ここからは,仮定法を取り扱います。
まず,一般的な話から始めましょう。005で述べた「法」についての説明を再掲します。
法とは,話し手の気分を伝えるためのV(述語動詞)の形です。
直説法 =
ことがらを事実として述べる形
仮定法 =
ことがらを仮定や願望として述べる形
直説法の文が事実に対する話し手のニュートラルな気分を表すのに対して,仮定法を使った
文にはしばしば話し手の願望が含まれます。
・If it were not raining now, we could
play baseball.
(もし今雨が降っていなければ,私たちは野球ができるのに)
この文では,下線部の動詞の形(were
と could play)が「仮定法」(というVの形)です。
この文は,「実際には今は雨が降っているので野球ができなくて残念だ」という話し手の気分を
表しています。ここまでは,学校で普通に習う内容です。
学校でこのように習ったほとんどの人(100人中99人くらい?)は,「仮定法は〈事実の反対〉
を表す場合にしか使えない」と誤解します。それによって,実際のコミュニケーションの中で
仮定法をうまく使えない(あるいはなぜ仮定法が使われているのかが理解できない)という
ケースがしばしば起こります。
次の例文は,「アトラス総合英語」に載せたものです。
(a) If you told
the truth to your mother, she might
be shocked.
(もしきみが真実を話したら,お母さんはショックを受けるかもしれない)
下線部は仮定法過去です。この例は,次の2つの重要な事実を示しています。
(1)未来の内容を伝えるときに仮定法過去を使うことがある。
(2)仮定法過去は「事実の反対」を表すとは限らない。
「仮定法過去は現在の事実の反対を表す」という定義は,(a)には当てはまりません。
この文は「実際にはきみは真実を話さないだろうから,お母さんはショックを受けない」という
意味ではありません。
では,上の例で仮定法過去が使われている理由を,次の文と比べて説明してみましょう。
(b) If you tell
the truth to your mother, she may
be shocked.
この文の下線部は直説法です。
【参考】 mayの代わりにmightも使えますが,話が混乱するのでここではmayにしています。
(b)の話し手は,「君が真実を話す可能性」と「真実を話さない可能性」とを同等と考えています。
一方(a)の話し手は「君が真実を話す可能性」を低く見積もっており,「君はたぶん真実を
話さないだろうが,もし話したとしたら…」というニュアンスで仮定法過去を使っています。
(a)には「あなたこれから先の行動を私が推測するのは僭越なのですが」という,話し手の
控えめな気持ちがこめられています。しかし可能性をゼロと見積もっているのではない点に
注意が必要です。「アトラス」に収録した別の例も挙げておきます。
(c) If he studied
harder, he might pass
the test.
(もっと熱心に勉強すれば,彼はテストに合格するかもしれない)
この文には次の2つの解釈の可能性があります。
@話し手は「実際には彼は熱心に勉強しないだろうから,テストに合格しないだろう」と
考えている。(学校で習う一般的な仮定法過去の解釈)
A話し手は「彼は(熱心に勉強することによって)テストに合格するかもしれない」と考えて
いる。直説法で If he studies harder, he may
pass the test. とも言えるが,仮定法過去を
使う方が控えめな推量になる。
【参考】「開放条件」「却下[仮定]条件」という文法用語があります。開放条件とは「可能性が開かれている」,
つまり「どちらの可能性も(半分ずつ)ある」ような条件のこと。却下条件とは「一方の可能性しかない」
ような条件のこと。一般には,開放条件は直説法,却下条件は仮定法で表されます。
しかし『Q&Aで探る学習英文法解説』(開拓社)p.308には,「仮定法は開放条件も表す」という説明があります。
たとえば(c)は(可能性が開かれているので),仮定法が開放条件を表す例と言えます。
以上の説明からわかるとおり,仮定法過去には「起こりうることを控えめに推量する」と
いう使い方があります。仮定法過去のこの性質は,後述する「助動詞の過去形」の性質
にも深くかかわっています。
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