大人の英文法-132

分詞構文に関する私見

 

(1) 分詞構文の一般的説明に対する疑問

学習文法書の書き手はどんな思考回路で本を書くのか。

私の場合,たとえば「分詞構文」を説明するときは,頭の中でいろんな分詞構文を思い浮かべて,それらを余すところなく文法的に解説しようとします。

そうすると必然的に,英文中に非常によく見られるこんな形も思い浮かびます。

@Garlic, <used in a number of dishes>, may be linked to good health.

(多くの料理に使われるニンニクは,健康の増進と関連があるかもしれない)(センター試験)

ここで,2つの疑問が浮かびます。

A:@の< >は分詞構文なのか?

B:@の< >は形容詞句か?副詞句か?

リーディング系の本は精査していませんが,少なくとも学習文法書には,A・Bの疑問に答えるものはほとんどありません(情報があればお寄せください)。

これは,多くの執筆者が「教えるべき知識はあらかじめ決まっている」と思い込み,@のような頻度の高い文構造が頭の中から抜け落ちているからではないか?  

学校文法では「分詞構文は副詞の働きをし,接続詞を使って言い換えられる」という説明がよく見られます。

その前提で考えると,もし@の< >が分詞構文なら,それは副詞句だということになります。

それは正しいのか?また,接続詞を使って@を言い換えることができるのか?

一方,こんな説明も考えられます。

「@の< >は継続用法の関係詞節と同じものであり,usedの前にwhich isを補って考えることができる

ここでまた疑問が浮かびます。

AGarlic, <which is used in a number of dishes>, may be linked to good health.

この< >は形容詞節・副詞節のどちらなのか?

学校文法によれば,修飾語は基本的に形容詞・副詞のどちらかの働きを持つ。

しかし「継続[非制限]用法の関係詞節」が形容詞節なのか副詞節なのかを,普通の学習文法書は説明していない。

これは文法の説明体系として不完全ではないか?−SKYWARD総合英語(p.178〜)では,この「穴」を埋めようとしました。

 

(2) 形容詞の3用法

@Garlic <used for our pasta> is grown on the local farm.

(当店のパスタに使われるニンニクは,地元の農家で栽培されたものです)

AGarlic, <used in a number of dishes>, may be linked to good health.

(多くの料理に使われるニンニクは,健康の増進と関連があるかもしれない)

@Aは,関係詞節と関連付けて考えるのがわかりやすいと思います。

@' Garlic <which is used for our pasta> is grown on the local farm.(限定用法)

A' Garlic, <which is used in a number of dishes>, may be linked to good health.(継続用法)

そこで,@を「限定用法の分詞句」,Aを「継続用法の分詞句」と考えてはどうか?

SKYWARDでは「継続用法」の代わりに「補足説明用法」という言葉を使い,形容詞の用法を次の3つに分けました。

A:限定用法,B:叙述用法,C:補足説明用法

@@'はA型,AA'はC型の形容詞句・節と考えます。  

上の説明のポイントは,AA'の< >が形容詞の働きを持つという点です。

1語の形容詞にも,限定用法と補足説明用法とがあります(→SKYWARD-p.482/現代英文法講義-pp.473-4)。

BI don’t like scary movies.

このscaryは限定用法で,いろんな映画のうちで「恐い映画」を特定する働きをします。

Bのscaryを取り除くと「私は映画が好きでない」という全く違う意味になります。一方,

CI remember my happy childhood.

このhappyは補足説明用法の形容詞です。

「私の子ども時代」は1つしかなく,「幸せな子ども時代」とそうでない子ども時代があったわけではない。

つまりhappyを省いても文の大意は変わらない。

この「省いても文の大意は変わらない」という点が,補足説明用法の形容詞の特徴です。

@Garlic <used for our pasta> is grown on the local farm.

AGarlic, <used in a number of dishes>, may be linked to good health.

@は< >がないと意味的に成り立ちません(すべてのニンニクが地元の農家で栽培されるわけではないから)。

一方Aの< >は補足説明であり,省いても文は成り立ちます。同じことはCにも言えます。

この説明は,学校文法に「形容詞の補足説明用法」という概念を加えることによって,一般に「関係詞の2用法」と呼ばれているものを分詞構文にも拡張したものです。

 

(3) FOUNDED構文と格式化(仮称)

@<Founded in 1945>, the UN has come to play an essential role in our world today.(センター試験)

このような形を,仮にFOUNDED構文と呼ぶことにします。書き言葉によく見られますが,文法参考書にはほとんど出てきません。

FOUNDED構文が他の分詞構文と違うのは,接続詞による書き換えが難しいことです。

「@の< >は一種の付帯状況と言える。だから普通の分詞構文と同じだ」という説明も成り立つでしょうが,ここでは違う角度から考えます。

結論を先に言うと,私は「@の< >は副詞句ではない」と説明します。

一億人の英文法(p.496)には,FOUNDED構文が出てきます。同書ではこの形の過去分詞句を次のように説明しています。

A 文全体を修飾する。

B 口語ではあまり見られない。

C 格調高く響く。

B・Cはそのとおりですが,Aは私の考えと違います。

FOUNDED構文の目的は,「もったいをつける」こと。主題(@で言えばthis school)を後ろへ回すことで,読者の期待感を高める効果を狙っています。

「国連は1945年に設立され…」

「1945年に設立された国連は…」

後者の方が文語的で,格調高く感じられます。

話し言葉では,「情報を思いついた順に加えていく」のが普通です。

一方FOUNDED構文は,あらかじめ文全体の形を思い浮かべていないと作れません。だから書き言葉に適しています

では,改めて。

@<Founded in 1945>, the UN has come to play an essential role in our world today.

この< >は副詞句でしょうか?

 

私は,次のように考えます。

@<Founded in 1945>, the UN has come to play an essential role in our world today.

AThe UN, <(which was) founded in 1945>, has come to play an essential role in our world today.

Aの< >は補足説明用法の形容詞句であり,これを文頭に移動したのが@です。

生成文法の移動変形規則になぞらえて,A→@の言い換えを「格式化(Formalization)」と呼んでおきます。

格式化によって主題(@ではthe UN)をあえて後ろへ回すことで,読者の期待を高める効果が生まれます

従来の文法でAの< >を説明するなら,「which wasがあれば継続用法の関係詞節,なければ分詞構文」となるでしょう。

しかし< >がoptionalなら,which wasがあってもなくても< >の働きは変わらない。

その働きはthe UNに補足説明を加えることであり,@の< >にも同じことが言える―と私は考えました。

BThe first botanical garden in the United States, <established in Philadelphia in 1728>, is now a part of the Philadelphia park system.(青山学院大)

C<Established almost 40 years ago>, the National Railway Museum is one of York City's most loved institutions.(関西学院大)

CがFOUNDED構文です。BでもCでも< >は補足説明方法の形容詞句である。

Bではthe United Statesに,格式化されたCではthe National Railway Museumに補足説明を加えている。

−これが私流の説明です。再確認しますが,これらの< >は副詞句ではなく,名詞に補足説明を加える形容詞句だ,という点がポイントです。

では,FOUNDED構文の現在分詞バージョンはあるのか?−この問いに対しては,「ある」とも「ない」とも言えるでしょう。

D<Living so far from town>, Mary seldom had visitors.

EMary, <(who was) living so far from town>, seldom had visitors.

「Eを格式化したものがDだ」と考えれば,DはFOUNDED構文です。

一方,Dの< >はAs she lived [was living] ...の意味の副詞句だ,と考えることももちろん可能です。

(4) 同格 VS 補足説明用法の形容詞句

@<A compassionate person>, Dr. Jemison has used her education to improve the lives of others by providing primary medical care to poor people.

(情け深い人物であるジェミソン博士は,貧しい人々に基本的な医療を提供することによって他の人々の生活を改善するために自分の教育を利用してきた)(センター試験)  

このような文も,しばしば分詞構文の一種と説明されます。

いわく「文頭にBeingが省略されており,A compassionate person=As he was a compassionate personである」。

その説明はそれでよいとして,「補足説明用法の形容詞」というkey conceptを使えば次のようにも説明できます。

@<A compassionate person>, Dr. Jemison has used ...

ADr. Jemison, <(who was) a compassionate person>, has used ...

Aの< >(補足説明用法の形容詞句[節])を「格式化」によって前に出すと,@になります。

この説明のポイントは,「@とAは本質的に同じものであり,どちらも< >はDr. Jemisonに補足説明を加えている」という点です。

学校文法で説明すると,@の< >は分詞構文の一種,Aの< >は「who wasがあれば継続用法の関係詞節,なければ同格句」となるでしょう。

Aのように関係詞節を補って考えることのできる同格句は,(本来の同格と区別して)「弛緩同格」とも呼ばれます。

私の説明は,「Aのような弛緩同格の名詞句は,補足説明用法の形容詞の働きをする」ということです。  

「同格」とは何か?−「コンサイス英文法辞典」をお持ちの方はpp.70-72を参照してください。私の説明はPoutsma流(ただしこれは少数派)に沿っています。

BTom, <a handsome boy>, is my classmate.

CTom, <a handsome boy>, is popular with girls.

Quirk流だと「Bは同格だが,Cの< >はbeing [as he is] a handsome boyと言い換えられるから同格ではない」ことになります。

私は,BCとも< >は(who is) a handsome boyであり,「形の上では名詞句だが,機能的には補足説明用法の形容詞」と考えます。

 

「同格」を私流に説明すると,こうなります。

DMy brother <Ken> is a college student.(同格)

EKen , <my brother,> is a college student.(同格ではない)

Dは「ケン兄ちゃんは〜」の意味。EはKen, who is my brotherで「ケン(ぼくの兄ちゃんなんだけど)は〜」ということ。

Eの< >は弛緩同格であり,学校文法で言う継続用法の関係詞節と同じものと考えます。

FMillions of chairs of this type have been bought since the first one went on sale in the 1930s. All sorts of people, <some famous, some ordinary,> have sat on the chair since the original was invented.

(1930年代に最初に発売されて以来,この種の何百万ものいすが買われてきた。有名人から一般人まであらゆる種類の人々が,最初の型が発明されて以来そのいすに腰を降ろしてきた)(センター試験)

この文の<  >も,(who are) some famous, some ordinaryと考えます。

「同格=名詞を並べた形」なら,これは同格句ではない。では分詞構文の変形なのか?−私の答えは「補足説明方法の形容詞句」です。  

 

補記(2024/1/8加筆)

次の例も同様です。

GA tough negotiator, Donald would not say yes. 

(手ごわい交渉人のドナルドは,どうしてもイエスと言わなかった)〈SKYWARD総合英語p.182)

HOur fingers can even replace our eyes as ways to perceive the world, as the Dutch paleontologist Geerat Vermeij, who has been blind since the age of three, can attest. 

A specialist famous for his work on marine mussels and their ecosystems, he has never seen a fossil. (2022大阪大)

(3歳から目が見えないオランダの古生物学者ゲーラット・フェルメイが証明しているように、私たちの指は世界を認識する方法として目の代わりになることさえある。

海産巻貝とその生態系の研究で有名な専門家である彼は、化石を見たことがない)

Gは,Donald, who was a tough negotiator, would not say yes. の意味と考えます。

HはDeepLによる和訳です。この日本語は,He, who was a specialist ..., had never seen a fossil. という英文に対応しています。

 

(5) 分詞構文の3類型

(4)までは,「分詞構文は副詞の働きをする」という一般的な説明に対して,「分詞構文には名詞に補足説明を加える用法もある」という考え方を示しました。

さらに,分詞構文にはよく知られた第3の使い方があります。

@The student, <praised by his teacher>, felt very pleased.

(その生徒は,先生にほめられて,とてもうれしく思った)(ジーニアス総合英語)

「< >は副詞句であり,as [when] he/she was praised 〜に近い意味を表す」−これが一般的な説明でしょう。

一方,私(SKYWARD)流の説明は次のようになります。

AThe student, <(who was) praised by his teacher>, felt very pleased.

このようにwho wasを補って考えると,< >は先行詞(the student)に対して補足説明を加える形容詞の働きをしていると言えます。

おさらいになりますが,一般に関係詞の継続[非制限]用法は,ジーニアス総合英語にもあるとおり,「先行詞に補足的な情報を加える働き」を持つと説明されます。

したがって@とAに関連があるとすれば,@の< >(分詞構文)も同じ働きを持つと考えることができます。さらに,

@The student, <praised by his teacher>, felt very pleased.

B<Praised by his teacher>, the student felt very pleased.

Bは@を格式化した結果としてできた文だと考えます。この理屈によって,@とBの分詞句の位置の違いが説明できます。

C Furthermore, in some large cities, evidence of neighborhood improvements to make walking and bicycling easier is now included in business promotion and real estate advertising.  Madison is among several large cities that have promoted both walking and bicycling, <making it one of two such cities ranking among the top six in both categories>.  

(さらに一部の大都市では,徒歩や自転車を利用しやすいように周辺を整備したことを示す証拠を,企業プロモーションや不動産広告に掲載するようになってきている。マディソンは徒歩と自転車の両方を推奨するいくつかの大都市の1つであり,それによって同市は両部門でトップ6に入る2都市のうちの1つになっている)(センター試験)

新聞記事などでは,Cのような分詞構文が最も多く見られます。

この文では,making=which makesと考えることができます(makingの意味上の主語は,Madisonではなくpromoted以下の内容)。

このことからも,分詞構文と関係詞節との間には強い関連性があることがわかります。

さらに,making≒which makes≒and that makesと考えることができます(thatは前の内容を指す代名詞)。このように分詞構文には,andで言い換えられるものがあります。

DThe train left Tokyo at 9:00, <arriving [≒and (it) arrived] in Yokohama at 9:40>.

この文の< >は,新しい情報を追加する働きをしています。コンマの前後の情報の価値は対等だから,これは「重文型」の分詞構文と言えるでしょう。

このタイプを含めて,結局,分詞構文には次の3つの類型があることになります。

A 副詞型=主に文頭に置く

<Walking in the park>, I saw Ken.

B 形容詞型=主に文中に置く

Garlic, <used in many dishes>, is good for your health.

(→ <Used in many dishes, garlic> is good for your health.(格式化によって< >が文頭に出た形))

C 重文型=主に文尾に置く

The typhoon hit Okinawa, <causing great damage>.

 

ETo contain the spread of the virus, the Chinese government has banned all outbound group travel, <a move that is being felt around the world>.

(コロナウイルスの拡散を抑えるため中国政府はあらゆる国外への団体旅行を禁じたが,この対応の影響が世界中に広がりつつある)

これは北村一真先生の「英語の読み方からの引用です。同書にあるとおり,< >は「同格の名詞句」と考えるのがオーソドックスな説明です。

私流の説明だと,a move≒which is a move≒and that is a moveと言い換えられる(thatは前の内容を指す)ので,< >はC(重文)型の分詞構文と同じ働きをしていると考えます。

このように分詞構文をA〜Cの3パターンに分けた場合,「修飾語とは何か?」という論点が出てきます。

「修飾語は必ず形容詞または副詞の性質を持つ」ことを前提とするなら,C(重文)型の< >は修飾語ではないことになります。

一方,「重文型の(新たな情報を追加する)修飾語もある」という定義づけも可能です。  

他の品詞との関係で言えば,分詞構文の働きは次の3種類に分類できます。

A(副詞型)=従属接続詞に近い働き

B(形容詞型)=関係詞(補足説明用法)に近い働き

C(重文型)=等位接続詞に近い働き

分詞構文と兄弟関係にある関係詞には,上のBとCの働きがあります。

Bの例:Sendai, <where I was born>, is a beautiful city.

Cの例:I went to Sendai, <where I stayed for three days>.

< >は,第1文では先行詞に説明を加えており,第2文では新しい情報を追加しています。

このように私は分詞構文の全体像を,A〜Cの3つに分けて考えます。

繰り返しますが「自分の説明が正しい」と言いたいのではなく,「自分流の説明はこうだ」ということです。

また私の説明は基本的に学校文法をリスペクトしてそれを補完するものであり,伝統的な学校文法を批判したいわけではないことも付言しておきます。

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