最近の英和辞典は至れり尽せりで,単語だけでなく文法や語法の情報も豊富です。
「ジーニアス英和辞典」の第4版(俗にG4と言います)を持っている方は,p.1727の
seem
の項を開いてみてください。そこに「主語繰り上げ構文」という囲み記事があり,
次の例が示されています。
(1) It seems
that Bob is a nice guy. (ボブはいいやつだと思われる)
(2) Bob seems
to be a nice guy. (ボブはいいやつのように思われる)
(1)の文中の Bob は that節中の主語ですが,(2)では文全体の主語になっています。
この(2)のような文が「主語繰り上げ構文」です。
【参考】(1)と(2)の違いについて,G4では次のように説明されています。
(1)では「ボブはいいやつである」という事柄全体が主題であるのに対して,(2)は主題Bobに
ついて言えば「いいやつである」と思われているということで,Bobが主題である。
【参考】 (1)のItが形式主語であるかどうかについては諸説があり,「状況のit」と考える立場もあります。
主語繰り上げ構文をとる主な動詞・形容詞として,G4には次のような語が挙げられています。
appear/seem(〜のように思われる),chance/happen(たまたま〜する),
turn out(〜だとわかる),be
certain(確実だ),be
fortunate/lucky(幸運だ),
be (un)likely(〜しそうだ[しそうにない])
これらのうち,日常的な利用価値が特に高いのは
appear/seem と be (un)likely でしょう。
(a) It's likely (that) he
will pass the test.
(b) He's likely to pass
the test.
(c) He'll (very) likely
pass the test.
これらは全部「彼はテストに合格しそうだ」の意味で,(b)が主語繰り上げ構文,(c)は
likely を「たぶん」の意味の副詞として使っています。
また,appear は seem と似た意味ですが,seem
は主に主観的な判断を,appear は
客観的な事実を述べるのに使います。
・She appears [seems]
(to be) angry. (彼女は怒っているみたいだ)
*appearを使うと「彼女の様子から判断して怒っているようだ」というニュアンス。
「彼女は何となく怒っている感じがする」と言いたいときはseemを使います。
【参考】 to beは省略可能。ただし to be
の後ろに very
で修飾できない(非段階的な)形容詞や名詞が
くるときは
to be を省略しません。
・That man appears to be a doctor.
(あの男性は医者らしい)
会話での利用価値という観点から言えば,It seems
[appears] (to me) that 〜 (私には
〜のように思われる)で文を始めることによって,主張を控えめに言うことができます。
・It seems [appears] (to me)
that the boss is angry.
(上司は怒っているように(私には)思えます)
英作文の観点から言えば,主語繰り上げ構文では下の(3)のような間違いをしないよう
注意が必要です。
(1)
彼は会社の近くに住んでいるらしい。 → ○
He seems to live
near the office.
(2) 彼はたばこをすうらしい。 → ○
He seems to smoke.
(3) 彼は引っ越すらしい。 → ×
He seems to move.
(1)の live
のように状態動詞を置くと,「現在〜の状態であるようだ」という意味を表します。
(2)の smoke
のように動作動詞を置くと,「現在〜の習慣を持っているようだ」となります。
つまり(1)は It seems that he lives near the office.
の意味であり,(2)は It seems that
he smokes. の意味です。
ところが(3)は誤りです。It seems that he moves.
と言い換えてみればわかるとおり,
He seems to move. は(2)と同じ理屈で「彼は引っ越す習慣を持っているらしい」という
意味には解釈できますが,未来のことを推測するのに〈seem+to do〉の形を使う
ことはできません。次のように言うことは可能です。
○ He seems
to be moving. / He seems to be
going to move.
(彼は引っ越すらしい)