次の問いは,2009年度にある私立大学で出題された問いです。
(問) 与えられた語句を並べ替えて英文を完成し,( * )に入る語句の番号を答えよ。
ただし不要なものが1つ含まれている。
日本人は,昔写真を撮られることを恐れていた。
Japanese people ( ) ( * ) afraid ( ) ( * ) (
) photos.
@ be A taken B used to C being
D of E was
出題者の想定した正解は,(Japanese people) used to be (afraid) of being taken photos.
でしょう。
しかし,この英文は文法的に間違っています。
日本人によく見られる誤りですが,どう直せばよいでしょうか。
※この「大人の英文法」では,しばしば入試問題から「悪問」を引用しています。
悪問にもいろんな
パターンがありますが,この例は完全に出題者の英語力不足によるものです。
たとえば「私は写真を撮られた」を,I was taken a photo.
と表現することはできません。
これだと対応する能動態が They took me a photo.
となりますが,この文は第4文型(SVOO)です。
「私の写真を撮る」は take a photo of me であり,take me a
photo とは言えません。
したがって,この誤った能動態に対応する受動態(I
was taken a photo.)も誤りということになります。
「私は写真を撮られた」の意味を表す正しい形は,次のとおりです。
I had a photo taken.
S
V
O C
高校の英文法では,「have+O+過去分詞=Oを〜される,Oを〜してもらう」と習います。
原義に立ち返って言えば,「私は[写真が(a
photo)撮られる(taken)という事実を持った(had)」と
考えることができます。くだけた表現では had
の代わりに got も使います。
したがって,最初に示した入試問題の「日本人は,昔写真を撮られることを恐れていた」という
日本語の正しい英訳は,Japanese people used to be afraid of having their photos taken.
となります。
実用的な見地から言えば,次のように覚えておくとよいでしょう。
「自分の持ち物を〜される」は,〈have+持ち物+過去分詞〉で表す。
この覚え方はオールマイティではありませんが,多くの場合に当てはまります。
その典型例が次の文です。
・ I had my wallet stolen
on the train. (電車の中で財布を盗まれた)
※ I was stolen my wallet on the train.
は誤り。
【参考】 purse
はアメリカ英語では女性用のハンドバッグのこと。札入れは
wallet です。
・ I had my driver's license
suspended.
(免許を一時停止された[免停になった])
ただし上の形は,「〜される」〈被害〉よりも「〜してもらう」〈使役〉の意味で使う例の方が
多いことも指摘しておきます。
・ I had my hair cut.
= I had a haircut. (髪を切ってもらった)
・ I had my car fixed.
(車を修理してもらった)
・ I had my driver's license
renewed. (免許を更新してもらった)
両者の意味は「強勢の位置によって区別できる」とする辞書もあります。
たとえば「ジーニアス英和辞典」(第6版)の記述に寄れば,上の文の強勢は次のようになります。
・ I had my driver's license suspénded.
・ I hád
my driver's license renewed.
つまり「〜される」の意味では過去分詞を,「〜してもらう」の意味ではhaveを強く読むということ。
しかし,「ウィズダム英和辞典」(第4版)では,どちらの場合も過去分詞を強く読むとしています。
ウィズダムも第3版まではジーニアスと同じ説明だったのですが,第4版で変わりました。
筆者が尋ねた2人のインフォーマントは,ウィズダムの説明に同意します。
つまり,I
had my drivers license renéwed.
のように過去分詞に強勢を置く,と彼らは言います。
なお,「私は髪を切ってもらった」は,I
had my hair cut. より I got [had] a haircut. と言う方が普通です。
この説明は「スーパーアンカー和英辞典」に載っていますが,コーパス(Netspeakなど)で確認することもできます。
次の3つの文を比べてみましょう。
(a) I
had my wallet stolen. (私は財布を盗まれた)
(b) My
wallet was stolen.
(私の財布が盗まれた)
(c) Someone
stole my wallet. (誰かが私の財布を盗んだ)
これらの文が表す事実は同じですが,話し手の関心は異なります。
黄色い部分(主語)が主題ですから,(a)は「私に何が起こったか」を,(b)は
「私の財布がどうなったか」を,(c)は「誰かが何をしたか」を語る文です。
たとえば,(a)や(b)の話し手は「誰が盗んだか」を問題にはしていません。
一方(c)には,「私の財布を盗んだやつがいる。けしからん」という響きが
感じられます。
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