私は,大学入試への民間4技能テスト導入に賛成の立場です。最大の理由は,それらのテストに「文法問題」が入っていないことです。
この話をするたびに自分が(理解者がおらず孤独な戦いをしているという点で)ドンキホーテのように思えるのですが,
これは私のライフワークなので何度でも言います。
日本の英語教育の最大のガンは,大学入試の文法問題だと私は思います。
アマゾンで酷評された拙著「英語教育村の真実」に書いたように,費用対効果の面から考えて
最も簡便で効率的な英語入試改革は,すべての大学入試から文法問題をなくすことだと私は思っています。
そうすれば高校生は,実用性の低い「文法問題対策の公式」のようなものを丸暗記する作業から解放されるはずです。
そういう観点から,ここでは大阪教育大の入試問題を取り上げます。
かつて私はこの大学の英語入試問題に対して,「最悪」という評価を下していました。
理由は,古臭い「書き換え問題」を毎年出していたからです。
しかし,2015年度入試から書き換え問題の出題はなくなりました。
その点では多少の改善が見られますが,後述するとおり文法の空所補充問題はまだ残っています。
大阪教育大で書き換え問題が出題された最後の年である2014年度入試から,悪問の例を見てみます。
@(a)Since Mike lived there,
he will show us around the city.
(b)
( ) ( ) there, Mike will show us around
the city. (正解:Having lived)
「マイクはその市に(以前)住んでいたので,私たちに市内を案内してくれるだろう」の意味。
(b)が実際に使われるような状況は,まずあり得ないでしょう。
4技能との関連で言えば,話し言葉ならたとえば次のように言うのが普通でしょう。
Mike will (probably) show us around the city. He
lived there before.
また,この内容を書き言葉で表す場合,考えられるのはメールです。
たとえばAさんがBさんにメールで上の内容を伝えたいとき,(b)を使うことは100%ないはずです。
一方,たとえばリーディングの素材中に次のような文が出てくる可能性はあります。
(c)Having lived there before, Mike offered to show
them around the city.
つまり@の問いがダメなのは,(会話や作文では)実際に使わない文を作らせようとしているからです。
A(a)My grandmother lost her
life in the accident.
(b)The accident
( ) my grandmother of her life. (正解:deprived)
この問いがダメなのは,必要以上に複雑な文を作らせようとしているからです。
この内容を表すには,My grandmother died in
the accident. と言えば十分です。
(b)はフォーマルな文体の書き言葉には出てきますが,日本人がこんな文を作る必要はありません。
B(a)He makes mistakes every
time he types.
(b)He can't type
( ) ( ) mistakes. (正解:without
making)
この「書き換え公式」は有名ですが,私に言わせればこのようなものは
English grammarではなく,
Japanglish grammarです。(b)は読んで意味がわかれば十分であり,自分で作れる必要はありません。
今日のワープロソフトにはスペルチェック機能がついているので,この文は内容的にも時代遅れです。
私がこれらの問いを「許せない」と思うのは,こうした「使えない英語」をわざわざ身につけることに
むだな時間を費やす代償として,もっと大切な勉強がおろそかになるからです。
それはいわゆる「4技能」の習得です。
試験に出る文法の「公式」をいくら暗記したところで,英語が使えるようにはなりません。
私が大学入試の文法問題を忌み嫌うのは,そういう理由からです。
最初に書いたとおり大阪教育大の問題は,以前に比べれば近年は改善が見られます。
しかし,書き換え形式が空所補充形式に変わったものの,文法問題は今でも出題されています。
次の問いは2019年度入試からの引用です。
Bob believes that no other job
requires ( ) long and intensive a period of training as that
of a doctor.
@ so A
such B too C very (正解:@)
「医者の仕事ほど長期の集中的な訓練を必要とする仕事は他にないとボブは信じている」の意味。
〈so+形容詞+a+名詞〉の形を作るために@を選びますが,これ自体が堅苦しい表現です。
空所補充であれ整序作文であれ,「英文を完成する」ことを求める問いは,完成した英文が
スピーキングやライティングで実際に使えるものでなければなならない
― これが私の持論です。
上の内容をシンプルな文体で表現するなら,たとえば次のようになります。
Bob believes that a person who want to be a doctor must
have the longest and most intensive training.
自分の伝えたい内容を話したり書いたりする力を養うためには,このような文を作る練習をすべきです。
私は大学入試から文法問題をなくすべきだと思いますが,どうしても文法問題を出したいのなら,
実際に使う可能性がある文を完成させる問いを出すよう,各大学の出題者には強く望みます。
上のような悪問には,(受験英語の習得という)無意味な苦行の成果を測る働きしかありません。
厳しい言い方をするなら,それは「英語の試験」ですらない,と私は思うわけです。