大人の英文法−コラム(18)

大西文法考

 

大西泰斗先生の「一億人の英文法」は,伝統的な(学校)文法とは全く異なる「大西文法」の本であり,多くの知的刺激が得られます。

以下,私なりに大西文法の特徴を説明してみたいと思います。大西文法を批判したいわけではないことを最初にお断りしておきます。  

 

(1) 大西文法における「修飾」の考え方

学校文法と大西文法の最大の違いは,「修飾」という概念のとらえ方だと思います。

学校文法では,修飾語を「形容詞」と「副詞」に分けます。

一方,大西文法では修飾語を(位置によって)「限定」と「説明」に分けます。

@That is a red sweater.

AThat sweater is red.

大西文法では次のように説明します。

・@でもAでも,redsweaterを修飾している。

・修飾語を@のようにターゲット(被修飾語)の前に置けば「限定」,Aのように後ろに置けば「説明」の働きをする。

・この「前から限定,後ろから説明」というルールは,すべての修飾語に当てはまる。

BHe is very rich.

CHe is not rich.

DWe had a party last night.

Bのveryrichの程度を,Cのnotは後続の内容を「〜ではない」の意味に「限定」している。Dのlast nightは,いつの出来事かを「説明」している。

私の感想を言うと,「前から限定,後ろから説明」というルールは非常にシンプルでわかりやすいのですが,それによって犠牲になるものもあるので,どちらを優先するかという話になると思います。

 

@That is a red sweater.(前から限定)

AThat sweater is red.(後ろから説明)

これだけを見ると,大西文法で言う「限定」「説明」は,形容詞の場合はそれぞれ学校文法で言う「限定用法」「叙述用法」に対応しているように見えます。 しかし,そうではありません。

BI’d like something cold to drink.

大西文法では,coldto drinksomethingを(後ろから)「説明」していると考えます。このcoldは学校文法では限定用法ですが,大西文法では名詞の後ろにあるから「説明」です。

また,Bのto drinkは学校文法では「前の名詞を修飾する形容詞的用法の不定詞です」。ここで次の疑問がわきます。

「形容詞には限定・叙述の2用法がある。to drinkが限定用法だとしたら,叙述用法の形容詞の働きをする不定詞はあるのだろうか?」

学校文法ではこの点を説明しませんが,次のような理屈は成り立つでしょう。

CHe seems <to be sick>.

DThe meeting is <to be held on Friday>.

EMy goal is <to be a lawyer>.

CDの< >の不定詞は「叙述用法の形容詞」の働きをする。CはHe seems sick. と同義だから。DはEとの対比から(Eの< >は名詞の働き)。

ただ,この説明にどれほどの意味があるのか?Cはseem to do,Dはbe to doを一種の成句として覚えればよいのではないか。

つまり,「どこまでを理屈で説明するか」の線引きの問題なわけです。学校文法では不定詞を3用法に分けます。

しかし,形容詞には限定・叙述の2用法があるにもかかわらず,「叙述用法の形容詞の働きをする不定詞」はふつう想定されていない。

これは,ある意味では不完全なロジックです。 それならば,不定詞の3用法という分類自体をやめてはどうか。そうすれば

Bのto drinkは前のsomethingを説明する

Cのto be sickは前のseemsを説明する

で話が終わる。このように大西文法は,学校文法よりもシンプルで汎用性の高いロジックを指向していると言えるでしょう。

BI’d like something cold to drink.

この文はI’d like something. だけでは意味が漠然とし過ぎている。そこで「somethingとは具体的に何なのか」の説明が必要である。だからcoldto drinkを加えて「説明」する。

したがって,大西文法で言う「後ろから説明」ルールとは,形容詞(句・節)に関して言えば「後置修飾」と同義と考えてよいでしょう。

このとき,大西文法では被修飾語に対して「(修飾の)ターゲット」という包括的な呼び名を与えています。

たとえば(A)a red carでも(B)a car that runs fastでも,carがターゲットです。

こう呼ぶことによって(B)のcarに対して「先行詞」という用語を使わなく済むので,説明がシンプルになります。

こういう考え方は,学校文法にも取り入れてよいと思います。

(2) 大西文法における基本文型

・My car is red.

再確認しますが,大西文法ではこのredは修飾語であり,ターゲットを「後ろから説明する」働きをします。

したがって大西文法には,「補語」という概念がなく,基本文型を次の4つに分けています。(  )内は対応する学校文法の5文型です。

(1)他動型(SVO)

(2)自動型(SV)

(3)説明型(SVC)

(4)授与型(SVOO)

このほか,

・目的語説明文(SVOC)

・レポート文(Vの後ろに節を置く形)

・命令文

・There文

があります。つまり大西文法では,英文の構造を「メインの4つ+サブの4つ」に分類しています。

まず,(3)の「説明型」を見ていきます。先述のとおり,大西文法には「補語」という概念はありません

@He is <hungry>.

AHe is <eating a hamburger>.

@Aの< >はどちらも,ターゲット(He)を「説明する」働きを持つ修飾語です。

つまり,「彼」は@ではhungryの,Aではeating a hamburgerの状態だった,と考えるわけです。一方,学校文法では@はSVC,AはSVOです。

(A)He is / eating a hamburger.(大西文法)

(B)He / is eating / a hamburger.(学校文法)

皆さんはどちらがベターな説明だと思いますか?

私の考えを言うと,A・Bの両方のとらえ方を知っておく必要があると思います。

たとえば1枚の写真にハンバーガーを食べている男性が写っているとします。この写真については,次の2つの質問が可能です。

(a)What’s the man doing?(男性は何をしていますか)

(b)What’s the man eating?(男性は何を食べていますか)

(a)に対する返答なら(A)(大西文法),(b)に対する返答なら(B)(学校文法)で考えるのがわかりやすいでしょう。

つまり,He is eating a hamburger. は必ずしもSVOだとは限らず,He is / eating a hamburger. というとらえ方も成り立つわけです。

大西文法は,そういうふうに学習者が自分の視野を広げるのに役立ちます。大切なのは,「いろんな考え方がある」という事実を知ることです。

 

「説明型」の文をもう少し見ていきます。

BThe schedule was / changed.(予定は変更された)

CThe schedule was / tight.(予定は詰まっていた)

大西文法では,changed(過去分詞)とtight(形容詞)は文法的に等価です。これはわかりやすい説明です。

学校文法の場合,CはSVCですが,Bの文型は?

実は,5文型にはいくつかの「穴」があり,その代表的なものが受動態なのです。

学校文法では,受動態を使った文の文型はほとんど説明しません。

「SVOOの文からは2つの受動態ができる」という説明を聞いたことがあるでしょう。

DMy aunt gave me a bag.(SVOO)

→EI was given a bag by my aunt.(?)

→FA bag was given to me by my aunt.(SVO)

FはSVOですが,Eの文型は?

Eのa bagは「保留目的語」とも呼ばれますが,「EはSVOだ」とは普通言いません。

DからEを作る「作り方」は,大西文法でも同じです(「一億人の英文法」p.486)。

ただ大西文法でも,(学校文法と同様に)DやEが「基本的な文構造のどれに当たるか」を説明してはいません。

ちなみに,FはDからできるのではなく,My aunt gave a bag to me. という別の文が受動態になったと考えるのが合理的です(大西文法でもそう説明しています)。

またFは実際には使われない不自然な文ですが,その説明は割愛します(SKYWARDのp.628を参照)。

 

基本的な形の文に立ち返って,別の例を出します。

GThe train has been delayed.

HThe train is delayed.

2つの文が表す実質的な意味は同じですが,Gはdelay(動詞)を受動態にして完了形と組み合わせた形,Hのdelayedは「遅れている(状態だ)」の意味の形容詞です。

別の言い方をすれば,「Eのdelayed(過去分詞)が形容詞に転化してFができた」と考えられます。

このように過去分詞と形容詞との境界線はあいまいであり(SKYWARDで詳しく説明しています),GとHは兄弟関係としてとらえるのがよいと思います。

大西文法に沿って考えると,GもHも「説明型」であり,Gは「出来事の完了」が,Hは「現在の状態」が意識されているのだ,と説明することになるでしょう。

学校文法では,HはSVCですが,Gの文型は普通説明しません。この点では大西文法の方がわかりやすいかもしれません。

受動態に限らず,大西文法はシンプルな形の文の成り立ちを理解するには適しています。

ただ,文構造が複雑になるにつれて,結局は学校文法と似た説明が必要になってくるのかなとも思います。

 

(3) 大西文法における「レポート文」

(2)で見たとおり,大西文法では文の基本構造を次のように分類しています。

〈メイン〉(1)他動型(SVO),(2)自動型(SV),(3)説明型(SVC),(4)授与型(SVOO)

〈サブ〉目的語説明文(SVOC),レポート文,命令文,There文

ここでは「レポート文」を取り上げます。 レポート文とは,「主語の発言や考えをレポートする文」です。

@I think <that Mary is kind>.

ATom told me <that he was sick>.

BDo you know <where he lives>?

大西文法では,< >は「後ろから説明」する要素,つまり修飾語です。

I thinkやDo you knowだけでは「欠乏感」がある。だから後ろに説明を加えるのだ―というわけです。

したがってこれらの文を「〈動詞+節〉と考えてはいけない」というのが大西文法独特の説明であり,レポート文が「他動型(SVO)」に入らない理由もそこにあります。

ただ,私はこの説明に少し疑問を感じました。

大西文法では,「主語の位置には何でも置ける。ただし主語の位置にあるものは名詞扱いする」と説明しています。

C<Under the doormat> must be the stupidest place to leave a key.

「Cの主語は< >である。だからこれは名詞の働きをする」という理屈です。

それならば,同じように「他動型(SVO)で動詞の後ろにあるものは名詞扱いする」とも言えるのではないでしょうか。

そうすれば,@ABの文はすべて「他動型」のカテゴリーに入ります。  

この点について,大西先生の近著「それわ英語ぢゃないだらふ」に次の趣旨の説明があります。

I think <that 〜>の< >が「名詞節」なら,I think Tom. とも言えるはず。しかしI think Tom. とは言えない。だから< >は「名詞節」ではない。

また次の例と説明もあります。

DI’m afraid <(that) we don’t have time>.

・am afraidを動詞とみなすのは間違い。am afraid spidersとは言えないから。

・afraid (of) that 〜のofが省略された形でもない。そもそも存在しない形からの省略形は「省略」ではない。

これは1つの考え方としては成り立つでしょうが,参考までに別の考え方を2つ示します。

(A)自動詞・他動詞の区別と同様に,「自形容詞・他形容詞」という概念を設定できます。

・I’m afraid (of spiders).(自形容詞)

・I’m afraid that ....(目的語をとる他形容詞)

参考までに補足すると,worthは今日の辞書では前置詞に分類されていますが,私らが高校生の頃は「目的語をとる形容詞」と教わっていました。

またRemind me again nearer (to) the time.(ウィズダム)では,toがなければ形容詞のnearerが目的語をとる形になります。

(B)EWhat John is afraid of is that he has terminal cancer.

これは謎解きの英文法・形容詞からの引用で,Eにはofが必要です。

そして,Wh[疑似]分裂文は(強調構文のit is ... thatと同様に)whatとisを取り外すと完成した文の形が残ります。 したがってこの文は,

John is afraid of <that he has terminal cancer>.

という中間構造の< >が情報の焦点となったものであり,深層にはafraid of thatという形があった,と考えることもできます。

(4) 大西文法に対する私の疑問

正直なところ,実は私は「前から限定,後ろから説明」という大西文法の基本ルールを十分に理解していません。

2つの情報A・Bがこの順に並んでいるとき,

・AがBを前から限定している

・BがAを後ろから説明している

この両者の見分け方が,よくわからないのです。

@I think <that Mary is kind>.

この「レポート文」を,大西文法では「< >がI thinkを後ろから説明している」と説きます。つまり「I thinkが主,that以下が従」です。

しかし私が思うに,レポート文で最も重要なのは「伝えたい内容の中心はthat以下にある」という点です。

だから,Mary, I think, is kind.とかMary is kind, I think.のような言い方もできます。

これらのI thinkは一種の修飾語であり,伝えたい内容の中心はMary is kind. です。

だとすると,@は「Mary is kindに対してI think (that)が『私個人の考えだ』という『限定』を前から加えている」とも言えるのではないか。

つまり「限定」か「説明」かを決める基準は「語順」だけではなく,「情報的価値」というパラメーターも加える必要があるのではないか?というのが私の疑問です。

もう1つ例を挙げます。

AThat building is 150 meters <high>.

BThat building is <150 meters> high.

大西文法ではAの立場を取り,こう説明されています(「一億人の英文法」p.239)。

「あのビルは150m」と言っただけでは「足り」ません。…そこで「高さが,ね」と後追いでキッチリ説明。

つまり「150mが主,highが従」ということになります。

一方,たとえば実例が語る前置詞(平沢慎也著)ではBの立場を取り,「差分スロット」という言葉で説明しています。

いわく,比較級や前置詞の前には「差分情報」を入れる穴(箱)があり,そこに数字などを入れて差を詳しく説明する。したがって「highが主,150mが従」です。

伝統文法による説明もBです。150 metersは形の上では名詞句ですが,機能としてはhighを修飾する副詞の働きをしています(このようなものを副詞的目的格と言います)。

CI was <30 minutes> late.(私は30分遅れた)

この30 minutesも同様です。

大西文法だとCはI was 30 minutes <late>.ですが,「『私は30分』では足りない。だから後追いでlateを加えるのだ」という説明には無理がありそうです。

大西文法でBではなくAの説明を選択する基準はどこにあるのか?−これが,私にはよくわからないわけです。

 

私の理解のしかたの問題なので,「大西文法は間違いだ」と言いたいわけではありません。実際,大西文法には数多くの優れた説明もあります。

DWhat did the teacher tell you?―Oh, he told me that the earth <was> round.

これも大西先生の「それわ英語ぢゃないだらふ」に出て来る例文です。 この会話ではwasを使います。

「不変の真理は時制の一致の適用を受けない」のではなく,話し手がある内容を(自分の主観を交えずに)単に「レポート」したいときは,時制の一致が機械的に適用されます(SKYWARDのp.45を参照)。

EThey demanded that the manager <raised> their pay.

これは大西文法ではなく私流の説明ですが,Eで仮定法現在を使うと実際に賃上げがあったかどうかは不明です。

「要求の結果賃下げが行われた」という事実をレポートしたいときは過去形を使います(ただし異論もありそうなのでSKYWARDにはこの説明は入れていません)。

大西文法を考察する本稿の1つの目的は,大西文法を素材として,同じ英文を説明するにもいろんな考え方があることを紹介することです。

英文法が好きな方は,自分なりのロジックや説明体系を考えてみるのも面白いと思います。

 

(5) 大西文法における「目的語説明文」

大西文法で言う「目的語説明文」はおおむね学校文法で言うSVOCに対応していますが,一億人の英文法(p.87)には次の説明があります。

説明語句には名詞や形容詞だけでなく,自由にさまざまな要素を使うことができます。

@I saw a cockroach <in the kitchen>.

AI saw the players <training>.

学校文法では,@はSVO,AはSVOCです。一方大西文法では,< >内はどちらも「目的語を説明している」と考えます。

「自由にさまざまな要素を使える」というのは大西文法の特徴で,品詞よりも語順を重視する考え方です。

「前から限定・後ろから説明」のルールですべての文を理解しようとする試みとも言えるでしょう。

ちなみに@は,大西文法ではI saw a cockroach+[it was <in the kitchen>]. のように考えます。

この[ ]の部分は「説明型」の文であり,< >は主語(it)に対する説明です。

だから@の< >は,目的語(a cockroach)を説明することになるわけです。

これは「SVOCではOとCの間に主述関係がある」という学校文法の理屈と同じです。

 

次に,〈V+O+to do〉の形を考えます。

BMy parents want me <to study hard>.

CMy parents tell me <to study hard>.

大西文法ではBCとも目的語説明文であり,< >はmeを説明しています。では,これらの文はSVOCの一種とみなしてよいのでしょうか?

伝統文法(および生成文法)では,だいたい次のように考えます。英文法解説をお持ちの方は,pp.329-332を参照してください。

BMy parents want O[me to study hard].

CMy parents tell O[me] O[to study hard].

Bで両親が望んでいるのは「私が熱心に勉強すること」。つまりI study hardの全体がwantの(ネクサス)目的語です。

一方CのtellはSVOOの形で使う動詞なので,「両親は言う+私に+私が熱心に勉強すべきだと」と考えます(CはMy parents tells me that I should study hard. と同意です)。

そう考えると,AやBはSVO,CはSVOOだということになります。

DThe story made me sad. ← D’The story made O[I am sad].

これも理屈は同じで,本質的にはSVO。「そのお話は[私が悲しい状態]を作った」ということです。現代英文法講義(pp.23-6)の説明も参考にしてください。

 

上記のとおり,BとCは異なる深層構造を持っています。だからSKYWARDでは,〈V+O+to do〉の形が5文型のどれに当たるかは説明していません。

この形は12種類の基本的な文構造(p.327)の1つとして挙げていますが,学習者はこの形(wantやtellの語法)を知っておけば十分だと考えたからです。

要するに「どこまで厳密さを求めるか」の問題です。

たとえば「不定詞は未来指向である」という説明は,すべての不定詞に当てはまるわけではないけれど,一般の学習者には充分役に立つ説明でしょう。

そうした一般化をどこまで認めるかは人によって違います。本によって違うことが書いてあっても,それは「線引き」の差である場合が少なくありません。

EIf I had had breakfast this morning, I <would not be> hungry now.

これはある大学の文法問題で,< >の形を問うものです。しかし,こんな文が実際の会話で使われることはありえせん。

この内容は,I didn’t have breakfast, so I’m hungry now. と言えば済むことです。

だからSKYWARDでは,「ifを使って事実の反対を表す仮定法の文は,他の表現で代用してみよう」という説明をしています。

要するに「仮定法(特に過去完了)は使わなくてよい」というわけです。もちろん異論はあるでしょうが,そういう「さじ加減」が学習英文法には必要です。

 

(6) 「話すための英文法」とは?

一億人の英文法」の表紙を見ると,タイトルの上に「『話すため』の英文法」と書かれています。

これは編集部が考えた一種のセールストークだろうと私は思っています。こういう謳い文句の本はものすごく多い。それだけニーズがあるからでしょう。

しかし私の見るところ,「話す」ことに特化した英文法の本はほぼゼロです

「一億人の英文法」も,(別売りのドリルと合わせて)「話す」学習にも役立ちますが,むしろ同書は

高校卒業程度の英語力を既に持つ人が,他の文法書と合わせて読むことで,英文の理解に関する視野を広げる」のに適していると思います。

同書では完成した英文を示した上で,その文の成り立ち(あるいは作り方)を説明しています。

しかし多くの日本人は「日本語を頭に思い描いて,それを英語に直す」という習慣から抜け出せません。

だからSKYWARDには,「この日本語(の内容)をどう英語に直すか」という説明をたくさん入れました。

ちなみに本の基本コンセプトにおいて私が一番シンパシーを感じるのは,米原幸大先生の「完全マスター英文法です。

同書が指摘する「Descriptive GrammarではなくPedagogical Grammarを学ぶ」という点を,SKYWARDも強く意識しています。

SKYWARDでは分野ごとに「発信(読む・聞く)」と「受信(書く・話す)」の知識を分けています。

関係詞では半々くらい,接続詞では受信がやや多め,時制・助動詞はほとんどが発信用の知識です。

本全体の比率は「発信65%:受信35%」くらいでしょうか。これは多くの学習者のニーズにも沿っていると思います。

「英語で話す力」を養う学習のプロセスについて言えば,私は基本的に英語独習法(今井むつみ著)に書かれた「@語彙力→Aライティング→Bスピーキング」という学習順序に賛成します。

@からAへの橋渡しとしては,たとえばこんな教材が適しているでしょう。  

文法知識はアプリオリに存在するのではなく,実用に従属すべきもののはず。「話す」ことに関しては,次の3段階のプロセスが必要だと思います。

A 語い力を増やす。

B シンプルで文法的に正しい文を作る練習を行う。

C 状況に適した単語や表現の選択を学ぶ。

特にCを意識していないと,たとえばこんなことになります。

Her father demanded she <stay> home today.

これはある難関私大の入試問題(< >が正解の選択肢)ですが,「父親が娘に強く言った」という内容を表すのにこんな英文を使うのはNGです。

このように「文法的に正しい文を作る」だけで満足していては,コミュニケーションは成り立たない。一方で,実用性だけが英語学習の目的ではない。

英語に限らず勉強というものは,蓄えた知識だけでなく学ぶプロセス自体にも意味があるはず。

京大の入試は基本的に「和文英訳+英文和訳」ですが,受験生の知的レベルを測るには適していると私は思います。

英語学習の目的は人によって違うけれど,知識を蓄えること自体が目的になってはいけない。

最後は自著の宣伝になってしまいますが,SKYWARDは「自分が伝えたい内容を英語でどう表現するか」「そこにある英文をどう読むか」を学ぶ本です。

「最初に文法学習ありき」ではありません。文法学習はそういう意識で取り組むべきだと思います。

 

余談:大西文法はいわば「独自の進化」を遂げた文法理論ですが,自分が大西先生だったら「これが私流の説明だ」で話を終えます。

「伝統文法は間違いだ」みたいな,わざわざ敵を作るような主張をする度胸は私にはありません。 (笑)

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