2017/1/22 up

大人の英文法125−ネクサス 

 

デンマークの言語学者イエスペルセンは,文中の語群の構造を次の2つに分けて説明しようとしました。

・ネクサス(Nexus)=〈主語+述語〉の関係を含む語群

・ジャンクション(Junction)=〈修飾語+被修飾語〉の関係を含む語群

たとえば a cute cat はジャンクション,The cat is cute. はネクサスです。

ただし一般にネクサスという言葉は,「文の一部として働く〈S+V〉の関係を含む語群」の意味で使われます。

(a) I'm looking forward to John coming to see me.

    (ジョンが会いに来てくれるのを楽しみにしている)

この文では,下線部がネクサスです。John coming に「ジョンが来る」という〈S+V〉の関係が含まれるからです。

また学校英語との対応で言えば,SVOCのOCはすべてネクサスです。

(b) I'll make you happy.    (私はあなたを幸せにするつもりです)

*SVOCの文で,下線部がネクサス。O(you)とC(happy)との間に You are happy. の関係が含まれる。

(c) I want John to come to see me.  (私はジョンに会いに来てほしい)

*SVOCの文で,下線部がネクサス。O(John)とC(to come)との間に John comes. の関係が含まれる。

 

イエスペルセンが唱えたネクサスの概念は,生成文法の理論形成に大きな影響を与えました。

「英語のしくみ」でも触れましたが,次の例を見てください。

(d) I want to succeed. (私は成功したい)

(e) I want John to succeed. (私はジョンに成功してもらいたい)

学校英語では「(d)はSVO,(e)はSVOC」と教えるのが普通ですが,ネクサスの考え方を適用すると

どちらの文も(基本構造は)SVOだと考えられます。生成文法では,これらの文を次のように説明します。

(d') I want O[I succeed]. (私は[私が成功すること]を欲する)

(e') I want O[John succeed]. (私は[ジョンが成功すること]を欲する)

※これは便宜上の説明です。生成文法にはO(目的語)という概念はありません。

2つの文はこのような同じ基本[深層]構造を持ち,実際に使われる(つまり文として生成される)ときには

(d)(e)のような形として現われる−これが(変形)生成文法の基本的な説明の例です。

ネクサスと関連付けて言うと,(d')(e')の[  ]内には〈主語+述語〉の関係が含まれていますね。

そこでこれらの文の[  ]の部分を,ネクサス目的語と言います。

もう1つ例を挙げます。

(f) I expected John to come. (私はジョンが来ることを期待した)

   S    V        O       C

(g) I told John to come. (私はジョンに来るように言った)

   S  V     O      O

2つの文は,表面的には(生成文法の用語で言えば「表層構造」は)同じように見えますが,

元の形(深層構造)が次のように異なります。

(f') I expected O[John come]. (私は[ジョンが来ること]を期待した)

(g') I told John O[John come]. (私は[ジョンが来ること]をジョンに伝えた)

学校英語に沿って言えば,次のようになります(これも便宜的な説明です)。

(f)は元の形がSVOである(O=ネクサス目的語)。

(g)は元の形がSVOOである(2つ目のO=ネクサス目的語)。

このことは,(f)(g)が次のように言い換えられることからも確認できます。

(f) → I expected that John would come.

       S    V               O

(g) → I told John that he should come.

       S  V    O             O

 

このようにネクサスの概念は生成文法に取り入れられ,英語の文構造の解析に大きな役割を果たしました。

ちなみに生成文法が生まれる以前に主流だった構造主義文法(代表的な学者はホーンビー)では,

(f)と(g)は同じ構造としてグループ分けされていました。表層構造が同じだからです。

生成文法は両者の深層構造の違いを発見することで,構造主義文法を超克したというわけです。

 

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