2013/3/31 up

大人の英文法−コラム(2) おすすめの辞書 

 

英語の辞書(主に単語の意味を調べるときに使うもの)にはいくつかのタイプがあります。

主なものは次の3つでしょう。

(A) 紙の辞書    (B) オンライン辞書    (C)電子辞書(携帯用)

これらにはそれぞれ特徴と長所がありますが,学校では「紙の辞書を使いなさい」と

指導する教師が多いようです。それにはいくつかの理由があると思われます。たとえば,

・紙の辞書には単語の意味以外の情報(語法の説明など)も書いてある。

・紙の辞書しか持っていない生徒もいる。

・電子辞書やオンライン辞書を使い続けるのは目に悪い。

・紙の辞書をひく習慣をつけさせたい(自分もそのようにして勉強してきたから)。

もっとも学校で最近使われる教材(たとえば長文問題集)の多くは,冊子の中に単語の

注記を載せており,学習者が辞書をひく労力が少なくて済むよう工夫されています。

しかし自分で選んだ英文(たとえば英字新聞)を読む際には,どうしても英和辞典的な

ものが必要です。その際に何を使うのがベターかと言えば,私のお勧めは,第1に

オンライン辞書,第2に電子辞書です。紙の辞書は勧めません。

オンライン辞書にもいろいろな種類がありますが,私は普段の仕事ではもっぱら

英辞郎を使っています。アルクのトップページに入っています。

http://www.alc.co.jp/

この辞書は,世間でよく言われているとおり,信憑性の面では紙の辞書に劣ります。

「間違った英語」も混じっていると言う人もいますが,私は基本的に気にしません。

「正しい英語」の線引きの判断は人によって違います。一例を挙げてみましょう。

Internet technology has made great progress in the last decade.

インターネット技術はこの10年で大きく進歩しました。

これは英辞郎に載っている例文ですが,この文を認めないネイティブもいます。

その立場は「make progress の主語は人間でなければならない」というものです。

確かにどの辞書の例文も make progress(進歩する)の主語は人間になっている

ようですが,英英辞典には「make progress は人間の進歩を表す」というような定義は

ありません。未確認ですが,上の文を許容するネイティブもいると思います。

私の経験からもネイティブの意見は非常にまちまちであり,総じて言えばわれわれが

「間違いだ」と思っている形も「使える」という判断をする人が多いように思います。

少なくとも意味を誤解されることがなければ,実用上は文法・語法上の正誤の判断

基準を緩めても問題ないでしょう。

なお,電子辞書は最近ではスマートフォンや携帯電話に搭載されているので,

机の上以外で英文を読みたいときはこれが一番便利です。


 

次に,紙の辞書について考えてみます。これは3つの種類に大別できます。

@ 専門家向けの辞書(例:ジーニアス英和辞典)

A 学習者向けの辞書(例:プラクティカルジーニアス英和辞典)

B 英英辞典(基本的に学習者向け)(例:OALD)

私の感想を言えば,多くの学習者は辞書の選択を間違えています。

結論を言えば,学生や一般人は@でなくABを使う方がベターだと思います。

私は大修館(「ジーニアス」の出版元)の専門誌「英語教育」でも連載しているので

営業妨害になってはいけないのですが,「ジーニアス」およびそれに類する辞書は,

大半の学習者にとっては「必要以上の情報」が入っているように思われます。

ただし,英語で飯を食っている人にとっては「ジーニアス」は必須の辞書です。

英語教師や英語の本の編集者は,この辞書を持っていなければ仕事になりません。

一方,一般の学習者は,ジーニアスよりも情報量の少ない「ベーシックジーニアス」や

プラクティカルジーニアス」の方が適していると思います。日常的な英語の知識は

これらの中にもすべて入っています。逆に言えば,「ジーニアス」には非日常的な

知識も入っているということです。

英英辞典は「使ったことがない」という人も多いでしょうが,実は英英辞典の方が

和英辞典よりも実用的です。入手しやすい代表的な辞書を2つ挙げておきます。

・OALD(Oxford Advanced Learner's English)

・LDOCE(Longman Dictionary of Contemporary English)

これらを含む一般の英英辞典では,コーパス(言語情報を集めたデータベース)中で

頻度の高い意味だけを載せています。英英辞典に載っていない意味は,現代英語では

まず使用されないと考えていいでしょう。

ところが@タイプの英和辞典には,英英辞典に載っていないことまで書いてあります。

1つ例を挙げてみます。次の問いは,大学入試問題からの抜粋です。

(問) 空所に入る適切な語句を1つ選べ。

The five new employees are all of (    ).

@ aged   A an age   B ages   C the ages 

文意は「5人の新入社員はみんな同い年だ」。「a[an]がthe same(同じ)の意味を表す

ことがある」という説明が,時々文法書の冠詞の項に載っています。その例として決まって

出てくるのが,of an age(同い年だ)という表現です。しかし,a[an]のこの意味は,OALDや

LDOCEなどの英英辞典には載っていません。現代英語ではもはや廃れた用法と言って

いいでしょう。しかし,日本の英和辞典では,a をひくと一番最後の方にこの意味が載って

います(「ベーシックジーニアス」さえこれを載せているのは感心しません)。

実用的にも,「彼らは同い年だ」はThey are the same age. と言えばよく,a[an]のこんな

用法は覚える価値がありません。

そういう意味では,英単語の実際によく使われる意味を調べるためには,英英辞典が

ベストだと言うこともできます。全部英語で書かれているのでは敷居が高いというのなら,

LDOCEをベースとした日本語バージョンの辞書「ロングマン英和辞典」がお勧めです。


 

それでは,なぜ日本の英和辞典は「a[an]が『同じ』の意味で使われることがある」という

ような,実用上は不必要と思われる知識まで載せているのでしょうか。その主な理由は

(私の勝手な推測ですが),日本の英語教育全体が一つの「外界から隔離された小宇宙」

であり,その中でお互いが(ある意味で足を引っ張り合って)バランスを取ろうとする心理が

働いているからではないでしょうか。ガラパゴス化した文法知識が参考書から消えずに残り,

それが辞書の記述にも影響し,そうしたソースで勉強した大学教授たちが化石のような

入試問題を再生産し,結果的に学生が無意味な学習を強いられる,という構図です。

これについては,後で改めて言及したいと思います。

 

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