英文法では
who も what
も「関係代名詞」と言いますが,両者の働きはかなり違っています。
(a)
He employed a secretary who could spoke
Chinese.
形容詞節
(彼は中国語を話せる秘書を雇った)
(b)
I can't believe what he said. (≒I can't believe the
thing that he said.)
名詞節
(私は彼が言ったことを信じられない)
(a)の下線部は,先行詞(secretary)を修飾する形容詞節です。
一方,(b)の下線部は(believeの目的語となる)名詞節です。
このように関係代名詞のwhatの基本的な働きは,「〜すること[もの]」という意味の名詞節を作ることです。
また,関係詞と疑問詞はもともと同じものだったので,どちらの用法かがあいまいな場合もあります。
(c)
I don't remember what he said.
(@私は彼が言ったことを覚えていない/A私は彼が何を言ったかと覚えていない)
(c)では,what
を関係代名詞と考えれば@,疑問代名詞と考えればAの解釈になります。
((b)のwhatは疑問代名詞と考えると意味が不自然なので,関係代名詞です)
(b)のように,関係代名詞の
what は一般に the thing(s) which で言い換えられますが,
その言い換えが一見成り立たないように思えるケースがあります。
(d)
We waited for what seemed to be a long time.
(私たちは長い時間に思えるほど待った)
(e)
The saint was born in what is now Scotland.
(その聖人は現在のスコットランド(である地)で生まれた)
(d)(e)のwhatは,John
isn't what he used to be.(ジョンは以前の彼ではない)などのwhatと同じ使い方です。
これらの例では,(d)は
what=the time that,(e)は what=the place that
のように(一見)感じられますね。
このようなwhatはしばしば前置詞の後ろに現れます。
ここでは,英語の
thing は日本語の「もの」「こと」よりも意味が広い,と考えることができます。
「もの」という日本語は物体(object)を意味するように響きます。
一方,(d)の
what が the thing that で置き換えられると考えた場合,その
thing は抽象的な(形のない)
「もの」であり,time
もそうした thing に含まれることになります。同様に(e)も,place
は thing の一種だ
と考えればよいわけです。次の例も参考にしてください。
(f)
What [×Where] is the capital of France?
(フランスの首都はどこですか)
この文の答えは
It's Paris.
であり,「パリ」は名詞だから,それを尋ねるには疑問代名詞の
what を
使わねばなりません(where
は副詞だから,名詞を尋ねる質問には使えません)。
(f)ではParis「場所」でなく「もの」としてとらえ,whatで尋ねています。
同じように(e)のwhatも「場所」ではなく「もの」を意識した表現だと考えれば,(e)でも
what is now
Scotland = the thing that is now Scotland
という置き換えが成り立ちます。
また,whatを使った次のような慣用表現も,what=the
thing(s) that の延長で考えることができます。
(g)
My brother works for what is called a "black company"?
(兄はいわゆる「ブラック企業」に勤めている)
※下線部の直訳=ブラック企業と呼ばれているもの
(h)
It is often said that rice is to Asians what wheat is to Europeans.
(米とアジア人との関係は小麦とヨーロッパ人との関係に等しいとよく言われる)
※下線部の直訳=米は,アジア人にとって,小麦がヨーロッパ人にとってそうであるものだ
rice is X to
Asians(米はアジア人にとってXだ)のXに当たるものがwhat
〜 Europenas。
to Asians
を X の前に出した形です。(1996センター追試験より)
(i)
We lost our way. What was worse, it began to rain.
副詞節
(私たちは道に迷った。さらに悪いことに,雨が降り出した)
下線部は副詞節ですが,この文は次の文から生まれた形と考えられます。
What
was worse was that it began to rain.(さらに悪かったものは,雨が降り出したということだった)
S
V
C
このように名詞的な働きをする語句が短縮されて副詞化する現象は,英語にはしばしば見られます。
Needless
to say, honesty doesn't always pay.(言うまでもなく,正直が常に割に合うとは限らない)
下線部がもともと
It is needless to say that
の形だったと推測するのは難しくないでしょう。
蛇足ですが,(g)の
black company
は和製英語です。ネイティブに聞いたところ,これだと
「黒人の会社」のように響くそうです。では「ブラック企業」の適切な英訳は?と尋ねると,
そのネイティブは
unethical company(倫理に反する会社)と答えました。
では immoral
company(不道徳な会社)ならどうか?と聞いたところ,immoral
は普通は
行動(behavior)について使う言葉なので不適切だ,とのことでした。