大人の英文法-134 大学入試の悪問で学ぶ英文法(1)
「大学入試のダメな文法問題を素材にして,英文法のより深い知識を身に付けよう」という趣旨の記事です。 逆に言うとこれらの問いの出題者たちは,英文法の正しい知識を十分に持っていないことになります。 以下の例の多くに共通しているのは,出題者たちが「必要以上に複雑な英文」を作ろうとしていることです。 つまり「文法問題を難しくするために,簡単に表現できる内容をわざわざ複雑な形で書こうとしている」ということです。 入試の文法問題には,この手の悪問がよく見られます。本末転倒と言うしかありません。 「大学入試に文法問題を出すのを禁止すべきだ」と私が主張する理由の1つは,このような問いを使って学ぶと英語学習者の感覚がゆがむと思うからです。 ※以下の説明は,ネイティブの意見を参考にしています。
●Fortunately for Eric, the @classes was cancelled, Aso the fact Bthat his homework Cwasn't finished wasn't noticed by the teacher.(2006関西学院大)(正誤問題) 【解説】 正解は@(→class)だが,出題者は水色マーカーの部分が しかし実際はそうではない。受動態の後ろにby(〜によって)を置くと,そこが情報の焦点となる(強勢を置く)。 またnotはその右側(後ろ)にあるものを否定するので,wasn't noticed のnotが否定するもの(否定の焦点)はby the teacherである」と言える。 したがって下線部は, 「エリックの宿題が終えられなかったという事実は,先生によって気づかれたのではない(先生以外の誰かによって気づかれたのだ)」 という意味になる。それは意味的に不自然だから,この問いの文は(文法的には正しくても)実際に使われることは絶対にない。 ●このペンは会社が私に試供品としてくれたものです。 (was / me / promotion / pen / to / by / given / company / a / the / this / as). (2019大阪歯大)(整序作文) 【解説】 想定された正解は,This pen was given to me as a promotion by the company.。 この文が不自然なのは,3つの下線部のどれもが情報の焦点のように響くから。つまりこの文は情報過多であり,何が言いたいのかがよくわからない。 学習者は次の2点に注意する必要がある。 ・to meは「他の人ではなく私に」という意味を表す。 ・by(〜によって)の後ろに〈the+名詞〉を置くのは避けるべき。by以下は新情報を表すが,theは旧情報のマーカーだから。 ●この経験のおかげで他の国々の文化を学ぶことができた。
(in / about / to / me / enabled / learn / this / cultures / experience)
other countries.(2019大阪歯大)(整序作文) 【解説】 想定された正解は,This experience enabled me to learn about cultures in other countries. だが,和訳文が正しくない。 これは日本人によく見られる誤りで,「自分では形容詞句のつもりで書いたものが副詞句と解釈される」というパターン(SKYAWARD総合英語-p.639を参照)。 並べ替えた英文の下線部は「他の国々で」の意味の副詞句であり,learnを修飾する。和文の意味にしたければ,英文のinはofでなければならない。 ●彼女はそのビンを開けるために栓抜きを探しています。 She
is looking for a ( bottle / to / corkscrew / with / the / open ).(2003中央大)(整序作文) 【解説】 完成した英文(She is looking for a corkscrew to open the bottle with.)は文法的には正しいが,2つの問題がある。 (1)下線部は形容詞的用法の不定詞だから,和文は「開けるために」ではな「開けるための」とすべき。 (2)その訳からもわかるとおり,(下線部はa corkscrewの意味を限定するから)withを加えた文は「そのボトルの開栓専用の栓抜き」という意味になる。 したがってこの英文には,(意味から考えて)withを入れてはいけない。 ●
I am looking for a spoon ( ) eat this fruit pudding. @by
that I can Awhich
I can Bwhich
is able to 〇Cwith
which to (2020
立命館大) 【解説】 空所にはtoだけを入れるのが最も自然。C(いわゆる不定詞関係詞節)は,このような日常的な内容に使う表現ではない。 さらに(上の問いと同様に),Cを入れると下線部がa spoon to eat this fruit pudding with(このフルールプディング専用のスプーン)と同義になるから不自然。 ●He
practiced harder ( ) he could win the match. @as
if Aas
well as Bnot
only Crather
than 〇Dso
that (2016九州産業大) 【解説】 文法的にはDが正解だが,下線部はto win the matchの方が自然。 ※「主節の主語とso that節の主語が一致する場合,不定詞構文の方が好まれる。 He painted the gate so that he could please his mother. → He painted the gate to please his mother.」 (ジーニアス英和) ●The dishonest mayor spoke as if he ( ) the crime in our city. @be reducing Ahad reduced Bhas reducing Cwill reduce (2016 法政大) 【解説】 想定された正解はAだが,Cも可。as if節中では,(確信度の強さとは無関係に)直説法も普通に使われる。 ●Last
night I ate (φ/ a / the ) chicken in a fancy hotel restaurant. (2008富山大・医) 【解説】 想定された正解はφ(何も入らない)だが,空所にはsomeを入れるのが最も自然(SKYWARD総合英語-p.408を参照)。 単にchickenだと「(ふだんは鶏肉以外を食べるが)昨夜は(特別に)鶏肉を食べた」という有標の解釈が生じる。
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