分詞+α(+能動態のS)
このように,能動態のOの後ろにある要素(α)は,何であっても受動態の後ろに置きます。
文章中などで最もよく見かけるのは,〈S+V+O+to
do〉の形を受動態にしたものです。
・You are
not allowed to
smoke here. (ここは禁煙です)
この文の直訳は「あなたはここでたばこをすうのを許されていない」。
〈allow+O+to do〉は「Oが〜するのを許す」という意味です。
能動態を使えば,次のように表現できます。
・They don't allow you to
smoke here.
(彼らはあなたがここでたばこをすうのを許さない)
この文の they
は,その場所の管理者(当局)を表す便宜上の主語です。このように
主語が特定の誰かを指すのではない語の場合,受動態を使う方が自然な文になります。
また,〈V+A+前置詞+B〉の形からAに当たる目的語を主語にして受動態を続けると,
〈A+be動詞+過去分詞+前置詞+B〉という形ができます。
・ This photo reminds
me of my school days.
(この写真は私に学生時代を思い出させる)
→ ・ I'm
reminded of my school days by this
photo.
(私はこの写真によって学生時代を思い出させられる)
大学入試でよく問われる知識に,次のようなものがあります。
(a) The boss makes
us work overtime every day. 〈能動態〉
(上司は私たちを毎日残業させる)
→ (b) We are made to
work overtime every day by the boss. 〈受動態〉
(私たちは上司によって毎日残業させられる)
〈make+O+動詞の原形〉は「Oに〜させる」という〈使役〉の意味を表します。
このOを主語にして受動態を続けると「Oは〜させられる」という意味を表すことになります。
このとき,動詞の原形の前に to
を置くというルールがあります。
ただし実際のコミュニケーションでは,(b)のような受動態はあまり使いません。
made を forced や told
に置き換えて表現するのが普通です。
○ We are
forced to
work overtime every day. (より自然な文)
つまり,
force+O+to do =
Oに〜することを強制する,Oにむりやり〜させる
tell+O+to do =
Oに〜しなさいと言う
この形のOを主語にして受動態を続けた文を作るわけです。
もっとも上の(a)(b)を比べると(a)の方がシンプルであり,使用頻度も高いでしょう。
○の文に by the boss
が欠けている点にも注意してください。「残業させられる」と言えば
それを命じるのは上司に決まっていますから,わざわざ「上司によって」という情報を加える
必要はありません。実践的な英語の表現力を養う上では,このような視点も重要です。