大人の英文法−コラム(20)

大学入試問題批判(1)

 

異論はあると思いますが,私は基本的に次のように考えています。

たとえば中学の教科書に出て来る単語にも,次の2種類があります。

受容語い=読んだり聞いたりするとき意味が分かればよい語

発信語い=自分で書いたり話したりするとき使えるようになる必要がある語い

両者の違いは,文法の学習項目にも当てはまります。いわば,受容文法発信文法とがある。

そして,どんな形式であれ英文を完成させるタイプの問いは,発信文法を問うものであるべきだ。

たとえば強調構文は受容文法であり,英文中の強調構文の意味を尋ねる問いは良問である。

一方,空所補充や整序作文などの形式で強調構文を尋ねる問いは悪問である。

 

上記の論点をふまえて,文法問題における「良問」の条件をいくつか考えてみました。

(1)重要度の高い文法知識を尋ねている。

(2)正しい(or自然な)英語を使っている。

(3)選択式の場合,正解が1つに決まる。

(4)問題の難度が一般の高校生にとって適切である。

これらの見地から見た悪問の例を,以下に挙げていきます。

なお,「文法問題で悪問を出す大学」と言えば,私が思い浮かべるのは1に早稲田大,2に上智大です。

 

(1)重要度の低い(or古臭い)知識を尋ねる悪問

●Many (   ) wants to study abroad nowadays.

〇@a student  Aof a student  Bthe student  Cstudents (2018 法政大)

→受容文法を尋ねている。日本人がこんな英語を使う必要は全くない。

●I will make him go there tomorrow.

=He (   ) go there tomorrow.

@can  Amay  〇Bshall  Cwill (2008 高崎経済大)

→出題者自身が高校生だった頃の古臭い文法知識に染まっている。

●I had meant to call on you, but was prevented from doing so.

=I meant to (   ) (   ) on you, but was prevented from doing so. (2006大阪教育大)

→想定された正解はhave calledだが,こんな形はジーニアス・ウィズダムを含め今日のほとんどの辞書には載っていない。  

●健康が富に勝ることは言うまでもない。(above,needless,thatを使って10語で英訳せよ)(2001慶応大)

→想定された正解はIt is needless to say that health is above wealth. だが,下線部は古めかしい言い方。

今日ではneedless to sayは副詞句としてしか使わない(多くの英英辞典にはその形しか載っていない)。

●次の日本語を英語に訳しなさい。ただし,解答欄に与えられた語句で文を始め,終えること。

彼が人の悪口を言っているのを私は一度も聞いたことがない。

Never (      ) of other people.  (2011 学習院大)

→ 出題者が想定した正解はhave I heard him speaking ill だろうが,このような文を日常的に使うことはまずあり得ない。

Never have I という倒置表現は大げさすぎるし,「〜の悪口を言う」に当たる一般的なフレーズは say bad things about など。

学習院大にはあの真野泰先生がおられるのだから,校閲してもらえばいいのに,といつも思う。

(2)正しくない(or不自然な)英語を使った悪問

●Martin stole my book from me.

=Martin robbed me (   ) my book. (2012東京理大) (正解はof)

→意味が違いすぎ。出題者の無知が目に余る。  

●You should come back here (   ) eight o'clock. 

=You should come back here before eight o'clock.

@at  〇Aby  Bon  Cuntil (2009関西学院大)

→ これも同様。byなら8時に戻ってもセーフ,beforeだとアウト。  

My camera is out of order. There is something wrong (    ) my camera.

@at   〇Awith   Bof   Cunder (2019中央大)

→ 多くの辞書に書いてあることだが,out of orderは個人の持ち物には使わない。

出題者の知識は自分が受験生だった頃からアップデートされていないことがよくわかる。

クマが攻撃的だったため,その猟師は殺すという手段に訴えざるをえなかった。

The hunter [ to / resorting / killing / help / the bear / couldn't ] because it was aggressive. (2018 日本大)(整序作文)

→ 完成した文は,The hunter couldn't help resorting to killing the bear because it was aggressive.。

言うまでもなく,can't help 〜ing((思わず)〜しないではいられない)はこの文では使えない。

Without sending any message to the teacher, she absented herself (   ) school.

@ for  〇A from  B of  C to  (2018 中央大)

→ absent oneself fromはフォーマルな表現であり,子どもが学校を休むような状況では使わない。

出題者にformalityの意識が欠落している典型例。

  すぐおいしい話をするビジネスマンなんて信用できないよ。(2019 青森公立大)

( people / me / once / offer / can't / a / such / at / as / I / tempting / business / trust / give ).

→出題者の想定した正解は,I can't trust such business people as give me a tempting offer at once.。

しかし,この文で at once(直ちに,遅滞なく)を使うことはできない。

「at once=すぐに」という程度の覚え方では実際に英語を使うことはできない,という例。

●The birds called toki are (   ) to see in Japan.

@living  Ausually  Bhardly ever  Crare (2011福岡大)

→(想定された正解Cを含め)どれを入れても,英文としての形をなさない。(ネイティブに確認済み)

●@In the eyes of foreigners AJapanese seem to be a very Bindustrious nation. 

They are working all the time, Cfrom morning till night. (2014上智大) (正誤問題)

→ 想定された正解はAだが,AをJapanese people [the Japanese]に変えても正しい文にはならない。

この文のnationは「国民」ではなく「国家」の意味だから。

「次のような文ではnationではなくpeopleを用いる。

The Japanese are said to be an industrial people [×nation]. (日本人は勤勉な国民だと言われている)」 (ジーニアス英和)  

上智大にはネイティブの教員が山ほどいるだろうに,なぜチェックを受けないのか。

ちなみにこの英文は,内容的にも陳腐な印象を受ける。

 

(3)正解が1つに決まらない悪問

● He @told us Athat he Bis very Cwell. (2006東洋大) (正誤問題)

→ @が正しいと考えればBが誤り(→was),Bが正しいと考えれば@が誤り(→tells)。この種の,考えの浅い粗雑な問題は少なくない。  

● I felt @very Aalone when I Bmoved out of my parents' house Cfor the first time. (2003慶応大)(正誤問題)  

→ これも同様。@が正しいと考えればAが誤り(→lonely),Aが正しいと考えれば@が誤り(→veryを削除)。

He organized several exhibitions, (   ) in Paris in 1990.

@ the first of them was taken place  A the first of which took place  

B the first one held  C the first of that was held (2017東京造形大)

→ AもBも完全に正しいが,出題者はどちらを正解だと考えたのか? 

●He wants to buy a sports car if he can afford (   ).

@one  Athis  Bsome  Cthat (2009関西学院大)

→ @のほかCも正解。a sports carは「不特定の1台の車」「ある(特定の)車」の2つの解釈が可能であり,後者の場合は空所にit(またはthat)が入る。

●彼女は上司と言い争いをした後に辞職した。

She (   ) her job after an argument with her boss.

@quit  Aquits  Bquitting  Cquitted (2017名古屋学院大)

→ 想定された正解は@だが,イギリス英語ではCも使う。出題者はこんなことも知らないのか?というレベル。

●The automobile industry @is experimenting with a new Atype of a motor that will consume less gasoline and cause Bmuch Cless pollution. (2017早稲田大) (正誤問題。どれか1つは誤り)

→ 正解なし。想定された正解はA(a motor→motor)だと思われるが,Aは実際に使われる。

「that kind of book [(くだけて)a book]。... 以上のことはsort,typeにも当てはまる。」 (ウィズダム英和)

●The president of our company suggested (   ) business with that major hotel chain.

@us to do  Ato us to do  Bwe do  Cwe did  (2003早稲田大)

→ 想定された正解はBだが,「社長が提案して実際に当社はそのホテルチェーンと取引をした」という事実を伝える状況ならCも可能。

仮定法現在と過去形を選択させる同様の悪問は山ほど見つかる。  

You should take @more care of Ayourself. Have you Btaken a medical checkup Crecently?2019杏林大(正誤問題)

→ 出題者の想定した正解は@(→better)だろうが,Netspeakではtake better/more care ofは86,000:11,000で,moreも間違いとは言えない。

今はネットで簡単に調べられるのだから,出題者には「自分が誤りだと想定している選択肢」が本当に使えないのかを確認してもらいたい。

 

(4)高校生にとっていたずらに難しい悪問

このタイプの悪問は,便宜上次の3つに大別できる。

[A]大半の受験生が知らない語彙を尋ねる問い

[B]状況が説明不足で意味がつかみづらい問い(上智型)

[C]「誤りなし」という選択肢が問題の難度をはね上げている問い(早稲田型)

以下は[A][B]の例。[C]の例は(5)を参照。

● Takahiro was smiling from (   ) to (   ) during the entire wedding ceremony.

@eye 〇Aear Btooth Cwrinkle (2012近畿大)

→受験生は自分の持っている単語集などで学習する。それらに載っていない表現を出題されたら,ヤマカンで答えるしかない。

つまりこの種の問いは,弁別力が低い。

● “Are you a former judge who happens (   ) know Pashto and seeks foreign adventure?”

@do Ato Bthat Cdoes (2009国立看護大学校)

→誰がどんな状況でこの文を発しているのか想像しがたい。この種の悪問が最も多く見られるのは,間違いなく上智大だろう。

※上智大の入試制度は2021年度に大幅に替わったが,学部が独自に作成した英語の問題は21年度入試では大きな変化はなかった。

● Like a pitcher @taken the mound on opening day, Frank Gehrke Agets the spotlight in California every early April. 

That’s when the Botherwise obscure state water official trudges into the Sierra Nevada mountains, Cmedia in tow

and Dplunges aluminum tubes into the snow. (2014上智大) (正誤問題)

→上智の正誤問題には,どこかの文章から抜き出した状況不明の英文が非常に多い。正解は@(taken→taking)。

※DeepL翻訳に訳させた結果は次のとおり(otherwiseがうまく訳せていない)。

開幕日のマウンドに立つピッチャーのように、フランク・ゲールケは毎年4月上旬にカリフォルニアで注目を浴びる。

それは、無名の州水道局職員がメディアを引き連れてシエラネバダ山脈を踏破し、アルミチューブを雪の中に突っ込むときだ。

補記(2023.4追記)

読者の方から情報をいただき,上の文の出典がわかりました(ワシントンポスト)。

https://www.washingtonpost.com/national/health-science/a-possible-new-way-to-manage-water-and-snow-in-thirsty-california/2013/04/28/280f27bc-ac2c-11e2-b6fd-ba6f5f26d70e_story.html

 

 

(5)早稲田大の文法問題に対する批判

早稲田の文法問題の大きな問題点は,次の2つ。

(1)対策学習のやりようがない。つまり指導者泣かせである。

(2)「できる子」ほど迷う。結果的に早稲田大学は,(もしかしたら出題者よりも)優秀な受験者を取り逃がしているかもしれない。

 

● @At the National Museum of Natural History, Julia Clark Awas shown a mysterious fossil that Bhad been collected years earlier in Antarctica, which Cit called “The Thing.” D誤りなし (2021社会科学)  (正誤問題)

→ 考えうる1つの答えはC(it→was)。しかし「できる子」なら,「itが自然史博物館を指すという解釈も可能では?それなら正解はDだ」と考えても不思議ではない。

つまり,選択肢Dの存在が問題の難度をはね上げている。さて,正解はCかDか?この問いをネイティブに解いてもらったら,「答えはCだ」と即答した。

しかし前述の説明をしたら「う〜ん…なるほどね。でもそれならitじゃなくてthe museumを使うだろう。この形だとit=fossilと解釈されるから」とのこと。

しかし出題者は,そこまで考えてCを正解と想定したのだろうか?  

● “@How was the movie last night, Aby the way?” “BIt was a little bit scary, Cbut really impressing.” D誤りなし (2014 法) (正誤問題)

→ 正解はCで,impressingはimpressiveが正しい。

しかし「できる子」は,「pleasantとpleasingが共存するのと同様に,impressiveと共存する形でimpressingという形容詞が存在するかもしれない」と考えたかもしれない。  

言語的事実としては,moving・touching・charming・fascinatingという形容詞は存在するが,(意味は似ていても)impressing・attractingという形容詞はない。

しかしそんなことを説明した受験参考書は(たぶん)ないから,生徒は対策学習のしようがない。

出題者は,自分が受験生の頃にこの問いを出されたら,果たして解けただろうか。

@No sooner Ahad Karen entered the meeting than she Bwas asked to make her presentation Cto the group. D誤りなし (2021 人間科学)  (正誤問題)

→正解はDだが,「できる子」はenter into (a) discussionからの類推で「Aのenteredの後ろにはintoが必要では?」と考えたかもしれない。

出題者がそのトラップを狙ったのなら,自ら優秀な生徒を振るい落としているようなものだ。

● There are many ways to turn a failure into a (   ).(空所に入らない語を選ぶ)

@chance Aprosperity Bsuccess Ctriumph Dvictory EALL CORRECT (2020 法)

→正解はAだが,コーパスではa prosperityの例はたくさん見つかる。

「こんな問題どうやって解くの?」と生徒から言われたら,指導者は「難しい問いは捨てなさい」と答えざるを得ない。

しかし,そんな問いを作った側の責任はどうなのか?

● abとの英文につき,文法的に正しいものを選べ。もし,abも正しければabの両方を,abも誤りならばcをマークせよ。

a. I’ve already GIVEN Chris it.

b. I’ve already GIVEN Chris that.

(GIVENが大文字になっているのは,これが文中で最も強く発音されることを示す) (2001 教育)

→ 何度か取り上げたことのある問いだが,大学で英語を教えている人でもこの問いの正解を出すのは難しいだろう。

※何人かのネイティブに尋ねた結果は,「どちらも正しい」。しかし,出題者の想定した正解はおそらくそうではないだろう。

 

総括。ちょっと調べればわかることを調べようとしない。よその問題をパクッってくる。

※入試過去問題活用宣言(https://www.nyushikakomon.jp/index.html)とはおそらく無関係。

「英文が間違っている」と批判されるのを恐れて,手垢のついた古い定型表現や脈絡なく抜き出した英文を出題する。

「入試問題を作る」という大きな責任を伴う仕事をなめているとしか思えない。

問題の本質は,出題者たちの能力ではない。彼らの職業倫理なのだ。

 

解決策はある。民間試験を利用する大学に財政上の優遇措置をするくらいなら,文科省はむしろ「正解を公表しない大学」にペナルティを課してはどうか。

また大学入試の質を査定するための第三者機関(ミニ学術会議のようなもの)を作り,質の低い問題を出す大学には補助金を減らすなどの罰を与えればよい。

そうでもしなければ,出題者たちの意識は変わらないだろう。

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