2019/7/1 up

大人の英文法−コラム(12)

英検とGTECの比較

 

この記事は,「8種類の4技能テストのどれかを選ぶなら英検一択だ」という趣旨のことを私が書いたのに対して,ツイッターで批判が来たのを受けてのものです。

最初に,1つお詫びします。私の念頭にあったのは,従来型の英検(一次試験合格者のみ二次のスピーキングを受験できる)です。

文部科学省は従来型の英検を「(4技能テストへの)参加用件を満たさない」として排除したので,英検は将来的には英検CBTに一本化されると予想されます。

英検CBT(電子機器を使ったテスト)の情報は下のサイトにありますが,今後さまざまな変更が加えられる可能性があります。

(現時点では「団体受験ができない」「試験会場と定員が少ない」などの課題があり,当面の利用者はごくわずかでしょう)

 https://www.eiken.or.jp/cbt/test/

したがってこの記事は,英検CBTが(将来変更の可能性はあるけれど)出題内容自体は従来型の英検と同じだという想定の下で書きます。

下の記事は参考までに。

◆朝日新聞digital (2019年5月20日)  https://www.asahi.com/articles/ASM5J5VDQM5JUTIL02Q.html

2020年度から始まる大学入学共通テストで活用される英語の民間試験のうち、受験者が多いと予想される二つの試験の概要が、相次いで公表された。申し込みが殺到して希望者が受験できなくなるなどの事態を避けるために工夫しているが、試験を行う地域などの詳細は、夏以降に持ち越された。

 日本英語検定協会とベネッセコーポレーションは14日と16日にそれぞれ、「新型英検」と「大学入学共通テスト版GTEC(ジーテック)」の概要を発表した。共通テストでは計8種の民間試験が認定されているが、英検とGTECは高校生にとってなじみがあり、受験者が集中すると予想されている。そんななか、両試験は対照的な対策を打ち出した。

 英検協会は、全都道府県に独自の「テストセンター」を設置することを決めた。申込者が集中した際には、試験を1日に複数回実施したり、連日実施したりすることを目指すという。英検の「話す」試験は最近まで、面接担当者と対面して行うスタイルで続けてきたが、3タイプの新型英検のうち2タイプではコンピューター上で受験する「CBT方式」を導入する。この方式ならば、一定の英語力がある担当者を集める必要がなくなり、試験回数を増やしやすくなるという。

 ただ、試験会場の設置地域などの詳細はまだ決まっておらず、7月中旬ごろをめどに発表する。英検協会は発表が遅れていることについて「心よりおわびする」という異例のコメントを出した。

 一方、共通テスト版GTECは年4回の実施となった。やはりCBT方式で「話す」のテストを行うが、話した内容をタブレット端末に記録するため、そこからデータを抜き出して再び使える状態に戻すのに1カ月程度かかり、回数を増やせないという。その分、受験できる人は、20年度に共通テストを活用する予定の高校3年生と既卒者らに限定。受験回数も、2回までと制限する。

 試験会場は大学や民間施設のほか高校も使う予定だ。藤井雅徳大学・社会人事業本部長は「受験生の交通の利便性や経済的負担の軽減を第一に考え、希望が多ければ都市部でも高校を会場に使う」と述べた。高校に対する独自のニーズ調査を踏まえ、今秋に試験会場を置く地区を発表する。

 

以下の記事では,英検2級とGTEC-CBTを比較してみたいと思います。

英検2級を比較対照として選んだのは,大学の外検(外部検定)入試で求められる英検のレベルが,

一般入試の場合,1級0.1%,準1級20.5%,2級50.7%,準2級26.5%となっているからです。

https://passnavi.evidus.com/gaibukentei/02.html

つまり大学の4分の3以上は英検2級・準2級レベルの学力を求めているので,以下は主に英検2級とGTECを比較することにします。

 

(1)CEFRの対応レベル

以下は,右のサイトを参考にしました。 http://4skills.jp/qualification/comparison_cefr.html

これによると,英検とGTECが判定するCEFRのレベルは次のようになっています。

英検2級(A2〜B1),英検準1級(B1〜B2),英検1級(B2〜C1)

・GTEC-Advanced[高1〜高3レベル](A1〜B2(の途中まで)),GTEC-CBT[高2後半〜高3レベル](A1〜C1)

旺文社のサイトでは,「CEFRレベルに換算すると,A1≒3級、A2≒準2級、B1≒2級、B2≒準1級、C1≒1級」と説明されています。

これを見れば,一目瞭然です。

英検2級がB1レベルまでの英語力を見る試験であるのに対して,GTEC-CBTはそれより2段階上のC1までが範囲に入っています。

したがって,「英検2級よりGTEC-CBTの方が難しい」と結論付けることには合理性があります。

 

(2)英検2級とGTECの難易度の比較 (概要)

それぞれの問題を見た限りでの私の印象では,各民間試験の「高校生にとっての難易度」はおよそ次のようになります(右へ行くほど難しい試験)。

英検準2級<センター試験・共通テスト<英検2級<英検準1級・GTEC・TEAP<TOEFL・TOEIC

(英検2級がセンターより難しい主な理由は,4技能であることです。準2級はそれを差し引いてもセンターより易しいと思います)

ちなみに,Googleで「英検 GTEC 違い」と入力すると,トップに近いあたりに次の記事(個人のブログ)が出てきます。

このブログは,要約すると「自分の息子が中3のときGTECと英検を受験したが,GTECの方が難しかった」という内容です。

大学入学共通テスト奮闘記  https://edumama.hatenablog.com/entry/2018/05/17/214238

(記事の抜粋)Speakingの結果だけ見てみると:特に差の激しかったSpeakingの結果のみ取り出してみると,

英検 スコア510over(準1級相当)→社会性の高い話題についてやりとりすることができる。

GTEC グレード2→自分の大切なものものなどについて、英語で短い簡単な説明をすることができる。

英検は対面の面接方式、GTECはタブレットに向かって話す方式でした。

タブレットに向かって話すタイプの試験は初めてだったので非常にやりにくかったと言っていました。その辺りが結果にも大きく関係しているのかな?

Writingも差が大きい:詳細は控えますが、Writingの結果も大きく違ったんですよね。

英検は分かりませんが、GTECでは海外で複数の外国人によって採点されるので、文法的にあっていても自然な英語でないと減点されてしまいます。

その辺が結果に影響している気がします。自然な英語のWritingの学習って難しいですよね。ネイティブ講師による指導を受けるのが一番なのかな?

(3)英検2級の問題例

英検2級の最新の過去問(2019年第1回)は,下のサイトにあります。

https://www.eiken.or.jp/eiken/exam/grade_2/pdf/201901/2019-1-1ji-2kyu.pdf

●リーディング・リスニング問題のレベルは,ほぼセンター試験並みだと思います。

●スピーキング問題は,4つの問題から成っています。英語の質問を聞いて答えます。

概要は次のとおりです。パターンに慣れてしまえば対策学習をしやすいはずです。

@読み上げられた英文(60語程度)を聞いて,文章中の言葉を使って質問に答える。

A3つのコマから成るストーリー漫画(簡単な説明つき)を20秒見て,状況を英語で説明する。

B「今日の親は子どもに自由を与えすぎている」という発言に対して賛否の意見と理由を述べる。

C「将来は中古品を買う人が増えると思うか」という発言に対してYes/Noとその理由を述べる。

●ライティング問題は,この回は次のような問いでした(抜粋)。

(採点の都合で)答案を一定の型に誘導する意図が明確であり,受験者にとっては答えやすいと思います。

「以下のTOPICについて,あなたの意見とその理由を2つ書きなさい。

POINTSは理由を書く際の参考となる観点を示したものです。ただし,これら以外の観点から理由を書いてもかまいません。

TOPIC  Some people say that people today should spend less time using the Internet. Do you agree with this problem?

POINTS  Communication / Education / Health

問いの内容を日本語で説明すると,およそ次のようになります。

「インターネットの利用時間を減らすべきだという人々がいる。賛成か反対か。コミュニケーション・教育・健康などの観点から2つの理由を書け」

 

(4)GTEC-CBTの問題例

●リーディング・リスニング問題は,センター試験や英検2級より難しいと思います。

GTECの公式サイトには,次の説明があります(抜粋)。

・リーディング:学生生活で遭遇する情報や,講義内容などの出題で「読む力」を測定

・リスニング:学生生活での会話や講義からの出題で,問題解決に必要な情報を「聞く力」を測定。

TEAPやTOEFLにも言えることですが,1つにはこの「学生生活での」というのが曲者です。

学生とは基本的に「アメリカの大学生」であり,彼らの生活は日本人高校生と同じではありません。

たとえば,彼らの会話によく出て来る言葉の1つに TA(teaching assistant)があります。

これは優秀な大学院生が有給で指導教官の助手をするシステムで,時には講義もします。

日本人の高校生はそんなシステムは知らないので,一般常識として頭に入れておく必要があります。

TOEFLやTOEICが日本人にとって難しいのは,アカデミックあるいはビジネスの分野の知識不足が最大の理由です。

GTECやTEAPは,TOEFL寄りの(大学生活や講義に関する一般常識を必要とする)試験であり,

その点が(主に日本の高校生になじみやすいテーマを扱った)英検とはかなり違うと私は思っています。

●スピーキング問題は,「音読」「質問を聞いて応答する」「ストーリーを英語で話す」「自分の意見を述べる」の4パートから成ります。

公式サイトには右のサンプル問題があります。  https://www.benesse.co.jp/gtec/fs/question/#tab-4

最後のパートのサンプルでは,次のような内容の英文が読まれ,それに対して口頭で答えます。

@「英語学習者は正確な発音をすべきだと言う人もおり,発音の正確さは重要ではないと言う人もいる。

どちらに賛成か。自分の知識や経験を加えて,少なくとも2つの理由を答えなさい。」(考える時間は3分)

Aクラスメイトの次の質問に答えなさい。

「学生に英語を勉強させるための最もよい方法は何だと思いますか」

@を上で示した英検2級のライティング問題と比べてみると,両者のレベルは大差ないように思います。

つまり,英検2級のライティング問題に近い問いが,GTECではスピーキング問題として出題されるということです。

●ライティング問題は,「Eメール問題」「意見展開問題」の2つから成ります。

ここでは後者のサンプルを見てみましょう。問題の概要は次のとおりです(実際の指示文は英語)。

「米国のリサイクル事業に関するグラフを見て,その情報をあなた自身の経験と比較して125〜175語の長さの英文を書きなさい」 

この問いは,TEAPのライティング問題とよく似ています。

一方,上で示した英検2級のライティング問題と比べればその差は歴然です。何より,求められる語数が段違いです。

参考までに,英検準1級のサンプル問題も示しておきます。 https://www.eiken.or.jp/eiken/exam/grade_p1/pdf/201901/2019-1-1ji-p1kyu.pdf

「日本の消費者は,将来さらに多くの輸入品を買うようになると思うか。国際化・政策・価格など2つの点から,120〜150語程度の英文を書け」

この問いは,おおむね上で示したGTEC-CBTのライティング問題に近い(かそれよりやや易しい)と思います。

(1)で示したとおり,英検準1級はCEFRのB2レベル,GTEC-CBTはC1レベルにまで対応しているので,当然の結果とも言えます。

 

(5)まとめと感想など

以上の分析をふまえて,私の結論をもう一度言います。

ある国立大学が英検とGTECの両方を民間試験として利用している場合,私なら自分の生徒に対して

「英検を受けなさい。英検の方が点を取りやすいから」と指導します。

英検2級とGTECの問題レベルの格差は歴然であり,英検準1級と比べても私は英検の方を勧めます。

英検CTBのサンプルを見ると,スピーキング問題は画面に映った面接官(外国人)に向かって話すスタイルです。

これだけでも,機械(タブレット)に向かって話すよりも受験者の心理的ハードルは下がると思います。

 

ところで,私が1週間ほど前にこの問題に関する自分のブログの記事をツイッターで発信したところ,多くの人からリアクションがありました。

しかし意外だったのは,そのすべてが「民間試験反対派」の人々からのものだったことです。

くり返しになりますが,その人たちは「4技能(主にスピーキング)を大学入試で判定する」という理念自体に反対なのでしょうか?

それとも,公平性など技術的な課題を先に解決すべきだと主張しているのでしょうか?

そこのところが,どうもよくわかりません。

ついでに,高校の先生方にもう1つ聞いてみたいことがあります。

あなたの学校でもし(英検でなく)GTECを採用しているとしたら,その最大の理由は何ですか?

私の想像では,もっともありそうな理由は「実施が簡単だから」ということです。

現行の英検とGTECを比べた場合,生徒にタブレットを渡しておけば済むGTECの方が,実施する側はずっと楽でしょう。

出版物でもそうです。多忙な現場教師が「生徒に丸投げできる教材」を好むことは私の経験上明らかです。

しかし,もしそのような(難易度以外の)条件で採用する試験を決めるとしたら,それは本当に「生徒のため」になっているのでしょうか?

私は受験業界での経験が長いので,進学希望の生徒を大学に入れてやることが高校教師の最大の務めだと思っています。

だから私が今高校教師をしていたなら,「効率的に大学に入りたいなら,GTECより英検を受けなさい」と指導すると思います。

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