大人の英文法−コラム(22)

大学入試問題批判(3)

 

(7) 受験生への配慮が足りないと思われる問題(自由英作文)

● In 100 to 150 words of English, write a short essay in response to the following question.

What do you talk about at dinner with your family or friends?  (2014 慶応大・看護医療)

→ 「あなたは家族や友人とのディナー[夕食]の時に何について話しますか」という質問には,次のような問題点がある。

・普通の高校生が「友人と一緒にディナーを食べる」機会はほとんどない。

・「家族と一緒にディナーを食べる」という習慣がない,あるいはそれができない高校生の方が多いのではないか。

・仮にそのような機会があったとしても,そのときに出る話題は常に同じではなく,「習慣的に何について話しますか」という質問自体がナンセンスである。

● Write 120 to 150 words of English on one of the statements below. Indicate the number of the statement you have chosen. 

Also, indicate the number of words you have written at the end of the composition.

1  Governments must protect and promote so-called “endangered” languages that are disappearing quickly today. Explain why this is true.

2  Abraham Lincoln once said, “It has been my experience that people who have no vices have very few virtues.” Explain why this is true.

3  Recently, many governments around the world are legalizing marriage between two people of the same sex. 

Legalizing same-sex marriage is a good idea in Japan. Explain why this is true?   (2013 一橋大)

→ 3つの中からどれか1つを選んで答える自由英作文問題だが,どの課題にも問題がある。

・1の「少数言語の保護政策」については,普通の高校生はこのようなテーマについて予備知識を持っていない。

逆に,たまたま高校の授業に出てきた長文読解問題などでこの種の文章を読んだことのある受験者には有利な課題となる。

つまり1の課題は実質的に言語学に関する一般的知識の有無を尋ねており,英語の試験とは言えない。

・2は「欠点を1つも持たない人には長所もほとんどない」という言葉自体に矛盾がある。

論理的に物を考えることができる人間なら「長所がほとんどなければそれは『欠点』ではないか?」という疑問が当然起こるはずであり,

「これがなぜ真実なのかを説明しなさい」という問いには答えられない(「これは真実ではない」という論証ならできる)。

ちなみに「全国大学入試問題」(旺文社)には「欠点のない人は他人にも厳しく当たる」という趣旨の,苦し紛れの(非論理的な)模範解答例が掲載されている。

・3も「同姓婚を合法化することは日本ではよい考えである。その理由を説明しなさい」という尋ね方に問題がある。

賛否の分かれるテーマに関しては「賛成ですか,それとも反対ですか」と尋ねるのが普通だが,この問いは下線部の命題が真であることを前提としている。

このような問題の設定のしかたは出題者の個人的見解を受験者に押し付けることになりかねない。

また,一般に家族関係に関する問いはデリケートな問題を含んでおり,予備校の模擬試験などではタブーとされている。

※設問文のin Japanはisの前に置くべき。原文のように文末に置くと,「日本ではよい考えだが他の国ではそうではない」という含意が生じる。

 

What is a very important skill a person should have in order to be successful in today’s society? 

Choose one skill and give specific reasons and examples to support your choice. 

Write your opinion in about 100 English words, not counting punctuation marks. 

Put the number of words in your passage in the parentheses at the top.2022広島大)

この問いには出題者のバイアス,具体的に言えば「昭和のオジサン的メンタリティ」が反映されており,今日の若者にとって適切なテーマとは言えないのではないか?

河合塾広島校は正解例としてtime management skillsを挙げている。試験の答案としてはそれでいいだろうが,出題者にはこう問うてみたい。

「この課題には,あなたの次のような意識が反映しているのではありませんか?」

@a personとは,健常者である上昇志向を持つ男性のサラリーマン(またはビジネスマン)である。

Abe successful in today’s societyとは,金銭や地位の面で他者より優位に立つことである。

Bskillとは,Aの目的を達成するための技能である。

この自由作文が日本語の小論文課題(制限字数なし)であったなら,自分ならたとえばこう書く。

「将来仕事を持ち,結婚し,家庭生活と社会生活とのバランスを取りながら人生を送りたい」と考える女性Aがいる。

また「好きなことを仕事にしたい。収入は必要最低限でいい」と考える男性Bがいる。

そうした人々にとって,「今日の社会で成功する」とは具体的にどういうことだろうか。

ABが「私は今,自分なりに幸せだ」と感じた場合,それは社会的な成功と言えるだろうか?

その問いの答えがイエスであるなら,ABの両方に必要な「技能」というものが果たしてあるだろうか?

逆に答えがノーであるなら,「社会的成功」とは「周囲の人々によって成功者と認められること」と同義になるだろう。

そのために必要な「技能」はいろいろ考えられるが,ABのような人々,あるいは障碍者その他の社会的弱者は「社会的成功」にアクセスする権利がないのだろうか。

私はそうは思わない。「社会的成功」とは(出題者がおそらく想定しているような)物質的・対人的なものではなく,「社会の中に自分の居場所を見つけること」と定義したい。

そのために普遍的に必要なものは,目に見えるようなskillではなく,心のありかたではないだろうか。

人生の目標や幸福感は人によって異なるが,どんな境遇にあっても現在の自分をありのままに受け入れることが,最も大切だと私は思う。

抽象的な言葉で言えば,「自分の欲望をコントロールする力」だ。金持ちでも権力者でも自殺する人はいる。彼らは「社会的に成功した」と言えるのだろうか。

一方,たとえば障碍を持って生まれた子供の親は,世間的な意味での「社会的成功」を得るには大きなハンディを負っている。

しかしそういう人でも,その子に愛情を注ぐことで自分の人生を全うし,周囲の人々にプラスの影響を与えることができる。これも「社会的成功」ではないだろうか。

 

(8) 出題者の真剣さが足りないと思われる問題(読解問題)

●次の英文を読んで設問に答えなさい。(※この記事では英文を読む必要はありません)

I remember the first time I stared corruption in the face. 

It was 2010, and I was chairwoman of a Liberian government committee responsible for reforming the awarding of international scholarships. 

We discovered that a group of 18-year-old boys had altered their national exam records to make themselves appear (  A  ) for a scholarship to Morocco.

I wasn’t surprised; fraud has become a national pastime in Liberia. If you’re ethical and upright, you’re (  B  ) as stupid. 

If you’re ruthless, (    ) and cunning, you get praised as a national hero

When we invited these 18-year-olds to a meeting to try to (    ) them to confess, they initially sat stone-faced in their crisp white shirts and well-pressed pants. 

Then one of them cracked. “Yes, it was me. I did it,” he said. 

But more (  C  ) than the act of cheating was the fact that these young people believed they had done nothing wrong that falsifying documents was a legitimate exercise (  D  ) they didn’t get caught. 

They were simply imitating the kind of corruption they’d seen in school, government and the private sector

(以下略)

(1)  本文中の(  A  )(  J  )に入れるのに最もふさわしい語句を選び,その番号を解答欄に記しなさい。

(A)  1 accountable    2 eligible        3 unqualified    4 unsuitable

(B)  1 admired       2 appreciated    3 blamed        4 criticized

(C)  1 boring         2 disturbing     3 likely          4 timely

(D)  1 as far as       2 as long as      3 in case        4 in the case of

(2)  本文中の()()に入れるのにふさわしい単語となるように解答欄の綴りを完成させなさい。(活字体を使うこと)以下に示す,本文中に使われている意味の説明を手掛かりにしなさい。

() wanting more money, food, etc. than you need

() use reasoning to get someone to do something  (以下略)(2014 慶応大・医)

→ この読解問題は,原文に多数の穴を空け,そこに入る語を選んだり書いたりする設問のみから成っている。

私大入試ではこうした出題が多く見られる。問題を作る側にしてみれば,ほとんど労力を要しない楽な設問形式と言える。

しかし読解問題が「英語の文章を読んで理解する力」を測るものであるとすれば,この問いはまっとうな読解問題とは言いがたい。

その最もありそうな理由は,「楽をして問題を作りたい」「自分で英語を書くとミスをするかもしれないのでそれを避けたい」ということだろう。

※国公立大志望者向けの試験や英検など民間試験のリーディング問題にも穴埋め問題は多少出るが,穴の数は多くない。  

●次の英文を読んで下の問いに答えよ。

(本文は省略)

(4) 本文で述べられていることと一致するものを下のajの中から2つ選べ。

a. 今日でも,都市の交通渋滞を解消する最も有効な方法は,バイパスの数を増やすことである。

b. 近年になって,農業機械が新たに開発されたことによって,農産物の生産は飛耀的に増大した。

c. 科学技術がもたらした高度情報化社会では,ストレス解消のために麻薬に依存する人々が跡を絶たない。

d. 途上国において,生産調整を目指すのであれば,化学肥料や殺虫剤の使用は有効ではない。

e. どの分野においても,科学技術の進歩は止まるところを知らず,その勢いに衰えは見られない。

f. 農地に施す化学肥料を増やしでみたところで,作物の単位面積あたり収量減を防ぐのは難しい。

g. 今世紀になって,アメリカでは医療技術の向上によって,国民の平均寿命が大幅に伸びた。

h. 科学技術がもたらした災厄の数々は,科学技術を徹底的に管理することによって防止できる。

i. 現代の科学技術を駆使してさえ,都市によっては交通渋滞一つ解決できないのが現状である。

j. かつては人類に明るい未来を約束した科学技術であるが,今や人類滅亡の元凶と化した。

(5) 本文からの推論として最も適切なものを下のaeの中から1つ選べ。

a. 科学技術とは何かについて,人類は再考する時期にさしかかっている。

b. 科学技術が直面する難問は,科学技術によってしか解決できない。

c. 科学技術の世界は,無限の可能性を秘めた新時代に突入しつつある。

d. 科学技術の暴走は,歯止めのきかぬ自然破壊を引き起こそうとしている。

e. 科学技術の向上のためには,各国政府のさらなる投資が必要である。(2014 早稲田大・社会科学)

→ 「本文の内容と一致するものを選べ」という形式の設問を作る場合,私大入試では選択肢を日本語にしているケースがよく見られる。

これもおそらくは,出題者が適切な英文選択肢を書く自信がないからだろう。

しかし日本文の選択肢も質の低いものが多く,上の問いの場合,本文を読まなくてもある程度正解を絞り込むことができる。

(4)では,少なくとも(下線を引いた)a・c・e・hは常識的に考えて正解になりそうになく,jのような極論もおそらく間違いだろう。実際の正解はf・iである。

(5)もaが最も正解らしい選択肢であり,実際にこれが正解である。

出題者に対しては,もう少し真剣に問題作成に取り組んでほしい,と言うほかはない。  

 

【補記】

「悪問」というほどではないが,入試のリーディング問題にはしばしば原典のリライトが見られる。

次例は東大の問題だが,ここまでして「文法問題」を出す必要があるのかという疑問を禁じ得ない。普通に原文を読解問題として出せばいいのではないか。

●次の下線部(1)〜(5)には,文法上あるいは文脈上,取り除かなければならない語が一語ずつある。…

(1)Of all the institutions that have come down to us from the past none is in the present day so damaged and unstable as the family has

(2)Affection of parents for children and of children for parents is capable of being one of the greatest sources of happiness, but in fact at the present day the relations of parents and children are that, in nine cases out of ten, a source of unhappiness to both parties. 

(3)This failure of the family to provide the fundamental satisfaction for which in principle it is capable of yielding is one of the most deeply rooted causes of the discontent which is widespread in our age.  deeply rooted causes of the discontent which is widespread in our age.  (以下略)(2014東京大)

【答】水色マーカーが取り除く語。

【訳】過去から私たちに受け継がれてきたあらゆる制度のうち,今日では家族ほど損なわれ不安定になっているものは1つもない。

親の子供に対する愛情と子供の両親に対する愛情は幸福の最大の源の1つになりうるが,実際は今日の親子関係の9割方は両者にとって不幸の源になっている。

家族が原理的には産むことができるはずの満足を与えられないということは,現代に広がっている不満の最も根深い原因の1つである。

出典はBertrand RussellThe Conquest of Happiness1930年刊)。原文は次のとおり。赤字の部分が原文からリライトまたは削除されている。

Of all the institutions that have come down to us from the past none is in the present day so disorganised and derailed as the family. 

Affection of parents for children and of children for parents is capable of being one of the greatest sources of happiness, but in fact at the present day the relations of parents and children are, in nine cases out of ten, a source of unhappiness to both parties, and in ninety-nine cases out of a hundred a source of unhappiness to at least one of the two parties. 

This failure of the family to provide the fundamental satisfaction which in principle it is capable of yielding is one of the most deep-seated causes of the discontent which is prevalent in our age.

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