〈be+過去分詞〉の後ろに,by
以外の前置詞が置かれることがあります。
(a) The desk is covered with
dust. (机はほこりでおおわれている)
(b) Wine is made from
grapes. (ワインはぶどうから作られる)
このようなものは中学や高校の英語では一種の熟語として暗記させられますが,
この2つの文には本質的な違いがあります。それが何かわかりますか?
両者の違いは,対応する能動態を考えれば明らかになります。
(a') Dust covers the desk.
(ほこりが机をおおっている)
(b') People make wine from grapes.
(人々はぶどうからワインを作る)
つまり (a') の dust は動作主であり,with は by
の代わりに使われたものです。
したがって,by を使ってもかまいません。
○ (a) The
desk is covered by
dust. (机はほこりによっておおわれている)
しかし(b)では能動態でも from を使うので,byで言い換えることはできません。
× (b) Wine is
made by grapes.
(ワインはぶどうによって作られる)
つまり(b)ではワインを作る主体は人間であり,ぶどうがワインを作るわけではありません。
このように,受動態の後ろに by
以外の前置詞が置かれている場合,対応する能動態が
あれば,前置詞は by を使うこともできます。
(c1) I was
surprised at
the news.(私はそのニュースを聞いて驚いた)
(c2) I was surprised by
the news.(私はそのニュースによって驚いた)
← (c3) The news surprised me.(そのニュースは私を驚かせた)
〈能動態〉
(c1)の surprised
は,「驚いている」という意味の形容詞と考えてよいでしょう。一方(c2)の
surprised
には「驚かされて」という受動の意味が残っているので,受動態に準じて
by を
使います。中学では「be surprised の後ろの前置詞は by
でなく at を使う」という教え方を
する教師もいますが,(c2)は正しい文です。
もう1つ例を挙げましょう。
○(d1) The singer
is known to young people.(その歌手は若者に知られている)
?(d2) The singer
is known by young people.(その歌手は若者に知られている)
中学生は(d1)のように習います。では(d2)は誤りでしょうか?
これについては,「オーレックス英和辞典」(旺文社)に次のように説明されています。
この辞書には英米在住の100余名のネイティブを対象として「この表現を使いますか」と
尋ねた調査の結果がたくさん載っていますが,その中に次のような調査があります。
@ She is known to everyone
here.
A She is known by everyone
here.
→ @を使う(13%),Aを使う(32%),両方使う(42%),どちらも使わない(13%)
つまり,実際には be known to よりも be known by
を使う人の方が多いのです。
では,たとえば I was surprised の後ろには,at・by以外の前置詞は置けないのでしょうか?
答えはノーです。感情を表す過去分詞には,surprised
のほかに excited(興奮している),
pleased(喜んでいる),disappointed(失望している)など多くの語がありますが,これらの
語は形容詞に近いものと感じられるために,at(〜を見て[聞いて]),about/over/with
(〜について)などのさまざまな前置詞と自由に結びつくことができます。
たとえば「〜に満足している」は学校英語では be
satisfied with だと教わりますが,
with の代わりに by や about や at
を使うこともあります。当然のことですが,使う
前置詞に応じて文のニュアンスは違ってきます。
(e1) I was satisfied with the result.
(私はその結果に関して満足した)
(e2) I was satisfied at the result.
(私はその結果を見て満足した)
したがって,これらの表現を「熟語」として覚える必要はありません。
概して言えば,ネイティブは日本人が思っているほど前置詞を厳密には使い分けません。
典型的な例が be different from
〜(〜とは異なる)です。これも「オーレックス英和辞典」
から引用しておきます。
(f) Your ideas are different ( from / than /
to ) mine.
(君の考えは私の考えとは違う)
この文の3つの前置詞の使用率は次のとおりです。
〈アメリカ人〉 from(98%),than(83%),to(5%)
〈イギリス人〉 from(93%),than(32%),to(90%)
この結果から,アメリカでは be
different than,イギリスでは be different to が普通に
使われることがわかります。
以上の説明から,「by
以外の前置詞を使う受動態」の要点をまとめると,次のようになります。
(1)
過去分詞が「〜される」の意味を残しているときは,by
を使ってもよい。
(2)
前置詞の後ろにある語が動作主(=対応する能動態の主語)でないときは,byは使えない。
(3)
過去分詞が(感情を表す)形容詞と感じられる場合は,さまざまな前置詞が使える。
上の説明からもわかるとおり,分詞は形容詞としても使われます。
現在分詞と形容詞の境界線は明確であり,たとえば
exciting(わくわくする)は純粋な形容詞です。
一方,過去分詞の場合は,形容詞化の度合いに違いがあります。
それを判断する1つの基準は,very と much
のどちらで修飾するかを考えることです。
形容詞は very
で,過去分詞は much で修飾します。
(a) I was much [×very]
praised. (私はとてもほめられた)
(b) I was very [much]
surprised. (私はとても驚いた)
(c) I was very [×much]
tired. (私はとても疲れた)
この例の場合,(a)の praised は過去分詞,(c)のtired
は形容詞であり,(b)の surprised は
その中間の性質を持つことがわかります。だから
be surprised by も be surprised at の両方の
言い方が可能になるわけです(surprisedは後ろがbyなら過去分詞,atなら形容詞)。
日本語では「〜する[している]」の意味なのに,英語では受動態で表す場合があります。
・She was married
to an lawyer.
(彼女は弁護士と結婚した[結婚していた])
※「結婚した」の意味を明確にしたいときは was
の代わりに got を使います。
この例では,marry
はもともと「(娘を)嫁がせる」という意味の他動詞でした。
だから上の文の原義は「彼女は弁護士に嫁がされた」ですが,今日では
married は
「結婚している,既婚の」という意味の形容詞として使われます。
同様に I was injured.(私はけがをした)を受動態で表現するのも,injure
が「〜を傷つける」
という意味の他動詞だからです。I
was surprised.(私は驚いた)など感情を表す表現も
すべて同様です(surprise=〜を驚かせる)。
〈能動態〉 This book interests
me. (この本は私の興味を引く)
〈受動態〉 I'm interested
in this book. (私はこの本に興味を引かれている)
※この例では,be interested by
とは普通言いませんん。interested(興味がある)が
純粋な形容詞と感じられるからです。
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