不定詞の意味上の主語とは,次のようなものを言います。
(a) I want you
to decide now. (私は君に今決めてもらいたい)
この文は「私は君が今決めることを欲する」ということ。不定詞(to
decide)が表す動作の
主体は I ではなく you です。したがって,you が to decide
の意味上の主語です。
ここで,わざわざ「意味上の主語」と言うのはなぜでしょうか。
それは,この文の you が文全体の主語(S)ではないからです。S
はもちろん I ですね。
このように「準動詞(不定詞・動名詞・分詞)が表す動作や状態の主体≠S(文全体の主語)」
のときは,前者を意味上の主語として準動詞の直前に置きます。逆に,両者がイコールの
ときは,準動詞の前には何も置きません。言い換えれば,準動詞の前に意味上の主語が
ないときは,準動詞が表す動作や状態の主体はSに一致します。
(b) I want to decide
now. (私は今決めたい)
この文では不定詞(to decide)の直前に意味上の主語がないので,「決める」主体は
S,
つまり「私」だと解釈されます。
不定詞の直前に置かれる意味上の主語には,次の3つのタイプがあります。
@ 目的格の名詞・代名詞
(上の例文(a)のyouがそれに当たります)
A for+目的格の名詞・代名詞
B of+目的格の名詞・代名詞
Bについては069で取り上げます。ここではAの例をいくつか挙げておきます。
(c) It is necessary for you
to practice harder.
(君はもっと熱心に練習する必要がある)
〈意味上の主語+名詞的用法の不定詞〉の例。次の2つの解釈があります。
@ it(形式主語)= to practice harder
という解釈 : この場合の訳語は「もっと
熱心に練習することが君にとって必要だ」です。
A it(形式主語)= for you to practice
harder という解釈 : この場合の訳語は
「君がもっと熱心に練習することが必要だ」です。
【参考】
したがって,文法的には次のどちらの文も可能です。(形としては不自然ですが)
@ → To practice harder is necessary for
you.
A → For you to practice
harder is necessary.
(d) There are many reasons for young
people to change jobs.
(若者が転職するのには多くの理由がある)
〈意味上の主語+形容詞的用法の不定詞〉の例。for
以下は「若者が転職する
(ための)」で,その全体が前の many
reasons を修飾しています。
(e) This English book is easy enough for
beginners to read.
(この英語の本は初心者でも読めるくらい易しい)
〈意味上の主語+副詞的用法の不定詞〉の例。for
以下は easy (enough) を
修飾しています。
余談ですが,「このカレーは辛すぎて私には食べられない」は,英語でどのように
表現すればいいでしょうか。「英作文のためのやさしい英文法」(岩波ジュニア新書)
にも似たような記事を書きましたが,ちょっと考えてみてください。
これが学校のテストの問いなら,出題者は次のどちらかを正解と考えているでしょう。
(1) This curry is too hot for me to eat.
(2) This curry is so hot that I can't eat
it.
これらはもちろん正しい文ですが,どちらかと言えば(1)がベターです。so
〜 that ...
はやや固い表現であり,会話では that
を省略して This curry is so hot I can't eat it.
のように言う方が普通です。
【参考】 「(2)では文末に it
が必要だが(1)の文末にはitを置かない」という点が大事だと学校では教えます。
確かにそのとおりですが,私はこのようなことは瑣末な問題だと思います。(1)で文末に
it をつけても,
相手に誤解されることはありません。
では,ベストアンサーを示します。「このカレーは辛すぎて私には食べられない」という
内容を英語で表現したいとき,皆さんに最初に思い浮かべてほしいのは次の文です。
(3) This curry is too hot for me.
理由は説明するまでもないと思いますが,カレーは食べるものに決まっていますから,
「このカレーには私には辛すぎる」で十分であり,「私が食べるには」とわざわざ言う
必要はありません。もちろん(1)を使ってもかまわないのですが,英語を話すときは
できるだけシンプルに表現するよう心がける(言わなくてもいいことは省く)ことが
表現力を高めるための重要なポイントです。
「大人の英文法」のトップへ